リオンの真の実力3
「いえ、僕は大丈夫です! 頭を上げてください殿下!」
まあ、俺が先に身体強化魔法を使った部分にも悪いところはある。完全にエルロンドだけを責める事はできないだろう。それに俺も同じ状況なら彼と同じ行動を取ったかもしれない。
何より、言葉遣いや態度は大人びていても彼は年相応の男の子なのだと考えれば怒りも沸いてこない。前世の記憶も加味すれば、俺の方が彼よりもひとまわり以上も年上という事になるのだから……
「……いや、俺は君にやってはいけない事をした。もしもグランツが間に入ってくれなかったらとんでもない事になっていたところだった……本当に申し訳ない」
俺が顔を上げるように言っても、エルロンドは絶対に頭を上げようとしない。
「いいんですよ。間違うことはあります! 僕はこの通り、ケガをしてないんですから! 今度から気を付けてくれればいいです!」
頭を下げたままのエルロンドの手を握ると俺はそう言って微笑みかけた。
「そうか……リオン、ありがとう」
エルロンドは俺の顔を見て笑顔を作った。
そんな2人をグランツも笑顔で見守っている。
「おとうさま~。あたしを置いて行かないで~」
遠くから聞いた事のある声が聞こえてきた。
俺が視線をその声の元に向けると、その視線の先にはふらふらしながら、ぎこちない足取りで走って来るアリサの姿だった。
「はぁ……はぁ……はぁ……もう、とつぜん。はしりだす、んだから……」
アリサは俺達のところまで走ってくると、息を切らせて膝に手を当てて大きく肩で息をしている。
「すごく息切れしてるけど大丈夫? アリサ」
「はぁ、はぁ……あっ、リオン。だ、だいじょうぶ」
アリサは俺を見るなり、走ってきて乱れた髪を急いで手櫛で整えるとにっこりと微笑んだ。
グランツとアリサが到着したことで本格的な稽古が始まる。
剣の扱いに慣れているグランツの教え方は丁寧で、分からなければ彼がゆっくりと実演してくれた。
突く、払う、振り下ろす、振り上げる。全ての動作が洗練されていて、グランツの剣技は舞踊の域に達している。
「皆、筋がいいですよ。こらっ! アリサ。視線は前を見る!」
「……は、はい! お父様!」
アリサと俺の目が合った。何故か先程から何度か彼女と目が合う。
その度にアリサは頬を赤らめて慌てて視線を逸らす。
しばらく、木剣を振っていた俺とエルロンド、アリサは休憩に入った。
俺達は地面に倒れるように座り込むと、全員が肩で荒く息を繰り返していた。
「はぁ……はぁ……もう、だめぇ……」
情けなくアリサがそう言って地面に大の字になって倒れ込んだ。
「はぁ、はぁ……僕も腕が痛いです」
「はぁ、はぁ、はぁ……俺も同じだ……」
俺とエルロンドも互いの汗が流れる顔を見合わせて言った。




