4-16 思わせぶり
「ハルイ、今回は早かったね」
「……今回はって何」
「なんだろうね」
本当に覚えてないっぽいな。じゃあループさせてるのはハルイじゃないのか。ハルイだったら物事はもっと楽だったのだけど。仕方ないか。
「僕に何か聞きたいことがあるの?」
「うん」
決意のこもった表情だ。
「勉強、それとも別のこと?」
「別のこと、だよ」
「僕勉強以外はあんまり教えられないよ?」
「そうなの?」
「うん」
これを信用してくれるかどうか。
そんなに僕はなんでも知ってるように見えるのか。
「今ナイフを使った傷害未遂事件が多発してるでしょ?」
「そうだね」
「犯人は誰だと思う?」
質問同じじゃねぇか。
ちょっと不機嫌になる。
「その答えはレイヴンが知ってると思うよ」
嫌そうな顔になってるのを自覚しつつ、同じことを答える。
「それは分かってる。でもレイヴンは教えてくれないからスティーヴに聞いてるんだ」
「自分で見つけなよ」
「見つからないから聞いてるの!」
「……」
ハルイを見る。変わらず真剣な表情だ。
こんな邪険に扱われてるのに健気というかなんというか。
「フリッツ探偵事務所を調べるといいんじゃないかな。何かヒントが見つかるかもね」
これは探偵事務所に行った結果本当にいい答えだったと思ったので同じことを言う。
「答えを言ってほしいな。情報を出し渋って私に疑われてもいいの?」
……。返しが変わった。僕のこと疑ってるのか。なんで?
ああ、もしかしてリールからなんか聞いたのかもだ。僕は呪術なんて使えやしないが、リールはそのことを知らないし、僕が呪物だと本気で信じているようだから。
「別にいいよ。君のことそんなに好きじゃないし」
僕がなんと返そうか悩んでいたら僕がさっさと返事をしてしまった。それも割と最悪の言葉選びで。
ハルイの血のような色の目が僕を見ている。狼狽える様子は一切ない。
別にハルイのことが嫌いなわけではない。僕がそうなんだからきっと僕もそうだ。でも好きなわけでもない。それだけの話だ。もっと良い表現あったと思うんだよ。ほら、親密な関係じゃない、とかさ。
「……」
「好きじゃないって言うのは語弊があるかな。なんというか、僕とハルイってあんまり関わりないしさ、好きなだけ疑っていいよ」
「なにそれ?自分から不利になることして馬鹿みたい」
「手酷いな。でも多分、これは僕は暴くべきじゃないんだよ。今を生きる人類が解決しなくちゃいけない事柄だ。「魔王もそう言っていた」」
それっぽいこと言ってるけど単純に僕は平和に暮らしたいだけなのだ。巻き込まないでほしいと言うのが正直なところ。
「魔王ってリエルのこと?」
「ああ、今だとそうなるのか。違うよ、先代の魔王のことだ」
「先代……?」
「今の魔王は享楽的で悪辣で、振り回される人類は気の毒だね。先代はいいやつ……ではなかったけどちゃんとしてたよ。引きこもりで偏屈だったけどね」
僕が懐かしむようにそう言った。どんな悪魔だったか僕には知る由もないけれど、多分人類への脅威度としてはリエルとそう変わんないんじゃないかなと僕は思った。
「なるほど。スティーヴにも事情があるんだね」
ハルイが自信に満ち溢れた、つまりいつもと変わらない表情のまま言った。
僕の目をまっすぐ見つめている。その勇気と寛容さに敬意を表して僕は微笑んだ。




