1-1 プロローグ
よろしくお願いします。
目が覚めたら土の中だった。
何を言っているか分からないと思う。僕も分からない。
僕は絵を描くのが趣味だった。しがない大学生の僕は冬休み中であるのをいいことに誕生日のキャラクターのために絵を描いてから寝たっけ。それが最後の記憶だ。
そりゃ体調は悪かった気もするしちょっと無理してたかなとは思うけど、そのまま心臓止まって埋葬されたとかそんな感じ?いやわけわからんわ。
上の方から物音が聞こえる。そうだ、僕はここにいるんだ!声を出そうとするが、掠れたような息が漏れるだけだ。指、動かせない。足、動かせない。……目も動かない。周りが土であることを伝えてくるだけだ。
その時、目の中にある何かがカチッとはまる音がした。
目の前の土が燃えた後のように消えている。
「え」
もしかして今、目から光線が出た?
何?今僕どうなってんの!?
上の方でも聞こえたのか、騒ぎになっているようだ。僕はここだぞー。
しばらくして。
そんな僕の祈りが届いたのか、僕の頭部の上の方からスコップで土を掘り進めるような音がする。
「!?お母さん!土の中から男の人出てきた!」
緑がかった薄茶の髪に同色の瞳、西洋人と東洋人のハーフみたいな顔立ちの可愛らしい女の子が僕を見てそう言った。
▫
どうやら僕を引き上げた女の子はお金持ちのお嬢さんだったらしく、お付きの人達が僕を引き上げ、そのまま大きいお屋敷に連れてこられた。
「全然動かないね」
「大きなお人形さんだったのよ」
「そうなのかなぁ」
「アンナがいい子にしていたら動き出すかもしれないわね」
「うん、いい子にする!」
この通り僕はでかいゴミとして捨てられずにすんでいた。それどころか土の中から出てきた不審者に対してあまりにも高待遇であり、毎日仕立ての良さそうな服に着せ替えられている。
……そう、僕はこのアンナという女の子のおままごと用の人形になったってわけ。
この頃になって僕もようやく理解してきた。どうやら僕は以前の僕ではないらしい。以前の僕が今どうなっているか不明だがとりあえず以前の僕を前世の僕、今の僕を今世の僕としよう。やっぱ転生ってテンション上がるよね。
前世の僕と今の僕との違いだが、これは分かりやすい。身長も低くなっているし、手足は細く華奢だ、というか全く体も動かせないし。そういえばあのビームもあれから出せていないな。
そんな僕の新しい人生、いや人形生か?が始まったわけだが、普通に前世よりも幸せな気がしてきた。課題に追われることもないし就職とか考えなくていいし、なにも食べなくても生きていけるし、僕をお世話してくれるのは可愛くて僕を大事にしてくれる女の子だし……。することがなくて暇なことだけが不満点だな。
さっきまで動かない僕の口元におもちゃのケーキを当てていたアンナが疲れて寝てしまった。
僕も寝るか。まあ睡眠とか多分いらないんだろうけど。
◇◇
踏みしめる地面は黒く、空は赤黒く、辺り一面には黒い砂が舞っている。おおよそ人間が住める場所ではない。そう、ここは魔界だ。
植物、肥料その他は魔界に置いてきた。
魔界に住むものは植物には興味を示さないことを知っていた。
「m-100」
手から高濃度の精神干渉粒子を出し、魔界の住人である悪魔達をある程度減らす。頭が3つあるもの、牛と羊が合体したようなもの、下半身が軟体生物であるかのようなもの、相変わらず地上で見れば悍ましいと形容されるだろうものばかりだ。僕が言えたことでもないが。少し笑う。
見晴らしが良くなってきた。
さて、目当ての物を取りに行こう。
◇◇
「スティーヴ、おはよう!今日もいい朝ね」
ん……。もう朝か。
「おはようアンナ。今日の君も可愛いね」
「まあ!…………!?」
アンナが目を見開いて驚いている。
どうしたのだろうか。
「お母さーん!スティーヴがしゃべったー!」
アンナが走って部屋を出ていく。
思わず口を触る。
そう言えば確かに僕しゃべったな?なんなら今腕も動いてるな?
