伝説の英雄
王様が玉座に座っている前に俺は連れて来られた……
父親のランベルクとグランツが跪いている後ろで俺も同じく跪く。
だが、内心はドキドキだ……それもそうだろう。王様の鶴の一声がかかれば、俺の命は一瞬で飛ぶ。
心臓が口から飛び出しそうだなんてあり得ない話だと思っていたが、今はその心境が痛いほど良く分かる。今の俺は口からも胸を貫いて今にも心臓が飛び出してしまいそうなほどにドクンッドクンッと、うるさいほどに脈打っている。
冷や汗を掻いている俺は国王の顔を見上げる事ができずに俯いている事しかできなかった。
「陛下……我が息子。リオン・エイデルを連れて参りました……」
「うむ。ご苦労だな。ランベルク……だが、お前の息子であっても国の害となると判断した時には……分かっているな?」
「はっ! その時は我が手で処理致します事をお許し下さい……」
「良いだろう。お前は我が国家の国益を優先する男だと知っている」
ランベルクの言葉に俺の心臓が更に激しく鼓動する。だが、父親の事は近くで見ていた俺が一番良く分かっている。ランベルクという男は王命なら火の中だろうが水の中だろうが、決して戻れぬ戦場だろうが、なんの躊躇もなく飛び込んで死んでいく男だ。
「陛下! このグランツが実際に手合わせして確認致しました」
「グランツ。お前と同じ魔法の運用方法ではないと言うことか?」
「はい。私の風魔法を応用しての加速とは違う本物の身体強化魔法でした……私も実際に体験して驚愕しましたが……間違いありません」
グランツの話を聞いて、今朝のアリサの頭を叩いた瞬間の彼のアリサを叩く手が見えなかった事を思い出す。
「そうか……リオン。お前はいつからその魔法を使っていた?」
「はっ! 剣術の稽古の時に、足に力を入れると、普段よりも早く走れる事を……し、知りました……」
「……ふむ。詠唱は必要なのか?」
俺はその質問にどう答えるか考えていた。もしも、詠唱なしで魔法が使えるなんて言ったらこの場で処刑されるかもしれない。
この世界では魔法を使う時は必ず詠唱をしなければならない。体内の魔力を練って一気に外に吐き出すのが魔法だ。俺の身体強化魔法も肉体の中で魔力を一気に爆発させる事で瞬時に筋肉を肥大化させる。
しかし、身体強化魔法は他の魔法と違って詠唱というものは必要ない。脳で体を動かすのと殆ど同じ感覚で発動できる。だが、それをここで素直に言っていいものか……




