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破滅の光  作者: つづら
1部
4/4

02

 真っ暗の空、夏の気配など少しも感じられない気温。

 ひんやりした路上を小走りしながら、スカイとルイ、そして美麗(ミレイ)ノアは通っていた。


 「訊きたいことがいっぱいある」


 スカイは少女のことは、まだ名前しか知らなかった。ノアは足の歩調を遅めることもなく、淡々と喋り出した。


 「その前に、君達の名前を教えてくれる?話づらいから」


 2人は、名を名乗った。そして、2人は疑問を一刻も早く解消しようと、質問攻めを始める。


 「まず、君は一体何なんだ?」

 「……ノアよ。これ以上教えることはない」


 ノアはそっけなく言う。歩調が速まっている気がした。


 「さっきの怪物は何だったんだ?」

 「あれはサイバーラインが製造した抹殺機だと思う。もう誰かに壊されてたけど。君達は暴走した機械に巻き込まれちゃったってわけね」

 「ちょっと待てよ。何でサイバーラインがそんな危険なもの作るんだよ!抹殺機なんて……!」

 「……それについては話が長くなりそう。今は急いでいるし、そろそろ質問する暇がなくなってきたかも……」


 ノアの歩調は一層速まっていた。スカイはノアのあせりを感じる。

 大変そうだったし、質問も後回しにしようと思ったが、大切なことを忘れていた。


 「あ!大切なことを訊かなきゃいけねえじゃん」

 「……何?」

 「俺達は今どこに向かってんだよ!」

 「あれ、言ってなかったかな。私達は、一刻も早くセンターパークを脱出しようとしてるの」


 2人して「はあっ?」と言った。


 「何でセンターパークを出なきゃいけねーんだよ!ハルを置いていけるわけないだろ!」

 

 ノアはえっ、と声を出し、足を止めて振り返った。


 「他にも友達がいるの?」

 「いないなんて言ってないだろ!」

 「そんな……」


 どうやらまったく計算外だったらしい。ノアはしばらく悩むような動きをしてから、顔を上げ、2人の方を向いた。


 「そのハルって子、苗字を教えて」

 「え……咲夜(サクヤ)だけど……」


 ノアはまた黙り込んだ。さっきよりも長い時間悩み続けている。

 しばらく時間がたって、やっと結論が出たようだ。


 「置いてきましょ」


 またもや2人して「はあっ?」と言った。


 「馬鹿かよっ!自分で緊急事態だとか言ってんのに、ハルを見捨てんのかよ!」

 「緊急事態だからこそ、急いでるの!今更呼び戻すのは不可能よ!」


 ルイも口を挟む。


 「君の都合は知らないけど、いくら大変な状態でも、サクヤを見捨てることはできないね」

 「待ってよ!話を聞いて。いい?もうすぐセンターパークが封鎖されちゃうの!」

 「え?それってどういう……」

 「君達が脱出するだけで精いっぱいなの。今ハルを連れに行ったら、全員閉じ込められちゃう!」

 「なんだよそれ!聞いてないぞ!」


 センターパークが封鎖される?意味がわからない。スカイは、これ以上わからないことが増えてほしくないから、ついすぐに追及してしまう。


 「じゃあ、何で俺達なんだよ?センターパークには、今人が100万人以上もいるんだぞ!」

 「……それは、君達が特別だから……」


 スカイはますます苛立ちが暴発してきた。スカイとルイが特別扱いされる理由は何なんだ?新たな疑問が増えていくばかりだ。

 すかさずルイがノアに訊いた。

 

