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呪紋の覚醒19

 村長と村人の徒ならぬ雰囲気に、翔平とリークは互いの顔を見合わせる。そして、二人は視線を村長に向けた。

「何か知っているんだな?」

 それは確信を得た問いだ。

 翔平に対して、村長と村人たちは厳しい眼差しを向けてくる。

「貴方方は、彼らの使いの者ですかな?」

「彼ら? 使い?」

 村長の問いを反芻しながら、翔平は何事かを考え込むように一瞬だけ押し黙った。

「……もしかして、フード付きの黒いマントをつけた奴らか?」

 更なる問い掛けに、リークを除いた誰もが深く頷いてみせる。

 すると、今度はリークが口を開いていく。

「僕たちは、彼らとは無関係です。ここへ訪れたのは、カイン王子の指示があってのものです」

 落ち着き払った説明に、その場がまたどよめいた。

「そうですか。一昨日のことをご存知でしたので、てっきり……。以前にもこの村へ使いの方が来られましたが、今回は封印の鍵を求めに?」

「いいえ、在り処を知りたいだけです。僕たちは鍵を手に入れたいわけではなく、守る者として場所を探しているんです」

 リークはそう言って、周りを見回して安心させるように微笑んでみせる。

 彼の隣で、翔平が両腕を組んだ。

「――一昨日のことは、あんたたちの様子がおかしいことを家の坊主たちから聞いた。それで、そうなったのは奴らが原因なのか?」

 本題とも言える質問を投げ掛けると、村長は肯定するように頷いていった。

「そうか。……鍵のこともそうだけど、俺たちはそいつらを追っているんだ」

 「だから、奴らのことを教えてくれ」と先を促す彼に、村長と村民は互いの顔を見合わせて頷き合う。

「では、お話しましょうかの」

 村の最高責任者である村長が語り始めた。


 それは、一昨日の日中のことである。

 この村に、フード付きの黒いマントを纏った美少女と美女が訪れた。美少女は緩やかな栗色の髪と金に近い色素の薄い瞳を持ち、美女は腰まで届く長い黒髪と愁いを帯びた闇色の瞳を持っていたのが印象的だ。

 その時、二人に対応したのは、他でもない村長である。他の村人たちは自給自足の生活を送っている為に田畑などの仕事を行い、子供たちは村の周りにあるそれぞれの遊び場で遊んでいた。

 村長は、家に訪ねて来た二人に問う。

「旅のお方、このような村へ良くぞお出で下さった。――して、わしの家へ訪ねて来られたのは、どんなご用かの?」

 すると、美少女が顔を綻ばせた。まるで確信を得ているような笑みだ。

「それは勿論、この村に伝わる封印の鍵の場所を教えて貰うためだよ。知っているんでしょう?」

 単刀直入な切り出しに、村長は僅かに目を見開いた。封印の鍵を求めて、村へ訪れる旅人は皆無だったからだ。鍵の存在すら噂話に上るだけで、実際にあることを誰も知らないはずである。

 村長はすかさず平静さを装ってみせる。

「はて? 封印の鍵とは如何なるものか? 初めて耳にしますぞ」

 だが、はぐらかしは一切通用しないようだ。美女が口許を手で隠しながら、おかしそうに微笑む。

「私たちに下手な誤魔化しは効きません。確かな情報があるからこそ、この村を訪ねたのですよ?」

 美女に続いて、美少女が口を開く。

「変に誤魔化さない方がいいよ? 場合によっては、実力行使をしなくちゃいけなくなるからね」

「知らないと言うものを話せと言われても、無理がありましょうに。実力行使をされても、何も出はしませんぞ」

 彼女に脅されたところで、村長に鍵の在り処を教える気は更々ない。

 封印の鍵は、代々村の長となる者が守らなければならない代物だったからだ。そして、村人たちもまた封印の鍵の守り人として育てられた。王族の命ならば仕方がないが、それ以外はどんなことがあろうと、彼らは口を開きはしないだろう。

 頑なな村長の態度に、美少女と美女が妖しく笑んだ。

「本当に宜しいの? この子が言ったことは、単なる威しではなくてよ? 例えば、こんな風に……」

 彼女は右手を天に翳して、小さく呪文を呟いていった。

 すると、上空に村の広さと同じくらいの魔方陣が浮き上がる。

「な、何を……!」

 村長が上げようとしたとき、魔方陣がゆっくりと回転をし始めた。やがて回転は早さを増し、魔方陣から幾数もの闇色の矢が現れて、村全体へ雨のように降り注いでいく。

 闇色の矢は、村に滞在していた者たちへ向けて頭上から突き刺さっていった。あちらこちらから、人の悲鳴が聞こえる。屋内に逃げ込んでも関係ないようだ。屋根を傷つけることなく突き抜けて、村長の身にも襲ってくる。

 矢に貫かれたものの、傷は出来ておらず血も流れていない。村長は訳も分からず、ただ呻き声を漏らして床へ膝をついた。両手は心臓を庇うかのように、左胸へ押し当てられている。

