3-11 過去回想
「保健室だ」
「ええ、保健室です」
「誰が運んでくれたんです?」
保健室の先生が僕の顔を覗いている。
「あの子だよ」
扉の前の女の子を指さす。身長は僕より少し高いくらいだろうか?
以前ダニエルの依頼の時に少し話したケイトだった。そう言えば同じクラスだったっけ。
長袖を着ているため分かりにくいが、白い夏服からはうっすら腕の筋肉が見える。
腹筋は確実に割れているだろう。
「僕はさぞかし重かっただろう?どうもありがとう」
「……」
ケイトは僕が目を覚ますのを確認するために残っていたらしい。
無言で気にすることはないと身振り手振りで伝えてくる。
「……」
「この前は申し訳ない?……半年前の話?いいよ、もう気にしてない」
ケイト関係なくダニエルは脆い。ってそんな話じゃないな。彼女が今話しているのは。
「……」
「へー」
父親は金持ちの家の息子だったらしく名家出身の母親と結婚した。父親は画家になろうとしていたが、成功することはついぞなかった。そのせいでケイトとその弟、それから母親は貧しい暮らしを強いられていたと。だが父親が死んで状況は一変する。元々奔放だったところのある母親は10個以上下の男と駆け落ち。2人は置いていかれ、父親の兄に引き取られそこそこマシな生活を。そんな中母方の親戚の人が遺産の受け取り先をケイトの弟にしていたため、お屋敷をもらえ、資産もゲット。伯父の後押しもありこの学園に入学。
ってことらしい。へー。
「……」
「だから弟とは一心同体?確かになぁ」
そういう境遇だと姉弟の絆はより一層深くなるのかもしれない。
それでケイトを心配して大暴走してたみたいな?
「そう言えば弟さんはこの学園に在籍してないの?」
「……」
「え?騎士養成学校にいる?母親が騎士の家の人だったから?……正気?」
「え゛!?あの目かっぴらいてたヤバい子騎士になるの!?」
「先生」
急に先生が会話に入ってきてびっくりしたよ僕は。
「……よく考えてみたら騎士だって戦う職業なんだし血気盛んな方がいいよ」
「にしたって程度があるんじゃないかなぁ。……そっか騎士か……」
先生が本気で悩ましいというようにうんうん唸っている。
◇◇
「……」
いや、僕は別にRTA走者ではない。ゆっくり行けばいいのだ。
「どうしたの?」
ああ幻聴が聞こえてくるなんて末期だな。
───────
今日は戴冠式だった。
「我が友人、本当に王にならなくて良かったのかい?君にはその権利があったと思うけれど」
「いいんだ。私は権力に興味がないのでね」
「確かにそう言っていたね」
彼が権力に興味がないなんて嘘だ。名を貶められてる状況に嫌気が刺して家を出たと言っていたはずだ。少なくとも権威に関心はあった。
ただ、今王冠を被り微笑んでいる男の方が向いている。民衆は新しい王への期待で歓声をあげる。
それが分かるから彼は即刻降りたのだろう。
そうして彼は権威なんてなくとも大きなことをなせるだけの才能があった。
「ふふふ、君が望むならいくらでも君に相応しい地位を用意しよう───────もちろん世界の覇者にだって!」
「もちろん目指すところはそこだけれどね。どうして貴方は私にそこまで協力してくれるんだい?」
なんとも思っていなさそうな、それこそ軽口を言うような表情で彼は聞いてくる。
実際僕の考えがなんであれ、彼にはさほど興味がないのだろう。
一貫している人間というのはそういうものだ。
「それは君が僕の欲しいものを全てくれるからだね」
「そう?」
彼にとってはどうでもいい、それこそ当たり前の返答だったらしい。ニヤニヤと笑い僕の肩を勢いよく抱く。
僕はため息をついてその腕を外す。
興味が無くなったように、切手帳を眺める。趣味だっけ。
馬車の中なのでとても揺れているのだが、彼にはその時間すらも惜しいようだ。
「戴冠式楽しかったね……それにしても魔王の宣戦布告には驚いたよ」
少し話題提起をしてみる。
「そうだね……せっかく平和を手に入れたと思ったのに」
彼が切手帳から目を外さずに言う。
こういう所が初見の人から感じ悪く見えるのだと思うけれど、そこを矯正しようとして体調悪くなったことを知っているので咎める気にはなれない。
「僕がいれば易々攻めいられさせやしないさ」
「知ってる」
少し口角を上げた彼は相変わらず切手帳から目を外さない。
それを見て僕もなんだか楽しくなったものだ。




