1-10 意味のない行動
◇◇
「はあ、元老院の皆さんこんにちは、そうして久しぶり。覆面仮面のマスクマンです」
目の前に置いた液晶画面の前でそう呟く。
『相変わらず気の抜けるような挨拶じゃな』
分割された画面の向こう側から、本人曰く方言が少し入っているらしい老婆がそう言った。
「そうだね」
どうせいつも気の抜けるような議題についてしか話さないんだからこれで十分だろ、という言葉は飲み込む。
『久しぶりだな、マスクマン』
この間議長になった、伯爵家の娘が挨拶を返してくる。
元老院とは女王とその直結の組織の間で提出された法案その他を適正かどうか監査する役割を持つ。
枢密院も大審院もトップは男なので、さすが今の王は上手い采配をする、と思ったものだ。
ただ狙い通りこの人が女性としての視点を持っているかと問われると首を傾げざるを得ないが。
「古代技術と古代魔法を流用して遠距離で会話できるようにしてみたよ。足腰の立たない老人もいるのだから、今後もこれでいいよね」
『自称500歳を超える老人がなんか言っとるわい!ほほほ』
この通り元老院の人間には、僕の正体は知れ渡っている。
トップ層の人間は国の有事とあって伝わるのも当然か。それだけ資料が残っていたということでもあり、嬉しいやら悲しいやら。
謎の覆面情報提供者ということにはしているが建前上のものでしかない。
「分かっているなら僕を敬いたまえよ。建国に協力した偉人なんだぞ、僕は」
ため息をつきながらぼやく。
『その辺りにしてください。話が進みません』
「ああ、すまない。本日の議題は魔王の暗殺未遂に関してだよ」
画面の向こう側がざわついている。
画面を探すが、当の教授は出席していないようだ。
『誰がそんな馬鹿なことを!』
『軍だ!軍の連中に決まっている!…発言は撤回する』
『これだから保守派は』
『その前に魔王だ』
『おおその通りだ』
なかなか皆落ち着かない。
今利権争いをするのは正直時間の無駄だと思うのだが、仕方の無いことなのか。人間ってのはつくづく愚かだなあ。
「はあ、元老院はいつもこんな感じだね。とりあえず魔王は新しいおもちゃに夢中で、この国に報復する気はなさそうだ。男爵家のご子息は犠牲になったということで。人類のためだ、仕方ないよね」
『そうか……。男爵家には後で労りの連絡を入れておこう』
「いいね。事件の経緯は聞かないのかい?」
『教えて欲しいと言ってお前は素直に教えてくれるのか?』
「アハハ、確かに」
『こちらで調査するから問題はない、が。わざわざ連絡を取ってきたという事はそれ以上の何かがあるのだろう?』
僕は基本的には元老院に情報提供しているだけの立場だということを再確認する。
魔王の宣戦布告による軍部の力の増大に対抗するためだが、正直愚策だと言わざるを得ない。本気で国を思うなら手段を厭わず僕を仲間にするべきなのに。
だって別に僕はこの国の味方ではないし。
「あったんだけど少し思惑が外れてしまってね」
話したかった男の姿はない。やはり欠席のようだ。
また今度にするよ。とだけ言って僕は通信を切った。
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