伝説の英雄。3
あくまで、王子は王命に従い俺から身体強化魔法の有無を引き出すのが目的らしい……そうなったら、俺も身体強化魔法を使わずにはいられない。
試合前は色々と考えていたが、これは武術家としての礼儀礼節の問題だ……相手が待ってくれているなら使わないのは失礼というものだ。
スポーツで例えるならば、野球で豪腕のピッチャーが相手パワー系のバッターが速球それを待っている時にストレートを投げて力と力の勝負をするようなものだろう。
「行きますよ王子様! 怪我しても恨んだりしないで下さいね!」
「ああ、来るといい! 俺はそれを待っているんだ!」
俺は地面を蹴る足に強く力を込めると、体が勝手に加速していく。
残像を残して加速した俺の木剣を王子は真っ向から迎え撃つ。
王子の反応が少しだけ遅れて勢いを殺しきれず、彼の手から木剣が吹き飛ばされ後方へと大きく木剣が宙に舞う。
「おお! あれが身体強化魔法か! なんと素晴らしい! まさに人知を超えたスピードだ。私にも残像が見えたぞ!!」
玉座に座っていた国王が前のめりに立ち上がり、興奮気味に叫ぶ。
俺は武器を失い立ち尽くす王子に木剣を向けるて言った。
「……王子様。まだ続けられますか?」
王子は両手を挙げて爽やかな笑みを浮かべながらに首を横に振った。
「いや、俺の完敗だ……降参するよ」
「ふぅ~、そうですか」
俺は木剣の刃を左手で持つと、王子に向かって右手を差し出した。
「ありがとうございました。また、いつでもやりましょう!」
「ああ、俺もまたリベンジさせてもらおう!」
俺と王子は互いに差し出した手を掴んで互いの健闘を称えて微笑み合う。
王様はその様子を頷きながら満足そうに見つめると、俺と王子に向かって言った。
「エルロンド! リオン! お前達は明日から共に稽古と魔法を学べ! グランツ! お前が我が息子とリオンに剣の稽古を付けてやってくれ。私の知る中では魔剣士で最強はお前だ。王家からリオンの目付役も必要だからな。ランベルクには我が補佐を任せなければならぬからな……頼んだぞ!」
「はっ! 陛下。このグランツ・フェルベールが王命に従い、御二人を立派な魔剣士に育てて見せます!」
グランツは王の前に出て跪いて深く、こうべを垂れながら誓う。
「うむ。それでだランベルク……お前の家には明日、大魔導師。エイネス・リティスが向かう手はずになっている」
「何ですって!? あのエイネス・リティスが!?」
「そうだ。お前の娘のリエラは全属性の魔法への適性がある。この世で全属性持ちであるのはあの者の他におらん」
王様の言葉にランベルクは苦虫を噛み潰した様な渋い顔をして頷いた。




