1-9 魔王
「時の牢獄!」
「血の祭典」
「オーバーキルすぎる……」
マリスの攻撃により、リエルへの刺客がぐちゃぐちゃになった。
「こういう時のための時の牢獄だ。ほら見たまえ。みるみるうちに形が戻っていく」
ふふん。最近覚えたのだ。
魔法、僕も使えた方がいいと思ってさ。片っ端から試してみたら古代魔法って呼ばれてるやつが使えた。使い勝手が良いので気に入っている。
「すごいですわね」
「おえ……いや俺に吐く機能とかないんだけどやっぱつれえわ……」
そうは言うものの、リエルは別になんともなさそうだ。口を抑えて気分が悪そうなジェスチャーをしつつ、興味深そうに眺めている。
むしろマリスの方が少し様子がおかしい気さえもしてくる。光悦としているというか。
「な……俺今……え……なんで……ひ……」
刺客の意識が戻ったようだ。
「!私の質問に答えられないならその口切り飛ばしますわよ」
「あ……あ……言います……言いますか……ら」
随分怖がっている。
マリスの魔法は見た目が凄惨でこそあれ、そこまで痛みを伴うものでも無かった気がするが精神の苦痛も伴うものなんだろうか。
◇または、
「無くなったものへの取り戻したい欲というところか。これだから矮小な人間共は、ふふ。……ええとそうじゃないんだったな、まずは身体検査だ」
僕の優れた眼でくまなく確認する。
ナイフが見える以外はとくに不審な点は見当たらない。
「ああ、あまりにもグロかったから周りからは隠しておいたからな?まぁ強引かつ強力すぎて勘の良いやつにはそこだけ白抜きに見えてるんだろうが……アレが見えるよりはマシだろ……」
便利だ。やはり魔王は余裕あるな。
「勘がいいんだったか、しかしそこまで手練には見えないね」
「男爵家もお金が無いとは言え、本家の人間を暗殺に使うとはどうかしていますわ」
「これは精神干渉魔法みたいだな」
魔王がどうでもよさげに言いながら、首元をつつく。
「精神干渉魔法!?レアだね、しかしなかなか奇怪な術式だ」
「さすが崩落人形、解析もできるのか」
その言葉に、思わず魔王を見る。
「君さ……いいか。とりあえずこの国で精神干渉魔法を使えるめぼしい人物は魔王くらいだね」
言ってから魔王は人間ではなかったから、人物ではないのでは?と思い直した。
次からは気をつけよう。
「魔王……ああこの人はそういえば魔王でしたわね。あれ、そうすると……」
「いや俺じゃねぇぞ!」
魔王が軽快に笑っている。
振動して僕の髪が揺れるのが不愉快だ。やめてくれ。
「魔王の魔法は僕にすら観測させないきもちわ……なんでもない。素晴らしい技術だからね」
「うん、聞かなかったことにするわ」
「そうすると、めぼしくない人物になるわけだが。魔王は心当たりがあったりしないのかい?」
魔王の知識を頼りにしてみる。人間界に単身来ているのだからある程度情報?調べているのではないか。
「あれじゃね?大学教授。全ての魔法を使うとかなんとかっていう」
ものすごく雑な答えだ、その人物に興味が無さそうなことは伝わった。
「おそらくランプ教授のことを言っているのかな?一応僕の知り合いだから今度聞いておこうか」
使うというか、魔法は全て解析できると豪語する鬼才。
「そうだな」
「ま、失敗したら時間を巻き戻せばいいだけだしな。気軽に行こう」
「うん?……うんうん」
「これは魔王への刺客だからな、どう扱うかは魔王が決めていいぞ。さあ、何して遊ぶ?」
▫
「スティーヴは期末テストどうするんだ?」
「受けるよ」
受けないと進級できないし。
言ってて思ったけどそういう意図の質問じゃなかったかも。
「勉強教えて!」
「やだ」
ただでさえエネルギーカツカツなのにそんなことできるか!
「……明日要点を書いたノートをあげるよ」
「せんきゅースティーヴふぉーえばースティーヴ」
「なにそれ」
リエルあんまり勉強してないのだろうか。魔王なのに。いや魔王だから?
「そういえばリエル、僕1クラスくらい爆破してこようと思うんだけどどこがいいかな」
「……」
「冗談だよ」
「そうか……」
とりあえず冗談を言ったあとに、本題を出す。
「先日リエルを襲撃してきた人って今どんな感じなの?」
「糞尿が綺麗になっていい感じだな。まぁ俺は糞尿とかしないんだが、ははは!」
「ええ……」
「ははははは!」
呂后みたいなことをするつもりだと言ってたけどマジでやったの?
実際に実行したかは分からないが、大小差はあれドン引きすることには代わりないぞ。
……いや、魔王だからこれでいいのか。
悪魔の王なんだから悪辣であってしかるべきなのだ。軽快に笑うリエルを見てそう思う。
今度見せてほしいね。
そう、思ってもいないことを言って魔王に手を振って別れた。
僕の想像以上に残虐で、想像以上に魔王をやっているリエルにため息をつく。
あんまり考えたくなかったけど、リエルってゲームの悪役なんだろうな……アンナを近づけないようにしないと……。




