アリサ・フェルベール。3
だが、それほど速い太刀筋ではない。っというよりも、さっきよりも数段アリスの斬撃が遅く感じる。
俺がその斬撃を木剣で防ぐとアリサはムキになって木剣を振り回してきた。
「この! この! この! このぉー!!」
「うわっ……ちょっと、まって……」
アリサが振り回す木剣がカンカンと俺の木剣に当たる音が周囲に響く。
俺がアリサの木剣を必死に弾くと、激昂したアリサの深紅の瞳がカッ!と見開いたままなりふり構わずブンブンと木剣を振り下ろす彼女は、完全に瞳孔が開いてしまっている。
こうなってしまえば、もうアリサに俺の声は届いていないのだろう。何度も「待って!」と叫んでいるのに一向に木剣を振り落とす手を止める様子はない。
「くっ……待てって言ってるのに! なら、仕方ない!」
俺は地面を強く踏み込むと素早く木剣を振り上げると、アリサの振り下ろした木剣を勢いよく上空に弾き飛ばした。
驚いたアリサは木剣を弾かれた勢いで後ろに大きく姿勢を崩すと、地面に両手突いて尻餅をついた。
そのアリサの首筋に俺の木剣の切っ先がスッと押し付けられる。
「さっきから何度も待てって言ってるだろ! 聞こえなかったのか!」
「…………うっ」
尻餅をついたまま驚いた表情で目を見開くアリサ。その直後、尻餅をついていたアリサの地面にじわっと水たまりが広がる。
「うっ……うっ……うぅぅ……」
アリサの瞳が徐々にうるうると涙で潤んでくると、突然火が付いたように大きな声で泣き出した。
「うぅぅ……ひぐっ……ひっぐっ……うあぁぁああああああん!! まけたぁぁああああ!! まけちゃったぁぁああああ!!」
「おいおい……なにも泣くことはないだろ?」
おしっこを漏らしてしまったアリサがわんわんと泣き出すと、俺も何だか可哀想になって彼女の首筋に突き付けていた木剣を引っ込める。
その場に座り込んで顔を両手で覆ってわんわんと泣き続けるアリサに、今は同い年のはずの俺だが、脳内では前世では18歳の男子高校生が8歳の女児を泣かせるという完全に終わっている錯覚に陥って、あたふたと慌てているとアリサの泣き声を聞きつけた俺の母親が慌てて駆け寄ってくる。
「あらあら、どうしたの? 大丈夫?」
「あ~ん! うわ~ん!」
「ほら、立って……どこも怪我はしてないわね? あら大変、そのままじゃ風邪を引いちゃうわ、早くお着替えしないと……ほら、歩ける?」
「うぅ……ぐすん……うん」
俺は母親に手を引かれてその場を離れていくアリサに少し申し訳なさを感じた。




