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呪紋の覚醒29

 二人は揃って、生命の樹の傍へ降り立つ。

 大地に降り立てば、そこは自然と魔族や動物たちが共存する楽園だった。

 裸の大地を覆い隠す草花。空に向かって伸び上がる木々は豊富な果実を身につけ、地上に生きるものたちに恵みを与えていた。

 魔族と動物たちはそれらを荒らすことなく、与えられた分だけを食して種を土に還してゆく。風が吹けば木々の葉は散り、それは全て掻き集められ彼らの寝床となった。

 春夏秋冬、その繋がりは変わることはない。

 それらの要となっているのが、大陸の中心に聳える生命の樹である。自然を生み、魔族を生み、動物を生む。生まれたものたちは、争いを起こすこともない。彼らの文明が発達しない代わりに、平穏な日々は永久に約束されていた。

 何処を見渡しても緑の世界は続き、圭は心の中に安らぎを感じずにはいられない。

「これが、最初の世界?」

 眼前にある世界を見詰めながら、圭は隣に立つケイオスに問い掛けた。

「そうだ。人間の居ない世界は、このような世界が広がっていた。だが、それは人間たちの唐突な登場によって、消えてしまう運命にある。――生命の樹を見ろ」

 彼に促されて、圭は生命の樹へ視線を移してゆく。すると、生命の樹と重なるようになりながら、透明に近い色の巨大な半円の扉が現れた。

 巨大な扉は、両開きであるが取っ手と言うものがない。代わりに、扉の中心部で円に囲まれた六芒星の紋章が刻まれていた。紋章部分に目を凝らせば、円と六芒星が重なる部分に鍵穴があり鍵が刺さっている。

 鍵は全部で六つだ。それぞれの違った彩りを帯びて淡く光を放っていた。一番上の鍵は黄色。右上の鍵は白色。右下の鍵は赤色。一番下は緑色。左下の鍵は青色。左上が土色。何かの属性を示すように淡く光り、光は途絶えることはない。

「これは、何の扉なの?」

「賢愚の門と呼ばれるものだ。賢愚の門は、世界と世界を繋ぐ役割を果たしている。そして、鍵穴に刺さっているのは、封印の鍵。その鍵がなければ、門は開くことはない。賢愚の門はここに存在し得ないもので、強大な力によって創り出されたものだ。原因は不明だが、生命の樹に共鳴してこの世界へ現れた」

 そう言って、ケイオスはまた空へ向かって上ってゆく。圭もすぐさま追うように空へ向かった。

「人間たちは、その賢愚の門を潜ってやって来た。――門が開くぞ」

 「下を見ろ」と彼に言われ、圭は真下にある賢愚の門を見下ろす。それと同時に、扉はゆっくりと開かれた。

 賢愚の門から現れたのは、二十三人の男女だ。傷付いた身体を互いに支え合いながら、彼らはぼろぼろの姿で門を通ってくる。

「どうして、あの人たちは怪我を?」

「あの者たちは、元居た世界から逃げてきたようだ。賢愚の門を創ったのは、あの者たちで間違いない。強大な力を所持しているが故に元居た世界で迫害を受け、安息の地を求めてこの世界へ流れてきた」

 ケイオスの言葉に、圭は悲しげな眼差しで彼らを見詰める。彼らの悲しい境遇に何も言えなかった。

(……あんな目に遭わされただけで、悲しんでいるぼくってちっぽけだ。もっと悲しい目にあっている人たちは沢山居るのに)

 圭はそう思いながら、真下の彼らを見つめ続ける。その目に、賢愚の門が閉まる光景が映った。

 賢愚の門が閉まれば、二十三人の中のひかりの女がその門を振り返る。そして、目を瞑って呪文を歌うように唱え始めた。目を瞑ったままで両手を広げ、暫くすると彼女は祈るように両手を組み合わせてゆく。

「あの女は、イリアスと言う名だ。後に、世界を司る女神と呼ばれることになる」

 ケイオスの言葉に、圭は目を見開いて彼を凝視した。

「世界を司る女神って……」

 驚きを見せる圭に、ケイオスが見詰め返す。

「お前の宿している、創造の紋章を創った者だ。イリアスは二十三人の中で、最も強大な力を持っている」

 それだけを言うと、彼は視線を真下に戻していった。

 賢愚の門がイリアスに共鳴し、光を帯びながら点滅している。そして、彼女がゆっくりと口を閉ざせば、門にささっていた六つの鍵が鍵穴から抜けて東西南北に飛び散った。

 黄色の鍵は北へ、白色の鍵は北東へ、赤色の鍵は南東へ、緑色の鍵は南へ、青色の鍵は南西へ、土色の鍵は北西へ。鍵は流れ星のようにそれぞれの方角へ飛んで行き、やがて見えなくなった。

 その直後に、それぞれの方角で鍵と同じような色の光の柱が、一瞬の内に現れ空へ向かって伸びていく。天に伸びた光の柱は時計回りに線を繋げ、円の図を描き始めた。それが終われば、今度は六芒星を描き出す。光が描き出さそうとしているそれは、賢愚の門にある紋章だ。全ての線が繋がると、紋章を模ったそれは眩い光を放った。光は一瞬の内に、世界中を駆け抜け、全てを覆い包んでゆく。

「わっ!」

 あまりの眩さに、圭は咄嗟に目を庇いながら手で顔を覆った。耳元では、轟音が鳴り響いている。恐らく、大陸が大きく揺れているのだろう。轟音に混じって、魔物や動物たちの驚いたような悲鳴が大陸中から聞こえた。

