4-17 裏切りの女神
「はー1件落着、かなぁ?」
事件に関しては僕関係ないので静観を決め込むことに決めていた。
「ルナじゃんどうしたの」
前より大人っぽくなったルナが僕を訪ねてきた。
僕を見つけた瞬間駆け寄ってきて手をとった。
「お父様が、お父様が大変です!!」
「ルナのお父様って……大審院の?」
3年前の文化祭の時に会ったっけ。
ルナをそのまま男にしたみたいなお父さん。
「お父様が大貴族の方に有罪判決を出したから左遷されるかもしれなくて……!」
「……」
なるほど。
「た、大変だね……」
「そう、大変なんです!」
僕じゃどうにもできないよそれは……。
いつもは冷めたように伏せられた目が、動揺しているせいか見開かれている。伏せてないと丸い目をしているんだなとか関係ないことを考えてしまった。
「大審院にかけられるくらいだから、ルナのお父さんだけの責任でもなさそうな気がするけれど」
「そうですよ!なのに左遷されるんですよ!ひどくないですか?」
「そうだね……」
「……スティーヴって元老院の一員ですよね。どうにかできないんですか?」
うんうん相槌打ってたら急にルナが鋭い目つきになって僕にそう言った。
「な、なんのことかなぁ?」
「お父様が言っていましたよ。元老院でスティーヴ見たって。私も実は大審院にお誘い受けていますから、おそろい、ですね?」
なん、だと?
……ルナって意外と負けず嫌いだしそりゃ僕と同じ立場にならなきゃ聞いてこないか!
「大審院って試験突破しないとそもそも参加資格すらないんじゃ……」
「予備試験ですか?10歳の時に合格してますよ」
て、天才だ。
「そんな天才なのに数学はいつも赤点なのか……」
理科も範囲によっては赤点スレスレだし。
「私だって悪いと思ってます!スティーヴに教えてもらってるのにまるで成果がなくて……」
「本当にそう思ってるならまず教科書の回答丸暗記するのやめようよ」
「……」
「やめようね!」
テスト返却されて見せてもらったら教科書の解法と答えそのまんまでびっくりしたよ僕は!当然問題は違うのでペケだ。
「それは無理です。私今まで見たものは忘れられないので」
「……」
今度は僕が黙る番だった。
ハイパーサイメシアというやつだろうか。
すごすぎて逆に主要キャラじゃない気がしてきた。
「じゃあ僕が今まで教えた解法も覚えてるはずだろうが!なんで解けないんだよ!」
「そ、それは……なんか考えてると頭こんがらがっちゃって……へへ……」
バツが悪そうに目を逸らしながらルナが言う。
「そ、それよりほら、お父様の処遇どうにかできないんですか!?」
「無理だよ。僕の権限って所詮1票分しかないし。1/135で何しろって言うのさ」
「そうですか……そうですね……」
「まあ議題に挙げるくらいはできるかもしれないけど。速くて2ヶ月はいるかな、多分。間に合いそう?」
「間に合うわけないでしょう」
「だよね」
ルナの顔を見るが怒ってる様子はない。最初からあまり期待はしていなかったのかもしれない。
「左遷ってどこに行くの?」
「その北の方の配属になるみたいで」
「ふむ。ルナも付いてくの?」
クビになるんじゃなくて良かった。
「いえ。私は学校がありますから」
「えらいねルナは。大審院で働いてもいいってのに」
「それがお父様の望みですから。……ってスティーヴも同じでは?」
「うーん、僕は特例というか向こうにほとんど顔出してないし」
リエルの動向次第ではあるけど今のところ動く気はなさそうだから本当に在籍してるだけみたいな。
とりあえずルナが学校をやめるわけでもなさそうで良かった。
「ちなみにどんな事件だったの?そのお父さんが担当したやつ」
「刃物で友人を刺した、というものでした。魔法も使えるにも関わらす刃物を選択するのが不気味なところではありましたが、本来その程度の事件で大審院は動きません。大貴族の方が起こした事件だったのが不味かったのでしょう。当然被害者の友人というのも大貴族ですし」
「へ、へー」
最近よく聞くあれじゃん。
「最近刃物使った事件多いって言うよねー。僕もこの前学校で遭遇しちゃってさ。どうやら外部の人間が侵入したって話だったけどいやー怖いね」
「……あれスティーヴの話だったんですね。外部の人間とか言ってましたけど、あの人元々ここの清掃員やってたんです、よ、……え?」
「どうしたの?」
清掃員?もしかして顔と名前もバッチリ覚えているのだろうか。すごい。僕の記憶では……うーん確かに似てる人がいたような気も……?人の顔ってよく分かんないんだよな。
「い、いや気のせいかもしれませんし」
「いいって。言ってみなよ」
「そ、その。清掃員の人は、よく赤いハンカチを腕に巻いてたんですけど。体育祭の日にその人を見たような気がして」
僕が遭遇したのも体育祭の日だ。当たりかもしれない。
「その時誰かと話してる様子だったんです。確か……あなたに呼ばれた?って言っていたような」
「その誰かってのは」
「分かりません。少なくともこの学校の生徒でした」
「男?女?」
「女です」
生徒で女でクロウラー。
「なんの話をしているんですか?」
横から声が聞こえる。思わず振り向くと、アンナと仲の良い後輩が僕達をニコニコと見ていた。
「アンナ先輩いるのに浮気とか感心しませんね」
小首を傾げて頬に指を当てながら言う。
「私ですか?スティーヴとは友人のつもりですが」
「僕も」
「……。スティーヴさんモテるんですねぇ」
「そんなことないと思うけど」
「そんな悪ーいスティーヴさんには、このナイフあげちゃいます♡」
白い髪を肩口で切りそろえた少女……エリス・クロウラーが僕の目を覗き込みながらにっこり笑って僕の手にナイフの持ち手を押し付けてきた。
2話参照




