アリサ・フェルベール。5
「なにが当てる気がないだ……しっかりと当たってるじゃないか……俺が避けなかったら直撃コースだ……そっちがその気なら!」
俺は深呼吸をしてその場でぴょんぴょんと軽く跳ぶと、一気にグランツに斬り込む。
さっきと同じく残像が残るほどのスピードでグランツの懐に飛び込むと木剣を横に振り抜いた。
グランツが足で俺を蹴ると、木剣を振り抜いた俺の姿がスッと消えた。
「いい作戦だ……しかし、まだ甘い!!」
グランツはそれを見て目を見開くと、背後に向かって木剣を振り抜いた。
カーンッ!!
木剣同士が当たる音と共に地面を転がる音と土埃が辺りを包む。
「うわあああああっ!!」
俺が地面を激しく転がって庭の木にぶつかって止まる。
「ふっ……リオン君。もう止めだ! 大体分かったからね……」
「くっ……なにをっ!! 僕はまだ負けてませんよ!!」
「もういいんだ……これは対戦が目的ではないからね……」
「……はい?」
俺が木に打ち付けた体を押えて立ち上がると、グランツは地面に木剣を突き刺して笑う。
「ランベルク隊長。あなたの御子息は素晴らしい魔法をお持ちだ……私も実際に受けてみるまでは半信半疑でしたが、これは王国の歴史がひっくり返りますよ」
「やはりか……」
グランツとランベルクは何かを話してニヤニヤと笑っている。
「リオン君! 君は魔法が使えないのではない! 無意識に魔法を使用しているのだ!」
「はい? なにを言っているんですか! 僕は魔力の数値が低すぎて初級魔法すら使えないんですよ! 気休めは止めて下さい!」
俺がむっとしながらそうグランツに言うと、彼は苦笑いを浮かべながら言葉を返す。
「いや、使っているのだ! 君の魔法は身体強化魔法だ! この王国でも使える者は数千年に一度現われるかどうかの貴重な魔法なのだよ!」
「……身体強化魔法?」
「そうだ! 説明するからこっちに来なさい!」
グランツの言葉に俺は半信半疑で手招きしている彼の方へとやってきた。
地面に刺していた木剣を取って地面に向かって絵を描き始めるグランツ。
「いいかい? 本来は魔法というものは体内の魔力を具現化して爆発させるものなんだ。しかし、身体強化魔法は違う。体内で魔力を循環させて必要な部位で爆発させる魔法だ」
「……意味が分かりません」
グランツは2つの人型の絵を地面に描いてその横に風船を描く。
「つまり、風船に空気を入れるのと同じだ。ゆっくり空気を入れれば風船は割れない。しかし、一気に最大値を超える空気を入れると風船はどうなる?
「そんなの……弾け飛ぶに決まってます」
「そうだ。これが君の体の中で起きている現象なんだ……」
グランツは俺の手を掴んで言った。




