3-6 仇敵
◇◇
「へえ。私に気づいてたんだ。さすがだね、崩落人形」
血の中から赤い少女が姿を現す。マリスと同じような赤いロリータを着ている。
アプリコット。世界を滅ぼす可能性が高い危険人物。
「面倒なことは私が全部、やっておくからね……」
アプリコットがマリスを胸に抱き、そうするとマリスは眠るように崩れ落ちた。
「……随分可愛らしくなったね」
「それはお前もじゃない?」
「僕は前から可愛いでしょ」
昔見た時、アプリコットは少年の姿をしていた。
「元はと言えば君を倒すために僕は作られたんだ。宿敵みたいなものだよね」
アプリコットは元々普通の人類だった。
何が異なったかと言えばただただ加害性が強かっただけ。人類が為す術なく滅ぶ様を見ながら死ぬのが彼/彼女の夢だと語った。そしてそれを成せるだけの行動力と魅力、あとは賛同者を見つけるセンスがあった。
アプリコットとは何か。感染症という表現が1番近いと僕は思う。心の弱った誰かに寄生する病原菌。弱った世界では止められないほど増殖する。それを撲滅するためには世界を滅ぼせるだけの火力が必要だった。だから僕は完成した。問題は僕を作った張本人がアプリコットに感染して姿を消した(おそらく取り込まれた)ことだ。
「わはは、そうだったねぇ!暇つぶしとか言って私のかわい子ちゃん達が虐殺されてくからビックリしちゃった」
「それしかすることがなかったんだ。しょうがないだろ?」
目的もなく生きていくのは辛いことだ。生物が生きるには理由がいる。生存、繁殖、名を残すなんて高尚なものでもいいだろう。しかし僕からはその全てが最初から存在していない。なら設計時のタスクをこなすってのは当然の帰結であり必然の行動。
「全然何言ってるか分かんない、やっぱお前は人外だね崩落人形。スティーヴだっけ?あは、二度と思い上がるなよ。お前は人間にはなれない」
ニッコリ笑いながら甘い声でそう話してくる。
「?そりゃそうだろ」
何を当たり前のことを。
「相変わらずつまんねぇやつ」
アプリコットは僕の言葉にちょっと顔を歪ませた。
なんでアプリコットを倒すのをやめたかと言えば、優先すべき目的が僕にできたからだ。最初から僕はアプリコットに興味が無い。僕は僕に必要なものさえ確保できればそれでいいのだから。
「目的を聞いてもいいかい?なんでマリスに寄生した」
「即殺さないなんてやっさしー。ほらほらこういうとこ。お前人を気遣えるような可愛いやつじゃなかったよ」
「短気なのは良くないと僕が言ってるんでね。まずは情報収集だ。僕には時間も余裕もあるのだから」
最終手段のループがあるのだから今の僕には失敗が許されている。今全校生徒の命は僕が握っていると言っても過言ではない。いつでもループ可能。どこからスタートになるかは分からないけど。
「お前と一緒だよ。私はこの子に共感した。だから助けになりたいと思った。それだけ」
「……?」
「なんだ。気づいてないの?あは、ちょっと面白いじゃん。つまんねぇって言ったの訂正するね!」
相変わらず相手への加害欲だけで喋ってるな。どうしよっかな。ここでマリスを殺せばアプリコットもとりあえず消えて学園は元通りになるんだろうが。
「待って!」
後ろの扉が勢いよく開かれる。
「ステラ生徒会長」
「もう生徒会長じゃありませんよ!」
長い茶髪を靡かせたステラが、息を切らしながら僕達に近づいてくる。
「バカ!」
ステラがアプリコットを殴ると、血の塊のようにドロっと溶けた後また元に戻った。アプリコットは楽しそうに笑っている。
ふむ、よく見るとマリスに反応がありそうか?
いいことを考えたぞ……!僕の制止する声が聞こえるが、何見てろ、今すぐ僕が解決に導いてやる。
「“ジャック”」
ステラの視界が僕に見えるようになる。事前に洗脳しておいて良かった。ステラを人形のように動かせばこのまま有効打を打てる。よし、ぶっ飛ばすぞー!
まずは右フック。
「はあ!?おい待て、それはなんか違うだろ!?」
からの左フック。
「待て待て待て!待ってって、ねえ!」
ここで顎を持ち上げるように蹴り!
「……」
うずくまるアプリコットに向けて往復ビンタ!
「あの僕?とりあえず1回ストップしよ。マリス起きてるよ……」




