伝説の英雄。5
ベッドに顔を押し付けていると、柔らかい布団の感覚に安心感が沸いてくる。
さっきまで命の危機だった後で、このふわふわでお日様の匂いのする布団に体を包まれていると、自分が生きてると実感できる。
「はぁー、とりあえず。今日は生き残れた……だけど、明日からは王子様が俺のお目付役になるのかぁー。なにかやらかせばすぐに首が飛ぶ……はぁあああああああああっ!!」
俺がクソでかいため息を付いていると、俺の部屋のドアをノックする音が部屋の中に響いた。
「ん? リエラかな? はーい。開いてます」
無言のままガチャっと扉が開いた。
「……リオン」
「なっ!? アリサ!?」
アリサは今朝の格好とは打って変わって、真っ赤なドレス姿で長い赤い髪も頭の上で結んで宝石のちりばめられた豪華な髪留めを付け着飾っている。
お化粧もしているのか肌がツヤツヤと光っていて、年齢よりもお姉さんっぽく見えて何だか色っぽくも見えた。
「……リオン。入ってもいい?」
ドレスの裾をぎゅっと握りしめて少し下を見て恥ずかしそうに頬を染めながら言ったアリサ。
「えっ? あっ、はい!」
俺は驚きながらもアリサを自分の部屋へと招き入れると、アリサはベッドに腰を下ろした。
俺も彼女の隣に座ると、アリサは頬を真っ赤に染めながら俯き無言のまま座っている。
アリサは座ったまま赤いドレスの布を指でいじりながら、言うタイミングを測っているのだろう。
「あのね……その、このドレスどう?」
「えっ? あ、似合ってるよ」
「……そっか」
俺が彼女の着ているドレスを褒めると、アリサは嬉しそうに微笑むと静かに俯いた。
「リオンのお母様。いい人ね……あたしのお母様になってくれたらいいなぁ……」
「……えっ?」
俺がアリサの顔を見ると、彼女の顔が一気にボッと赤くなる。
いちごのように耳まで真っ赤に染まったアリサはベッドから立ち上がるとドアまで逃げるように走って行った。
ドアを開けてそのままバタンッと閉めた。その直後、ドアが再びゆっくりと開いて恥ずかしそうにアリサが顔を覗かせる。
「……また明日ね。リオン」
「う、うん」
アリサはドアを静かに閉めて廊下を駆けて行く音が聞こえた。
俺は結局、アリサが何をしに俺の部屋にやってきたのか分からず、そのままベッドに腰掛けたまま放心状態でいた。




