伝説の英雄。2
「どうした? リオンよ。お前の身体強化魔法に詠唱は必要なのか? 早く答えよ……」
「……詠唱は必要ありません」
「ほう! それは見てみたいものだ! だが、8歳の子供相手に大人が手出しするのはな。エルロンド!」
「はい。父上……」
玉座の横に立っていた俺と同い年くらいの銀髪の男の子が返事をした。
銀色の髪に後ろ髪を結んだ青い瞳の男の子は声を出さなければ女の子と言われても間違えてしまうくらいに目鼻立ちが整っている。
「エル。お前がリオンを試してみよ……日頃の成果を私に見せてみよ」
「……はい。父上」
彼は国王の命令に従い俺の前に歩いてきた。
「君の力を見せてくれ。俺は遠慮されるのは嫌いだ。全力で向かって来てくれ」
「はい。殿下……僕もまだ殺される気はありませんから……」
その言葉に嘘はない。だが、王子様に怪我をさせてもスキルを発動させなくても処刑される可能性は高い。かと言って、最初から発動させても処刑されるかもしれない。
どうするのが正解なんだ……
俺が考えを巡らせていると、グランツが木剣を持って俺と王子の方へと歩いてきた。
「相手が戦闘不能を宣言するか、気絶したら勝敗が決まるルールとする。お互いに正々堂々と戦いなさい!」
「もちろん!」
「は、はい!」
グランツから木剣を受け取ると、王子と俺が互いの顔を見合わせながら深く頷く。
木剣を構え、互いに深く呼吸を吸い込み持っていた木剣の先を相手に向けている。
辺りは静まり返り、お互いの呼吸音と相手を牽制するように地面を擦る靴の音まで聞こえてきそうなくらいどちらも集中していた。
「はあああああっ!」
最初に動いたのは俺だった。正直、前世でも数多くの武術や剣術などを学び防戦は苦手で攻める事を得意としていたのが大きな理由であり、元々俺は18歳でこちらに来た8年を差し引いても王子とは18年のアドバンテージがある。
それに、ボンボンで剣術を最近聞きかじった程度の子供に俺が負けるわけがない……
王子は俺の木剣を持っていた木剣で受けると鍔迫り合いの状態に持っていく。
「……もう魔法は使っているのか? それともまだなのかな? 君の剣には力がないようだが……」
「僕にも作戦があるんで、すぐに手の内を見せたりしませんよ!」
そう言って俺は強引に木剣を振り抜いて王子を吹き飛ばした。
王子は一瞬はバランスを崩したものの、後方に数回跳んで態勢を立て直すと再び木剣を構えている。
その様子を見ると彼は俺が身体強化魔法を使うのを待っているようにも見えた。




