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ヴァイオレントヴァイオレンス  作者: 遊里翔


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第二話 殺戮輪廻

第二話 殺戮輪廻

 その日、神戸はよく晴れていた。

 鬼童司が通う小学校の校庭には、運動会の練習の声が響いていた。笛の音、笑い声、砂埃。どこにでもある平凡な午後。

 司は校庭の端に立ち、同級生たちが走るのをぼんやり眺めていた。

 周囲より頭一つ小さい身体。細く、色白で、どこか女の子のような顔立ち。教師からは「大人しい良い子」と評される少年だった。

 だが、その身体は異常だった。

 体育の時間、跳び箱が壊れた。

 鉄棒が曲がった。

 握力計は針が振り切れた。


 医者は首を傾げた。


「ミオスタチン関連筋肥大……しかし筋量ではなく、密度が異常だ」


 筋肉が多いのではない。筋肉が 重すぎる のだ。

 皮膚の内側に鉄が詰まっているような身体。それが鬼童司だった。

 しかし彼にとって、それは特別な事ではなかった。生まれた時からそうだったからだ。思い描いた動きは全部できたし身長は低いが体重は同世代の倍近くあった。

 司にとって特別だったのは、両親だった。


 父、鬼童義龍(ぎりゅう)

 神戸一帯に十数店舗を構えるパチンコチェーンの社長。地主でもあり、資産は莫大だった。だが、司にとってはただの優しい父親だった。

 母、鬼童夏美(なつみ)

 専業主婦で、いつも穏やかに笑っていた。司の銀髪を梳かすのが好きだった。

 裕福で静かな家庭。優しい父と母に育てられて何不自由なく暮らしていた司は幸せだった。

 それが壊れるとは、司は一度も想像したことがなかった。

 崩壊は、夕暮れに起きた。

 その日、司は学童を休み、早く帰宅した。特に理由はなかったがなんとなく早く帰りたかった。

 リビングで宿題をしていると電話が鳴った。

 受話器の向こうは、知らない男の声だった。

「鬼童司くんですか。落ち着いて聞いてください」

 その言葉の続きを、司は一生忘れない。

 同時刻、六甲アイランド近くの湾岸道路。

 父の黒いセダンは赤信号で停止していた。助手席には母。

 何気ない会話の最中だった。

「今日、司の好きなハンバーグにしようと思って」

 その言葉が終わる前に、車のドアが開いた。

 男が二人。黒いマスク。サブマシンガンを構えている。

「何だお前ら——」

 そこで言葉は途切れた。

 パララララ………………

 母の悲鳴。ガラスが割れる音。逃げ場は無かった。

 運転席。助手席。密室。機銃掃射は止まらなかった。頭部が形を失うまで。

 警察署の空気は冷たかった。


 金属椅子の硬さ。蛍光灯の白い光。コーヒーの焦げた匂い。

「ご両親は即死でした」

警官は目を逸らしたまま言った。

「荒井雷組という暴力団から、みかじめ料を要求されていたようです」

「事件としては捜査中ですが……」

 親戚に連れられて一緒に説明を聞いていたがその言葉の続きを司は聞かなかった。

 

その夜、司は初めて自分の身体を殴った。拳を壁に叩きつける。石膏が砕け、血が滲む。痛みはなかった。代わりに脳の奥が熱くなる。


 快感。

 静寂。

 心が凍る。


 医者の言葉が蘇る。


「エンドルフィンやアドレナリンの分泌が異常に多い」


 殴るほど、心が落ち着いた。机にノートを広げる。神戸市の地図。テレビ。新聞。ネット。


 暴力団。

 半グレ。

 不良チーム。


 名前を書き込む。線を引く。勢力図を作る。小学四年生の夜だった。

「まず不良を支配する」

「次に半グレ」

「最後にヤクザ」

復讐ではない。 復讐は終わる。支配は終わらない。

「街を奪う」

 それからの日々は勉強だった。

 ニュースを読み、事件を調べ、資金の流れを理解する。格闘技動画を見続け、人体を研究する。夜の公園。鉄棒を握る。ゆっくり力を込める。鉄が歪む音がした。確信した。

「俺は、殺せる」

卒業式の日。桜が舞っていた。子供たちは未来を語り、笑っていた。司は一人、校舎を見上げた。「俺が支配者になる」

それは決意ではない。計画の開始だった。

 鬼童司、十二歳。神戸の支配者になるための人生が始まった。それは同時に荒井雷組を潰すと言うことだ。

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