プロローグ
春が終わり、太陽が高くなって夏に入ろうとしているある日。
俺は戦場にいた。
手には大口径の自動拳銃。ホルスターの中には予備のマガジンと弾丸。
拳銃からは火薬の臭いがしている。
銃口の先に転がるもの。それは死体。眉間に赤黒い穴を開け、見開いた目はじっと俺を見ている。
「そんな目で…見ないでくれよ…」
俺は震える声でそう呟く。
俺の目からは涙が出てくる。仕方が無かった。仕方が無かったんだよ畜生…。
「くそ!くそ…!くそ…くそ…」
俺は涙を堪えることなく膝から崩れ落ち、地面を殴る。殴り続ける。拳がコンクリートに打ち付けられ血が飛び散るが殴り続けた。痛かった。それでも俺は殴り続けた。
突然聞こえた銃声に俺は振り返る。T字路の突き当たりに同じような黒光りする銃を構えた少年が立っていた。
その銃口は自分に向けられており煙が上がっている。震える手から察するに外したのだろう。
少年は再び俺に照準を合わせてトリガーに指を掛け、力を込めていく。俺は死を覚悟し目を瞑る。
瞬間銃を撃つ音が聞こえた。だが身体にはなんの衝撃も痛みも感じない。…外した?そう思うと同時にばたっ、と鈍い音。目を開けると頭から血を流し倒れている少年がいた。
「う……うわああああああああああ」
途端に銃声。
少し離れたところから叫び声と同時に銃声が聞こえた。多分目の前の少年を撃ってしまったことで自殺を図ったのだろう。
また呼吸が荒くなり脈打ちが速くなってきた俺は、唇を噛み締めると近くの家の路地裏に隠れた。