後編
ふと、なんとなくそこの前を通ろうと思ってしまった。
「あ…」
そこには、彼女が座っていた。
僕はそっと近づき、ただ座らず彼女を見下ろした。
「彼氏でも待ってるの?」
「桜井くんを待っていたわ。」
彼女顔に嘘と書かれている気がした。
「嘘つけ。」
「もしかして、この前のこと?」
ドキッとした。
「楽しそうだった、僕が君といたら邪魔だよ。」
「アレは塾の友達なの。彼氏とか、そうゆうのじゃないわ。」
ホッとした。
でも、素直になれない自分がいる。
「座って。」
席とりの為に置いていたカバンをイスからどけると優しく彼女は微笑んだ。
今日は、彼女が僕を待っていた。
「昨日も待ってたの?」
「あなたが来てくれる日が来るまで、いつまでと待とうと思っていたわ。」
「…そう。」
「彼氏に迷惑だと思って、来なかったの?」
「裏切られたと思って、来なかった。」
彼女は何のことをいってるのかわからない、という顔をした。
自分だけヤキモチやいて、バカみたいだ。
「あなたが僕の事を好きだと思ってたから。」
聞き終えると顔を真っ赤にした。
「あっ、えっ、あのっ…!」
自分から言ったのに、恥ずかしい。
告白と同じだ。
「私も…私も、あの時来てくれなくて、辛かったです、風邪引いたりしてないかとか、心配もしました。」
一生懸命喋ってくれる。
ああ、僕の思っていた事は間違ってなかったりするのかな。
「言いたいことあるんだ、言っていい?」
「…はい。」
「付き合ってください。」
「喜んで。」
会話が終わった。
嬉しいやら、恥ずかしいやら、驚きやら。
どうすればいいのかわからない。
「あっ、名前…」
「名前?」
「僕、あなたの名前も高校も知らないんです。」
「私、あなたと同じ高校ですよ?」
「え?」
だって違う制服で…
「あっ」
「つい先日、転校してきたんです。」
そうだ、最近転校してきた子がいるって言ってたっけ。
だから僕が見慣れた景色だと思っていたものを楽しそうに眺めていたんだね。
生徒手帳を渡される。
名前は、柏木遥。
少しはなれたクラスだ。
「田舎から来たの?」
「そこそこ田舎から。」
「じゃあ、今度の土曜日にでも街を紹介するよ。」
「ありがとう。」
「遥、ちゃん。」
名前を呼ばれると少し照れくさそうな顔をした。
見慣れた夜景は、いつもより綺麗に見えた。