アリサ・フェルベール。7
「力を入れると普段の数倍のスピードで動ける便利な異世界の特性なのかと勝手に勘違いしていたけど、まさか魔法を発動していたとは……」
「身体強化魔法? それってお父様が前に言ってた英雄の能力じゃないの?」
「へぇ~、英雄ってあのドラゴンを倒して国を救ったっていう。あの教会の像の……って! 誰ッ!?」
「ふぅ~ん。そうなんだぁ~」
俺が驚いて声のする方を振り返ると、そこにはニヤニヤと不適な笑みを浮かべているアリサの姿があった。
「アリサ様!? もしかして今の話……」
「ええ! 全部聞いたわ! 通りであたしが勝てないわけよね!」
全裸のまま胸の前で腕を組んで納得したように頷いているアリサに、俺は全身から冷や汗を掻きながら体がガクガクと震えていた。
それはそうだ。もしも、この事をアリサが誰かに言えば俺の人生は終了する。
「アリサ様! さっきの事はどうか秘密にして下さい!」
「えぇ~、どうしよっかなぁ~って、やだよ~ん! 皆に言いふらしてやるぅ~」
アリサはそう言って背中を向けると浴室を出る為に走って行く。
俺は慌ててアリサを追い掛けると腕を掴んで止めた。その直後、俺もアリサもバランスを崩して浴室の床に倒れた。
「うっ……くぅー、いったぁー。なんだこの手の感触……柔らかいマシュマロのような……」
「ちょっと……あんた。どこ触ってるのよ……」
俺が自分の手の方を見ると、俺の手はアリサの胸を掴んでいた。
アリサの長い赤い髪が床に広がり塗れた髪がキラキラと光っていて、石鹸と甘い女の子の香りが俺の鼻孔を刺激する。剣を振っているからか程良く筋肉の付いて引き締まった体がまるで洗練された美術品でも見ているように美しい。
そんな美しい彼女の幼いながらも膨らみ始めた胸を俺の手が掴んでいた。
「あっ! ごめんなさい! でも、アリサ様に黙っててもらわないと僕、殺されちゃうんです!」
「……ころされる? なんで?」
アリサの胸から手を放すと立ち上がって頭を下げた。彼女の上から俺がどいたことでゆっくりと体を起こしたアリサは不思議そうな顔で聞き返す。
「僕の魔法の事を誰かに知られたら王様に殺されちゃうんです……そうじゃなくても珍しい魔法を持っていると分かれば命を狙われ、他国の者に誘拐されてしまうかもしれません。だから……どうか、この事をアリサ様と僕だけの秘密にしていて下さい!」
「ふぅ~ん。あたしとリオンの……2人だけのひみつ? そっかぁ~。まあ、べつにいいけど!」
「はぁ~、やっぱりダメですよねぇ…………って良いんですかっ!?」
俺が驚いてアリサを見ると、彼女はゆっくりと頷く。
「ほんとのほんとにですか!?」
「本当よ! だってバレたらあんたが死んじゃうんでしょ?」
「はい! ありがとうございます。アリサ様!」
「……それ、やめて……」
「……はい?」
アリサは顔を赤く染めながら顔を逸らしながら恥ずかしそうに言った。
「だから! 様って付けないで! あたしの事はアリサって呼ぶこと! あたしもあんたのこと、リオンって呼ぶから! 2人だけのひみつを持つってことはそういうことでしょ? だからあたしのことはアリサって呼び捨てにしなさい! 分かった? リオン」
「はい! アリサ! ありがとうございます!」
「べつにいいわよ……それじゃ、このことは2人だけのひみつ……ねっ」
そう言ったアリサは恥ずかしそうに小指を立てて俺の方に突き出す。
「ああ、指切りですか? 分かりました!」
「んっ……」
アリサは顔を耳まで真っ赤に染めながら俯き加減に小指を絡めた。
「……そ、それじゃ。ま、また後でね……リオン……」
「はい! また後で! アリサ!」
そう言い残してアリサは恥ずかしそうに顔を覆って浴室を飛び出して行った。




