リエル視点
俺はずっと人間が嫌いだった。
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「やあ魔王」
スティーヴが話しかけてくる。
1番の特徴はやはり人間としての最適解を頭のいい奴が叩き出した、そんな言葉が良く似合うその顔だ。
美的感覚が全くない人間が設計したのであろうことは想像に難くない。俺は好きだけど。
漆で塗ったみたいな真っ黒の目が俺を見ている。表情からは屈折した感情が垣間見える。
夢魔として成長したからか随分感情に聡くなった、昔からこういうことは得意ではあったが。
「何か用か?」
「そろそろケイトが来ていないかと思ってね」
期待をしているといった風に微笑むが俺には分かる。
こいつ自体はケイトに全く興味がない。
つまりこいつ以外のケイトに興味を持っている人間……いや人外の可能性もあるか、がいることになる。
「誰がケイトに会いたがっているんだ?」
思い切って聞いてみることにした。
「?僕だけど……」
……。本気で疑問に思っているようだ。
「聞き方を変える。なんで会いたいんだ?」
「そりゃあ僕の救世主候補にふさわしいからさ。君のことだ、それくらい分かるだろ?」
その“僕”が2人いるなら辻褄合うんだよなぁ。
「なあお前、二重人格じゃないって言ってたけどやっぱり二重人格だろ」
「は?「別に僕は1人だけど」」
こいつら……本気で言ってやがる。
「頭がおかしいものを見る目をするのはやめてほしいな。さすがの僕でも傷つくよ」
傷つくというより、スティーヴからは俺に対しての嫌悪感が強くうかがえる。
目の前にいる人格のあまりの難しさに両手を挙げたくなった。
「そうだな……君の言いたいことは分からないでもない。僕と僕が別人格であるって言いたいんだろ?人格って表現がおかしいな。性格だと語弊があるし……うーん」
屈折した雰囲気が薄くなる。
単純に知的好奇心が刺激されたといった具合の感情が読み取れる。
「君はさ、個々として成立し得る条件は何であると判断する?僕はね、目標とスタートが同じなら経緯が何であれ全て同じであると思っている。つまり僕と僕は同じというわけだ」
「そりゃお前記憶だろ。俺が思うにお前って過去と未来で記憶分けてんじゃねぇの?」
俺がそう言うと、スティーヴが驚いたように目を見開いた。
2つそれ別々の記憶を持った誰かがいたとする。その場合の記憶の扱いをどうするか問題。
これは人格を語る上で永遠の命題と呼べるのではないだろうか?
人によってはどっちの意識が競り勝ったーなんて話もあるのかもしれない。
「相変わらず今代の魔王は言うことが無難だな。わざわざ人間に合わせようとするなんて可哀想な奴」
塵を見る目でこちらを嘲笑いながら俺を完全に愚物だと認識した。
俺じゃなくても分かるだろ、明確に人格が切り替わった。
「そもそも僕はこのことを最初から誰にも隠していなかった。それを今さら?最もらしく正解を見つけたみたいな様子で勝ち誇らない方がいいぞ?ああ、これは僕からの忠告だ。僕は優しいから!」
ドヤ顔をしている。かわいい。
そうしてスティーヴは頭を抱えた。
また人格が切り替わった。
「余計なことは言わない方が良かったんじゃないかなぁ」
スティーヴがため息をついた。
今ので俺の言葉が正解だと認めたようなものだからな。
……両方とも同じ呼び方なの面倒くさいな。
楽観的で婉曲な言い回しをする方を表、屈折していて感情を率直に表へ出す方を裏と呼ぼう、うん。
今は表だ。
こう認識してみると結構分かりやすい。
「それで結局ケイトはいるのかな?僕のお気に入りなんだ」
つまりスティーヴ(表)がケイトをご所望だと。
なるほどなるほど、分かってきた。
「いるぞ」