「これが世界の変改だ」

 隣に居るケイオスの呟きに、圭は顔を覆っていた手を離してゆく。彼らによって変改された世界を見渡した。そして、息を呑んだ。

 世界が――大陸が、封印の鍵の属性に変えられていた。

 大自然が広がっていた大陸は、特に変わったところはないように見える。だが、今まで見てきたものと明らかに違っているものがあった。

 北の高山では、雷鳴が鳴り響いている。北東では、白砂漠が広がっていた。南東では、眠っていた火山が噴火を始めている。南の高山では、風が幾度も吹き荒れていた。南西では、必要以上に水の影響が多くなっている。北西は変わったところは全くない。変改前と同じく、自然に満ち溢れる風景だ。

「これは、封印の鍵の影響だ。鍵に宿る精霊たちが、その土地を得意属性に変えている。イリアスは元居た世界の人間が追って来られないように、賢愚の門を閉じて鍵を大陸のそれぞれの場所に散りばめた。変改はそれだけではない」

「あっ、大人しかった魔物たちが……!」

 圭の目に映ったのは、今まで大人しかった魔物たちが暴れ出した光景だ。木々を薙ぎ払い、動物たちを襲い、さらに同族でも殺し合いを始めている。

「この世界になかった、闇が生まれた。人間の中に光と闇があるように、イリアスは世界に闇を与えた。そうしなければ、あの者たちの力は維持出来ない」

 ケイオスの言葉に、圭は小首を傾げた。そして、自分の考えを口にする。

「光だけじゃあ駄目なの? ぼくの世界の小説とかゲームとかで、光と闇があったら光の方が強いとかあるけど? 光の世界があるなら、別に闇は生まなくていいのに。――闘いが起こるだけだよ」

 圭にとっての尤もな疑問に、ケイオスは緩く首を左右に振ってみせた。その反応は、肯定も否定も含まれているように思える。

「俺はお前の世界を良くは知らんが、確かにお前の言う通りでもある。だが、光だけでは世界は変われない。イリアスが変改した世界は、光と闇が一対となるものだ。光は確かに強大だが、闇がなければその力は色褪せてしまう」

「つまり、闇は光の引き立て役ってこと?」

「まあ、そう言うものだ」

「……何だか、闇が可哀想だよ。……みんな平和で暮らしていたのに、この世界が可哀想。でも、元居た世界に居られなかった、あの人たちも可哀想」

 さらに悲しげな眼差しになりながら、圭は独り言のように呟いた。そんな彼に、ケイオスはまた口を開く。

「イリアスによって、世界の全てが変えられた訳ではない。生命の樹の周辺を見てみろ」

 彼にそう言われて、圭は生命の樹の周辺に目を凝らした。

 生命の樹の周辺は、先ほど目にした光景と大違いだ。魔物たちは何事もなかったかのように、平穏な暮らしをしている。

「イリアスの強大な力とて、生命の樹の魔力に勝りはしなかった。その為に、生命の樹の周辺は変わらないままだ。過去も現在も、静かに全てを生み出している」

 ケイオスがそう話している内に、眼下ではイリアスが口を閉ざし呪文の詠唱を終わらせていた。

 すると、イリアスの次にひとりの男が呪文を詠唱し始める。

「あの人は……?」

「リークの宿している、始まりの紋章を創った者だ。名は、アースフィル。後に、地を司る神と呼ばれている」

 アースフィルを追うように、またひとりの女が詠唱を始める。その次に、またひとりの女が同じように呪文を唱え始めた。それは、イリアスともうひとりの男を除いて広がっていく。そのたびに、ケイオスは圭に彼らの名と司る役割を説明していった。

 アースフィルの次に呪文を詠唱した女は、トーライサと言う名である。後に天を司る女神と呼ばれ、調律の紋章を創った者だ。

 次の女は、ラフィリアと言う名である。後に生命を司る女神と呼ばれ、誕生の紋章を創った者だ。

 次の男は、アンクイムと言う名である。後に支配を司る神と呼ばれ、統一の紋章を創った者だ。

 次の男は、フォリエントと言う名である。後に平和を司る神と呼ばれ、調和の紋章を創った者だ。

 次の男女は双子だ。二人でひとつの存在とされ、男はイアンで女はイオンと言う名である。後に愛を司る神女神と呼ばれ、融合の紋章を創った者だ。

 次の男は、チェリオッタと言う名である。後に勇気を司る神と呼ばれ、勝利の紋章を創った者だ。

 次の女は、スワイディと言う名である。後に力を司る女神と呼ばれ、制御の紋章を創った者だ。

 次の男は、ハーミルドと言う名である。後に理知を司る神と呼ばれ、知恵の紋章を創った者だ。

 次の女は、フォルチュンと言う名である。後に運命を司る女神と呼ばれ、輪廻の紋章を創った者だ。

 次の女は、ジャスティーと言う名である。後に正義を司る神と呼ばれ、天秤の紋章を創った者だ。

 次の男は、ホーリマンと言う名である。後に罪を司る神と呼ばれ、罰の紋章を創った者だ。

 次の男は、ダースと言う名である。後に死を司る神と呼ばれ、混沌の紋章を創った者だ。

 次の女は、テンパレスと言う名である。後に節制を司る女神と呼ばれ、秩序の紋章を創った者だ。

 次の男は、ディオルクと言う名である。後に欲望を司る神と呼ばれ、誘惑の紋章を創った者だ。

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