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呪紋の覚醒38

 ウィストムの話を最後まで聞き、圭は妙な出で立ちの少年が誰であるのかを確信した。

「……翔ちゃんだ。……酷いこととか、されてないよね?」

 真剣な面持ちを崩さず、圭は彼に更なる問いを投げかけた。それに対して、ウィストムではなくリークが口を開いてゆく。

「安心していいよ。リュイールは、どちらかと言えば温厚な王国だからね。酷い扱いは受けていないはずだ。その親子が本当に城へ向かったのなら、彼の疑いはすぐに晴れるよ」

「……良かった」

 リークの説明に安堵の息を吐き出して、圭はようやく落ち着きを取り戻した。翔平さえ無事でいれば、彼らに何かを言うことはない。例え、翔平が人攫いに間違われた起因が彼らにあるとおぼろげに頭で解っていても、彼はそれ以上波を荒立てることはしたくなかった。

(翔ちゃんが無事に元の世界へ戻れるまでは、大人しくしていた方がいいよね。でも――)

 問うべきものは訊こうと、圭は口を開く。

「もしかして、翔ちゃんが人攫いに間違われたのは、貴方たちが呪紋の所持者を集めていることが原因なの?」

 視線を隣のケイオスへ向けていった。しかし、圭に見上げられながらも、彼は平然と受け止めていく。

「結果的にはそうなるが、故意にそうした訳ではない。我々の行動は単に、呪紋の所持者を見出し守護の塔へ導いているに過ぎない。それを多の者が人攫いと評しているだけだ」

 そんなケイオスの説明を、圭は表面上素直に受け取るが心の中では別の解釈をしている。

(ぼくが召喚された時のことを考えると、この人たちのしていることは人攫いと何も変わらない。きっと、その人の心の隙間を突いて、半分強制的にここへ集めているんだ。知り合いの誰かが突然居なくなったら、誰だって人攫いに遭ったって思うよ)

 圭がそんなことを思っている横で、ウィストムの報告は更に続いてゆく。

「話を戻すとしようかの。――ルヴィスタで耳にしたのだが、二週間後に城で舞踏会が催されるようだ。大陸にある国々の王族や貴族たちが招かれるらしい」

「ルヴィスタで舞踏会か。その話が確かなら、リュイールのみならず他の大国にも隙が出来る。我々が表立って行動出来るいい機会かも知れん。……リーク、お前はどう思う?」

 ケイオスに話を振られ、リークはその身に冷徹な雰囲気を纏わせた。そして、何かを考え込んだ後、僅かに眉根を寄せて厳しい表情をする。

「……恐らく、罠です」

「罠?」

「はい。リュイールは付き人制度を嫌って、同盟国以外の王族や貴族を王国に招いたことがありません。舞踏会を催すとなれば、他国に何かを仕掛ける動きがあるのだと思います。それを考えると、警戒は緩むどころか強化される可能性が高いでしょうね。リュイールを狙うのであれば、お勧めは出来ません」

「そうか。お前は誰よりもリュイールの事情に詳しい。その判断を念頭に置くとして、まずは他の王国の報告も聞こう」

 そこでリュイール王国の話が一段落すると、ウィストムは静かに後ろへ下がって行った。それと入れ違いに、ひとりの所持者が前へ出て行く。

 その所持者は、圭よりも幾つか年下のように見える。銀色の髪を持つ、圭よりも小柄でやや気弱そうな少年だ。一瞬だけ圭をちらりと見やった後、彼はケイオスを見上げた。

「星を司る神の闇、希望の紋章の所持者フォルスト、戻ってきました。……大体の小国を回ったけど、前と同じで変わった様子はなかったよ。だけど、ウィス爺さんの言ってた舞踏会の噂は聞いた気がする。……王族と貴族の人たちが何か張り切ってた」

 それだけを言い終えると、フォルストはまた圭をちらりと見やって、頬を赤らめながら後ろへ戻ってしまう。口を挟む間すら与えてくれない彼の態度に、次の所持者が苦笑いを浮かべながらやって来た。

「すまないね。あの子、恥しがり屋で人見知りするんだ」

 そう圭に謝る所持者は、白に近い灰色の短髪に褐色の肌を持つ長身の女性だ。フード付きの黒いマントの隙間から、鞘に納められた細身の剣が見え隠れしている。

「君、名前は何て言うんだい?」

 その問い圭が素直に答えれば、彼女は自信に満ち溢れた笑みを浮かべた。

「圭、か。あたしは力を司る神の闇の存在、制御の紋章を宿すトワイティ。傭兵を仕事にしていたから、どちらかと言えば剣技の方が得意分野なんだ。もしも一緒に闘うようなことがあったら、前衛は全面的に任せていいからね。これから宜しく」

 頼もしげな自己紹介だ。圭が小さく頷けば、トワイティはそれに頷き返して視線をケイオスの方へ移していった。

「ケイオス。ミサンダリア王国へ行ってきたけど、イディアの話した通り、まだ何も判らないね。ただ、舞踏会の噂はこの王国にも流れていたよ」

「どうやら、舞踏会の話は確実のようだな。――サンデストの方はどうだ?」

 ケイオスの問いかけに、トワイティと入れ替わりにまた別の所持者が前へ出る。その所持者を目にするや否や、圭は頬を赤らめてその人物から目を逸らしてゆく。

「あら、可愛い反応なこと」

 そう言ってくすくすと笑うのは、妖艶な雰囲気を纏う絶世の美女だ。緩やかにうねる黄金の長い髪を微かに揺らし、彼女は圭の眼前へと歩いていく。しかし、圭が目を逸らしたのはその容姿が原因ではない。彼女のマントの隙間から覗く服装が、豊満な胸を強調させるような露出度が高いものだったからだ。

