4-9 応援
「が、がんばれー」
僕はエリックの足がべらぼうに速いことをよく知っている。というか基本なんでもできるのだ、あいつは。ダニエル勝てるかなぁ。プレイアブルキャラ補正を持ってしても勝てるか微妙なところだ……。
「なんで君がアンカーじゃないんだと思ったけどエリック相手なら仕方ないね」
身分もあるしね。
「で、殿下を呼び捨てに」
「エリックはあんまり気にしないよ。ね、アンナ」
「そ、そうだね?」
7組の人がバトンを渡した。3年生かな多分。僕たちのクラスは2番目に走っている。ちょっと離されてるな。
……エリック動いてなくない?
「あれは待っていても勝てるというエリック様の余裕の表れだろうか……?」
レイヴンも困惑してんじゃん。
なんかダニエルに言ってるな。キメ顔を見るに、真剣勝負だとか言ってんのかな。
ダニエルがバトンを取った瞬間エリックが走り出した。
「がんばれー。そこの舐めプ俺様王子なんかに負けるなー!」
今更だけどトムすごいな。1年生なのにアンカーやってたなんて。
ダニエルすごいぞエリックと張り合えている。僕よりは遅いけどね!
良い戦いになってるのもあって歓声がすごいな。
そのままエリックが1番でゴールした。テープを切った後も当然だろみたいな顔しててムカつく。
すぐ後にゴールしたダニエルが悔しそうな顔で膝に手をついている。1位の方がスチルとしては良さそうだけど、それは来年に取っておくって感じかな。
後ろを見たらレイヴンがニヤニヤしていた。
「5組が優勝だね、おめでとう」
「え?ああそうだとも。ふふふ」
言われて気づいたみたいなテンション。
……もしかして、ダニエルが負けたから笑ってたのか?なんか乙女ゲーム攻略キャラとは思えないくらい性格歪んでないかこの男。
こっからじゃ何言ってるか聞こえないが、ハルイがダニエルの元に走ってくる。慰めてんのかな。レイヴンの方を見ると頬を引き攣らせていた。
僕は見なかったことにした。
「アンナのクラスは4位だね」
「うん。よく頑張ったと思う」
「リエルは……」
「俺?俺はどのクラスも応援してたから!」
「無事に終わって良かったね」
どのクラスにもハーレムメンバーいるんだろうなと思ったよ。見る度に違う人応援しててなんか怖かったから見ないふりしてた。
「表彰式やってから解散?」
「うん。私は準備あるからそろそろ行くね」
「また家で」
「うん家でいっぱい話そう!」
走って行ってしまった。
レイヴンもいないな、さすがにエリックのところ行ったか。僕もダニエルのとこ行った方がいいのだろうか。
「わっ」
後ろから肩を組まれる。誰?
「スティーヴ!なんだこんなとこにいたのかよ、おら行くぞ」
「ちょ、待って」
「問答無用!」
「足怪我してんのに無理しない方がいいんじゃな、うわー」
「ははは!」
僕見た目より相当重いだろうにあっさり抱え込まれてしまった。
「お前重くね?」
「鍛えてるんだよ」
「じゃあこれも拒否してないってことで」
「〜〜ッ」
そりゃそうだけどさ!そんな言い方だと僕が無様な姿を望んで晒していることになるだろうが!ケイトに抱えられるのはって?あれはいいよ。主導権握ってるの僕だし。そもそも可愛い女の子に抱えられるのとムキムキマッチョに抱えられるのじゃ感じ方も違うっていうか。
「とうちゃーく。スティーヴお届けに来ましたー!」
「でかしたトム!もー探してもどこにもいないし」
「スティーヴ?短距離走すごかったな!」
「誰?え、なんかこうくるくるっと回転してた?」
「あの?」
降ろされた瞬間人が集まってきてもみくちゃにされる。
「ダニエルのとこに行けよ……」
「よし一緒に行こう」
「そういうことじゃない……」
そのまま女子生徒にひっぱられて連れて行かれる。
こういう騒がしいイベント、好きではあるのだけど見てるだけが1番楽しいというのが僕の考えだった。
とりあえずちゃんとするか。あれだけ必死に走ったダニエルの前だ。だらけきった姿を晒すわけにはいかない。
おっと悔し涙を流している。僕にはどうしたらいいか分からないぞ。
とりあえずハルイ含め何人かの生徒が背を撫でているので僕がすることはなさそうだ。やっぱり僕来ない方が良かったんじゃ……。
「スティーヴ。短距離走のあれはなんだ?」
エリックに絡まれた。
エリックのクラスの生徒は?と見るが、少し距離を取って見ているだけだった。さっきまで胴上げしてたのに。
僕の周りにいた生徒達が緊張した面持ちになる。エリックも好かれてはいるんだけど今明らかにイライラしてるし。しょうがない、僕が対応するか。
「何って、走っただけだよ」
「ふん。あの腹黒に簡単に転ばされおって」
「……」
レイヴンのことかな。腹黒か?言うほど隠せてるか?外も真っ黒じゃない?
僕が迂闊なのは元からで自覚はあるのでなんとも言い返せない。
「その分速くなったしむしろ感謝してるくらいだよ。それよりさっきのリレーはなんだよ。バトン渡された後棒立ちで突っ立ってさ。レースで止まる馬みたいだったぞ?」
「……」
やば、キレてるわ。ちょっと加減間違えたな僕。『フォロー頼む』無理。
「君を信じて託したんだろう先輩に悪いと思わないの?」
僕もちょっとだけ怒っているから。
大丈夫だ。エリックがキレるとシャレにならないくらい被害をもたらすし、普通に人殺しだということも知っている。でも僕の方がずっと強い。問題ない。
「王なら責任を持つべきだ。僕が言っていることは間違っているかな」
「間違っているな。王は民に行動を強制されない」
「……まあ君がそう言うならしょうがないか」
「ふん」
良かった落ち着いた。
僕は無事でも血の海になりかねなかったし。
落ち着いたので僕はエリックに挨拶をしてクラスメイトのところに戻る。
「こ、怖かった」
「殺されるかと思った」
「何あの眼光焼き尽くされそう」
そうだねとしか言えない感想。実際エリックは中等部時代3個上の先輩をタコ殴りにして病院送りにしたのは有名な話。その話聞いてエリックは攻略キャラじゃないかもな……って思ったものだ。好きな人にだけ優しい殺人鬼が女性に人気あるって言ったってここまで気性が荒いのはごめんだろう。好きな人相手でも普通に殴り殺して来そう感あるし。
「そろそろ集まろうみんな。……あれ、どうしたの?」
ハルイがきょとんとした顔をしている。
「ハルイー。殿下が今来ててねー」
カトリーヌ令嬢。こっちにいたのか。
「大丈夫。そこのツンデレくんのおかげで何事もなかったから」
「ツンデレ!?この僕が!!?」
正気か!!?




