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夜、オニオンスープに思いを馳せて

作者: P4rn0s
掲載日:2026/03/12

深夜のコンビニは、とても静かだ。


昼間のような慌ただしさもなく、

夕方のような少しの喧騒もない。


ただ、冷蔵ケースのモーター音と、

棚を照らす白い光だけが淡々と続いている。


私はスープの棚の前で立ち止まる。


なんとなく今日は、オニオンスープの気分だった。

理由は特にない。


ただ、寒い夜にはあの匂いが少しだけ安心する気がしたからだ。


棚を一段ずつ目で追う。

コーンスープ。

クラムチャウダー。

ミネストローネ。


オニオンスープは無かった。


売り切れなのか、そもそも置いていないのかは分からない。

けれど、その事実は妙にあっさりしていた。


ああ、無いのか。


それだけのことだ。


大きな出来事でもない。

店員さんに聞くほどでもないし、

別の店を探すほどの理由もない。


私は少しだけ棚の前に立ってから、

結局なにも取らずにその場を離れる。


今日の悲しみは、

オニオンスープがコンビニに無かったこと。


それだけだ。


店を出て歩きながら、ふと考える。

じゃあ今日の幸せは何だっただろう。


少しだけ考えてみる。

歩きながら、頭の中で一日を遡る。


朝起きて、仕事をして、帰ってきて、コンビニに寄った。


特に思い浮かばない。


今日の幸せは、特に無かった。


別にひどい一日だったわけじゃない。

怒られたわけでもないし、何かを失ったわけでもない。


ただ、何も無かった。


なのに、オニオンスープが無かったことだけは妙に記憶に残っている。


私はふと、変な考えに辿り着く。


もしかして、人は毎日ほんの少しの絶望を積み重ねて生きているんじゃないか。


大きな絶望じゃない。

そんなものは滅多に来ない。


代わりに、小さなものがある。


欲しかったものが売り切れていたとか。

楽しみにしていた動画が更新されていなかったとか。

ちょっとした言葉が引っかかったままだとか。


そういうものが、毎日ほんの少しずつ積み上がっていく。


けれど、同時に思う。


本当は逆なのかもしれない。


幸せより、絶望の方が心に残るだけなのかもしれない。


例えば今日だって、何も悪いことは起きていない。


寒い夜に外を歩いて、ちゃんと帰る場所があって、財布にはまだ少しお金が入っている。


それでも私は、

オニオンスープが無かったことを覚えている。


人間の記憶は、少しだけ意地が悪い。


良かったことより、足りなかったことを覚えている。


そんなことを考えながら歩いていると、

少しだけ可笑しくなる。


こんな風に考えたところで、幸せが増えるわけじゃない。


哲学みたいなことを思いついたところで、

明日コンビニにオニオンスープが並ぶ保証はどこにもない。


結局、人は同じような日々を過ごす。


小さな期待をして、

小さく外れて、

それでもまた次の日を始める。


家のドアの前で、私はポケットから鍵を取り出す。


もしかしたら明日は、オニオンスープがあるかもしれない。


そんな程度のことを、ほんの少しだけ考えながら。

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