「初めまして、圭くん。わたしはパテイシャ。欲望を司る神の闇と言われている、誘惑の紋章を宿しているの。……よろしくね?」

 男を誘うような眼差しを圭に向けて、パテイシャはゆっくりと妖しい微笑を浮かべた。彼女に魅せられて、圭は惚けたように凝視するばかりだ。

「ケイオス様。この子、本当に可愛い。女の子みたいなのに、ちゃんと男の子なのね」

 だが、ケイオスに投げかけた彼女の科白に、圭の惚ける思考は瞬時に吹き飛んでいった。無意識の内に、彼の眉間に皴が自然と寄っていく。

「無駄口はそこまでだ。我はサンデストについて訊いている」

「ええ、解っていますとも。……残念ですが、お知らせることはありません。舞踏会の噂については、トワイティさんに同じです」

 他の所持者と何ら変わらない報告を口にして、パテイシャは妖艶な微笑を湛えたままで圭を見やってからその場を後にした。そんな彼女とすれ違いながら、今度は細身な体格の青年が歩いてくる。

 漆黒の双眸に感情の一欠けらさえ窺えない、凍てつくような冷たい眼差しが印象的な男だ。その眼差しと相まって、人を寄せ付けようとしない雰囲気が強調されている。

「……傲慢を司る神の闇の存在、崩壊の紋章の所持者ラピュセだ。……封印の鍵の在り処は掴めそうだが、今は報告する段階じゃない。噂は……ファリアードにも流れていた」

 ラピュセは圭を一度も見はしなかったが、名を名乗った以上、一応は自己紹介をしているようだ。伝えるべきことを伝え、彼は踵を返していった。

 彼の次にやって来たのは、背中に大きな剣を背負う壮年の大柄な男だ。額や頬に傷があるものの、渋さと厳しさが同居する面持ちに頼もしさが窺える。

「圭と言ったか。俺は支配を司る神の闇の存在である、統一の紋章を宿すフォルケイだ。以後、宜しく頼む。――ケイオス殿。ウィンダー王国についてだが、貴殿の創り出す歪で立ち入ることが出来なくなってしまったようだ。王国を囲む小国から飛竜で進入を試みたが、それさえも無駄に終わってしまった」

 フォルケイの報告に、ケイオスの片眉が僅かに動く。

「どう言うことだ? 閉鎖的な王国とは言え、先頃までは自由に行き来出来たはずだが」

「理由は判らんが、いつの間にか魔力の宿った風の壁のようなものが王国を覆い包んでいた。王国に用のある者たちもその風に阻まれ、その地へ踏み入ることが出来ずに足止めを食らっている状態だ」

「……ウィンダーの元老共が、我らの存在に気付いたと言うのか?」

 そう呟きながら難しい面持ちになる彼に、フォルケイは腕を組みながら渋い顔をする。

「それは俺にも判らん。探ろうにも、手のつけようもない。……すまないな」

 ケイオスに小さく謝ると、彼はその場から踵を返してゆく。だが、フォルケイの報告が終わっても、ケイオスはまだ難しい表情をしていた。圭はそんな彼をちらりと見やって、視線をまた前に戻していく。すると、そこに白い短髪を立たせた頭に、顔の半分に刺青のような黒い痣がある少年が立っていた。

 圭と目が合うと、彼は唇の片端を吊り上げて笑ってみせる。

「よう、同志。オレは罪を司る神の闇、罰の紋章の所持者ヴァッシュってんだ。あんた、オレたちより強い力を持ってんだって? 今度、試しにり合ってみない?」

 ヴァッシュの物言いは、冗談を言っているかのような響きがある。だが、その目は笑っていない。何処か狂気染みたものを彼から感じ取れて、圭は無言のままで首を左右に振る。そんな圭に対して、彼は小さく舌を打ち鳴らして「面白くねーの」とひとりごちた。

「ヴァッシュ。死に場所を求めるのは構わないが、今はやるべきことがあるだろう」

 更にケイオスにそう窘められ、ヴァッシュは仏頂面でそっぽを向いてしまう。そして、そっぽを向いたままで口を開く。

「セントウォールだけど、何の動きもなかった。所持者らしき奴も見当たんないし、封印の鍵はまだ絞り切れてない。舞踏会の噂は言うまでもねーだろ?」

「それだけか?」

「…………」

 問いに答えようとしない彼に、ケイオスは無言の威圧をかけた。暫くすると、彼は渋々と言った感じで口を開いてゆく。

「……知らねー奴とり合った」

「目立った行動は控えろと、我は言ったはずだが? ――お前はこれから、二人一組で行動して貰うことになる。異論はないな?」

 ケイオスの冷静な言葉に、ヴァッシュは渋々と頷いて皆の立つ場所へと戻っていった。そこからおっとりとした空気を纏う、薄茶色のふんわりとした髪質の少女が歩き出す。彼女は二人の前まで立ち止まると、小さくお辞儀をしていった。

「圭君、でしたね。初めまして、私は生命を司る女神の闇の存在、誕生の紋章を宿しますヴァリアンと申します。不束者ですが、どうぞよろしくお願いしますね」

 圭に柔らかな笑みを浮かべると、ヴァリアンはケイオスに視線を移す。そして、柔和な顔立ちをすっと引き締めていく。

「ゼウイムス王国ですが、あまり動きは見られません。しかし、別の動きはありました。リュイール王国がゼウイムス王国に対して、何かを働きかけているようですね。恐らく、舞踏会の件と何か関係があると思われます。――これは確実とは言えずイディアさんにお伝えしていませんが、イリス女教皇が調律の紋章を宿している可能性があります」

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