何があったかよく分からないが、体が自由に動くようになったらしい。
立って足踏みをしてみる。ずっと身動き取れなかったとは思えないくらい軽やかな動きだ。
声は青年にしては高いくらいの声だったな。少年っぽい感じ?見た目はどうなってんだろ。
アンナの化粧棚……と言ってもおままごと用で化粧品は置いていないが、を覗く。
とうとう僕の今世の顔が見れるぞ!
少し跳ねている明るい茶色の髪と白い肌に漆黒の瞳が浮いていてちょっと怖いというのが僕の外見の第一印象だった。顔立ちは西洋人っぽい。目鼻立ちは印象に残らない整い方で、性別すら判別できない。悪く言えば究極のモブ顔、よく言えば欠点が一切ない顔って感じ。個人的にはなかなか可愛くていいんじゃないかな。性別どっちなのかは未だによく分からないけど。スティーヴって呼ばれてたから男かな。
しっかしなー、なんか見たことある気がするんだよなーこの顔。僕が小首を傾げると鏡の中の僕も小首を傾げる。うーん可愛い。僕が好きなタイプの見た目だ。そう、そうなんだよな。鏡の中の僕はちょっと生意気そうな表情でこちらを見ており、それが唯一の人間らしさな気がして……。
……。……思い出した!そうだ、この顔はというかこの鏡面みたいな真っ黒い目はゲームの画面にいた……そう、セーブ&ロードくんだ!
友達がスマホでやってたソシャゲ、多分乙女ゲームってやつだと思うけど、そのストーリーを読み返すページに行くと、こっちを見つめているのだ。そう、セーブ&ロードくんが。正確には教室の風景なんだよね。そんで遠くからこちらをただ一人、その男の子が見ている。
『これ誰?』
『セーブ&ロードくんだよ』
『……何?』
『ごめん私にも分かんない』
友達との会話が思い出される。
よく覚えてたな僕、偉いぞ。
とにかくそのストーリー履歴の画面に飛ぶと何故かこちらを見ている男の子、だからセーブ&ロードくんってわけ。ロードはしてない気もするけどそこは語呂の良さかな?キャラ設定の一切は不明、分かっているのは主人公と同じクラスで何故かこちらを見ているということだけ。冗談交じりでストーリーを記録しているのはこの男の子なんじゃないかってプレイヤー達から言われてた、らしい。
なるほど、僕はその乙女ゲームの世界に転生したのか?
こうなって来ると僕もプレイしとけば良かったかなぁ。後悔先に立たず、だ。
どんなゲームだったか。思い出せ。
扉が勢いよく開く音がした。思わず振り向く。
「ほらお母さん、スティーヴ動いてる!」
「……」
アンナの母親が顔を青くしてこちらを見ている。うーんここで気の利いた一言でも言えたらいいのだが。
「アンナが良い子にしてたから魔法使いが僕を動かしてくれたんだよ」
「そうなの!?」
「うん、アンナは可愛くて賢いね」
高い高い。アンナを持ち上げてグルグル回る。最初は驚いていたが楽しくなってきたのかにっこり微笑んでいる。……推定10歳くらいのアンナを持ち上げているが全く重くない。すごい力だ。
「私はもうそんな年齢じゃないよ」
「あはは」
「ええと、」
アンナの母親が止めに入る。そりゃそうだ。いきなり動き出した人形が娘を持ち上げてたら止めたくもなろう。
この人の名前知らないんだよな。他の人からは奥様って呼ばれてるし。
「僕は食事もいらないしなんにも気にする必要はない。今まで通りアンナの人形をやるよ」
「さすがにそれは……」
「お母さん、私からスティーヴを引き離すの?」
「……仕方ないわね」
そういうことで僕は見張り付きでアンナと一緒にいれることになった。
アンナとハイタッチをするとお母さんはため息をついた。




