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破滅の光  作者: つづら
0部
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01

 「……という訳です」

 

 森下(モリシタ)テルは、一通りの話をスカイに話すと、一息ついた。

 

 桐戸(キリト)スカイは、中学2年生になったばかりの14歳だ。真っ黒で短い髪の毛で、制服はきっちりしているが、右手の中指には、闇夜を描いたような漆黒の宝石が小さく目立つ指輪をはめている。これは明らかに校則違反なのだが、それが深い意味を持つことをスカイが説明したら、咎める者はいなくなった。スカイは、この指輪にかける想いを暴露したことで、指輪をつけられるようになったが、実はその内容は全くのデタラメで、指輪をつける本当の意味は、誰にも言っていない。

 性格は、わいわいせずみんなの輪には入らないタイプ。本を読むほうが楽しいからだ。また、幼いころから弱虫で、小学校時代はいつもみんなにからかわれては泣いていた。しかし、中学に入ってからはそんなことはなくなった。校則が不良グループを縛り付けているからだろうか。

 最近は、真面目でしっかりしているという印象が強いらしく、スカイを頼りにするものも多い。そんな生活が落ち着いていた。

 

 今回も、1年の森下テルという新聞部の女子に依頼をされたのだ。スカイとテルは直接的な接点はなく、スカイの友達の咲夜(サクヤ)ハルの紹介で知り合った。基本、面倒くさがりのスカイは、こういうおせっかいな時のハルを嫌っている。

 今は2年1組の教室前で、ハルとテル、スカイの3人で話している。


 「スカイ、出番だよっ。またいいとこ見せちゃいなよ!」

 「……うるさいな。面倒なことを俺に持ちこむなって、いつも言ってるだろ」


 いーじゃん、とハルはテルの依頼をスカイに押し付ける。

 

 (また面倒なことを……。遠くに行くなら尚更(なおさら)だよ……)

 

 依頼の内容は、いままでで一番手間のかかるものだった。

 大都市の中心街<センターパーク>。そこは巨大な遊園地で、<サイバーライン>というコンピュータセキュリティーの会社が経営している。そこに新しいアトラクションができたらしい。

 

 うちの学校でも大人気で、新しいアトラクションができる度に、学校新聞で公開され、学校中に宣伝をする。

 テルは、新聞部1年にして、1面の仕事を任された。これはそうないことで、テルはいつも以上に張り切っていた。早速取材のスケジュールを立てて準備をした。

 しかし、急用ができて、取材ができなくなってしまった。そこでそのアトラクションの取材をスカイとハルに頼んだのだった。


 「インタビューの内容はメモっときましたから。あとアトラクションの写真も忘れずに撮って……」


 すらすらと早口で用件をハルに伝えると、では、と教室に戻って行った。休憩時間ももう少しだ。


 「明日行ってさっさと済ませようよっ。スカイはどうせ用事ないでしょ」

 「ないけど、お前記念祭だから行きたいだけだろ……」


 ハルはぎく、とわざとらしい声を出した。長年の経験からハルの作戦は読めている。ハルはおせっかいな性格もあるが、だいたい持ち込む依頼は自分にとって有益なものだ。今回もその通りで、センターパーク15周年記念祭を狙ったものだった。


 「やっぱばれてたか……。でも、テルのためってのもあるんだからねっ」

 「わかってる。それより、俺を持ちこむ必要ってあんのか?お前ひとりで行けばいいのに。もしかして、俺と……」

 「ばーか!そんなこと絶対ないってスカイもわかってるでしょ。アンタが(コク)って、あたしが振った。覚えてんの?」

 「その話はするなよ!トラウマなんだから……」

 「……で実際は、スカイとルイも誘って遠くで遊ぶのもいいかなって思ったの。それぐらい察しなさい、鈍感男!」

 「うるさいってば。ルイもか……でもアイツOKするかな?塾なんて毎日あるし、俺と同じく面倒くさがりだし」

 「だから、スカイも一緒に説得してほしいんだよ!」


 休憩時間が終わるチャイムが鳴った。


 ◇   ◇   ◇


 放課後、足早に昇降口を出たスカイは、隣のクラスの日ノ出(ヒノデ)ルイの下駄箱を見た。まだ外靴は残っている。よく見るとルイの靴はとてもきれいで、使い始めて1年たっているとは思えない。ルイの性格がとても表れていて、少し笑ってしまった。

 間もなくルイがバッグを持って現れた。すこし軽い足取りだった。スカイよりも整理された身のこなしで、いかにも秀才そうなメガネをかけている。いや、実際秀才なのだが。

 ルイ、と声をかけて呼び止めた。


 「スカイか。どうしたの、君にしては下校が早いじゃない」

 「今日は話があるんだ、ってハルは?ルイは見てないか?」


 ルイは首をかしげる。


 (自分から誘ったくせに……)


 しばらく立ち止まっていると、ルイがスカイに怪訝(けげん)な顔をして言った。


 「待つの?面倒だな」

 

 これにはスカイも大いに共感できた。人を待つのは退屈で嫌いだ。それにルイは塾がある。いつもどこにもよらず帰るのはそのためだ。仕方がない、1人で話をつけよう。

 声をかけて2人で門を出た。


 二人で帰るのは久しぶりのことだった。小学校5年生ごろからルイは塾通いで忙しくなり、一緒に帰れなくなった。最近では、喋ることも少なくなってきている。

 懐かしい思い出を頭に浮かべながら、道を2人で並んで歩いた。


 「それで、話って何?」

 「そう、それだけどさ、明日ハルと3人でセンターパークに遊びに行かないか?」

 「……」

 「新聞部の子に、取材を頼まれちゃってさ、それで、ついでに遊びに行けたらな……って」


 多分、最初の返答は「無理」とかだろうと思っていた。でも予想とは正反対の答えが返ってきた。ルイは笑みを浮かべていた。


 「3人で遊園地行くなんて何年ぶりかな……いいよ、取材も手伝うよ」

 「えっ?いいのか?」

 「うん。実は明日、塾が休みになったんだ」

 「マジで?あの超スパルタ塾が?」


 あの塾が休みになるとは思えない。ルイがご機嫌だったのはそのためだったのか。スカイは、何の反対もされずにすんなりと決まったことに驚いていた。


 分岐点が見え、ルイと別れた。ハルにメールで結果を送り、帰宅した。

 荷物を無造作に放り投げ、着替えを済ませる。スカイも内心楽しみだった。面倒事ではあっても、3人で遊べるのは久しぶりだし、最後かもしれない。早速準備をしなくては。


 (でもその前に、行かなきゃいけないところがあるんだな)


 時間は4時半。家を出たスカイは、山が見える方角へ走った。

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