 「特別の意味は……今は教えてくれなさそうだね。サクヤに連絡はしていいの?」

 「……やめといて。面倒なことになりそうだから」


 ◇  ◇  ◇


 スカイもルイも、自然とノアに抵抗しなくなっていた。わからないことは増える一方だが、なんだか信用してもいい。そんな気がしていた。

 そして気がついたらセンターパークと隣町との境界に来ていた。

 ノアは、2人を置いて走り出した。境界線のあたりに駆け込み、手を広げる。そして、がくっ、と(ひざまず)いた。2人はノアの方に駆け寄る。


 「どうしたんだ?」

 「……間に合わなかった」

 「どういう意味なの?」

 「もう、センターパークは封鎖されてる……」


 封鎖された、とはどういうことだろう。目の前には、普通に道路が広がっている。何も仕切りはない。ルイも同じことを思ったらしく、


 「何もないじゃないですか…」


 といって、躊躇(ためら)いなく境界の先に足を踏み込んだ。

 すると、一瞬で、黄緑色の光が幕のようになびき、ルイの足を包む。ルイは声をあげて足を引き戻した。みるみるうちに光は消えていった。


 「い、今のは……?」

 「センターパークの境界上にある仕切りよ。光は包むとその人を動けなくする。正確には、いくら前に進んでも、同じ地点に戻される状態にする、かな」

 「それが、センターパーク全域の境界にあるのか?」

 「おそらく、ね……」


 なんてことだ。スカイとルイだけでなく、センターパーク内にいるすべての人が、この街に閉じ込められてしまったのだ。

 その時、そびえる大きなビルにつるされているパネルに、何かが映った。

 大きな椅子に足を組んで座っている、男だ。スカイは、一度ニュースで見たことがある。

 その姿は、誰もが知っているであろうサイバーラインの社長、桧田(ヒワダ)ユウスケだった。


 町中の、スピーカー、テレビなどいたる所から桧田ユウスケの声が聞こえた。


 『やあ、センターパーク内の諸君。突然にすまない』

 

 ざわめきが聞こえた。どうやら、桧田は、センターパークの人中に放送を始めたらしい。


 『私は、サイバーライン社長、桧田ユウスケだ。今日はセンターパーク内のすべての人に、話したいことがある』


 淡々と、桧田は喋り始めた。


 『私たちサイバーラインは今までこの国のコンピュータネットワークを管理してきた。そして、このセンターパークのアトラクションを運営してきた。しかし、それらはすべて、今日から始まるサイバーラインの大事業のための布石だったのだ』


 ざわめきが強まる。みんな戸惑いの表れた顔をしている。スカイ自身も、桧田は一体何を言いたいのだろう、と思っていた。

 

 『勝手ながら、先ほど、このセンターパーク全域を封鎖させてもらった。住人の者たちには不便ないだろうが、遠征で来た者たちには、申し訳ない。これも、その事業を成し遂げるためには必要なことなのだ』


 多くの人が、町から出ようとしていた。だが、封鎖された町から、誰も逃れられなかった。そして、ここから出せ、助けて、などの叫び声が聞こえ始めた。


 『今は慌てる者もいるかもしれない。だが安心してくれ。われわれは、君たちに一切害を与えるつもりはない。ただ、事業の邪魔者、()()()()()()()すべてを抹殺する。それが終わったら、諸君らを解放しよう』


 (才能を持つ者達?なんのことだ?それに抹殺って……)


 パネルに映っていた桧田の画面は消えた。多くの人は、「抹殺」という言葉に恐怖を覚え、パニック状態に陥っている。

 ノアは周りの状況とは関係なく落ち着いていた。スカイとルイも、この事実を先に知っていたからか、精神状態は安定している。


 「こういうこと。わかった?さっきの怪物も、()()()()()()を抹殺するための機械」

 「おい、待てよ……じゃあ、俺達が怪物に襲われた理由って……」

 「いや、あの時は故障していて暴走していただけだと思うわ。でも、あなたたちは正真正銘の()()()()()()だわ」


 2人はまたまた合わせて声を上げた。どういう意味だろう。それに、()()()()()()ってなんなんだ?疑問がまた頭に浮かんできた。


 「今はまだすべては話さない。次の目的地があるから。あと、ハルって子も携帯で呼んでおいて。あと言っておくけど、携帯電話等での連絡は、センターパーク内でしかできないから。じゃあ、待ち合わせ場所は、第3地区の中華街でね。あと!ハルには、何も言わないでおいて」


 それだけ言うと、ノアは走り去った。スカイとルイは目的があるにもかかわらずただ茫然としていた。

 何が何だかわからないことが多すぎる。3人はただ、純粋に、懐かしい思い出をよみがえらせながら楽しみたかっただけなのだ。それなのに、怪物に襲われたり、町に閉じ込められたり、散々な思いばかり。

 

 スカイは町中の人々のように恐怖に陥る気も、家に戻れない悲しさに泣く気すら起きず、携帯電話に手をかけた。

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