「何を……した……?」

 目の前に居る彼女たちを見上げながら、村長は苦しげに問いを投げかけた。

 呪文を唱え続けている美女の代わりに、美少女が質問に答えてゆく。

「死んだら困るから、命は奪わないよ。ただ、貴方たちに呪いの矢を突き刺しただけ。――日に日に魔物に変わっていく呪いの矢を」

「……呪いの矢?」

「うん。最初は影だけで済むけど、一週間もすれば魔物になっちゃうよ。魔物になったら大変だね。……どうなっちゃうのか、予想はついている?」

 楽しげな口調に、村長は眉間に皺を寄せながら押し黙った。

 現在、村に居るのは大人たちだけである。子供たちは、村の周辺で仲良くなった魔物と遊んでいる。つまり、大人たちだけが魔物に変わってしまうのだ。

 凶暴な魔物になれば、村の子供たちを手にかける可能性が出てくる。彼らは抗う術もなく、子供たちを人質に取られてしまった。

「ほら、手から段々と黒くなってきたよ?」

 指摘されて、すぐさま左胸にある手を見る。

 両手が皮膚をなくし、色素が黒々としたものへ染まりだしていた。感触は確かにあるが、どう見ても影のような手だ。

 村長は言葉にならない悲痛な声を上げた。人間でなくなることを実感して、恐怖心が彼を混乱の渦へ呑み込んでいく。

 一部始終を眺めながら、美少女はさらに艶然と微笑んだ。

「影は昼間に見えて、夜は明かりがなければ消えているよね。それと同じで、貴方たちは夜にしか人間に戻れない。こんな姿を他の人たちが見たら、どう思うのかなあ? 完全に魔物になっちゃったら、怯えるのかな?」

 彼女から畳みかけてくる言葉に、混乱の渦中にいる村長は何も答えることが出来ない。

 美少女はさらに畳みかける。

「可哀相だから時間をあげる。明明後日に、ぼくたちはまたこの村へ来るよ。だから、それまでにみんなと良く相談してね。――答えによっては、人間に戻してあげるよ」

 救済を仄めかす言葉に、村長は当然、頷くことが出来なかった。答えは否と決まっている。しかし、このまま最悪な現状が続けば、或いは教えてしまうのかも知れない。

 村長の身体は影の部分が広範囲になってきた。手から始まって全身を蝕むものは、それほど時間は掛からなかった。

 美女がふいに口を閉ざす。頭上へ翳されていた右手をゆっくりと下ろしていく。すると、上空にあった魔方陣が跡形もなく薄れて消えていった。

「圭。そろそろ時間よ」

 彼女が美少女――圭に小さく言葉を投げかけた。

 すると、彼は隣の美女を見上げて頷き、また視線を村長に戻してゆく。

「それじゃあ、ぼくたちは時間がないから帰るね。――明明後日に、いい返事が聞けるといいな」

 それだけを言い置いて、二人はその場から踵を返していった。村長は彼らの後ろ姿を、ただただ愕然と見送るしかない。

「あの子は、どうしたの?」

「……彼なら暴走を起こして、村の近くの小さな滝へ行っちゃったよ」

「……そう。最近、多いわね」

「多分、不完全なことともう一人の彼が影響しているのかも。でも、すぐに戻ってくると思うよ」

 そんな会話を交わしながら、圭と美女は目の前にできた歪みの中へ入って行った。やがて、歪みは空間に溶け込んで消えていく。

 不可解な光景を、影となった村長はやはり見詰めるしかなかった。

 その後、村の大人たちはそれぞれの家に子供宛の置手紙を残していく。彼らは村長の家で話し合いを行いながら、遠い夜がやってくるのを待つことになった。人と影としての二面生活が始まったのは、そこからだ。


 そこまでのことを話して、村長は深く息を吐き出す。

「……これが、一昨日にこの村で起こった出来事。信じ難いことですが、全て真実なのです」

 彼の説明を耳にしながら、翔平は驚愕して言葉を失った。その反応は、村で起こった出来事に対してでもあるが、何よりも圭に対するものが大きい。

(圭が……そんな、まさか)

 心の中で、否定する言葉が反芻される。

 だが、翔平とは違い、リークは特に驚くことはなかった。彼は予め、圭に対する予想をつけていたようだ。

 翔平にとって、圭は「強制的に一団と行動を共にしている」の位置づけになっている。しかし、見解は見事に覆され、村長の話によって真実を突きつけられた。

 否、翔平はただそう思い込もうとしていただけである。あの圭の夢から、彼は薄々とそれを感じ取ってはいた。そして、圭が呪紋の所持者たちと行動を共にしている以上、彼もまた呪紋を宿している可能性がある。翔平はそのことに、その身を以って体験している。

「……リーク」

 翔平が動揺をしながら、小声で隣のリークを呼んだ。

 すると、リークは翔平を安心させるように微笑んでみせる。

「落ち着いて。君の話したいことは、良く判っているよ。――けれど、今は彼らの話を聞くのが先だ」

 冷静に小声で返され、翔平は口を噤んだ。俯きながら眉間に皺を寄せ、細く息を吐き出してゆく。

(落ち着け。まだ、そう決まった訳じゃないだろ? 今は目の前にあることに集中しろ)

 何度も自分に言い聞かせて、翔平は顔を上げた。いつもと変わらない表情だ。

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