表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/84

呪紋の覚醒18

 翔平は驚きに目を見開きながら、真上にあるリークの顔を凝視した。彼に対する言葉が何一つ出て来ない。拘束されているわけでもないのに、身体は金縛りにあったような状態だ。

 翔平の上で馬乗りとなったリークが、自分の唇をゆっくりと彼の額へ寄せて押し当てる。次に目許へ移り、翔平は咄嗟に目蓋を閉じた。

 柔らかな唇の感触が薄い皮から伝わってくる。

 今度は鼻先へ、頬へ、耳元へ、唇へ、顎へと、唇は移動してゆく。

「……リーク?」

 彼の不思議な行動に、翔平は漸く口を開くことが出来た。

 すると、リークが翔平を真っ直ぐに見詰める。

「翔平に触れたい」

 はっきりとした欲情を瞳に湛えて、彼は甘く囁いた。

 触れたいと言う言葉は、一体何を意味しているのだろうか。言葉そのものか或いは別の意図なのか、翔平にとっては判断しがたいことである。

 どちらにせよ、翔平はそう簡単に受け入れるつもりはない。リークへの気持ちがあったとしても、それとこれは別である。

 翔平が両腕を上げて、また沈み込んでくるリークの上半身を押し返していく。

「……や、止めろよ」

 制止の言葉がどもってしまうのは、彼の中に焦りが見え隠れしているからだ。

 そんな翔平の手を掴んで、リークはその手にも唇を落としていった。

「ごめんよ。今だけは……君に従えない」

 そう言いながら、翔平の両手の指に自分の指を絡める。そして何かの呪文を呟きながら、彼の両腕を地面に縫いつけた。

「お、お前、何をした?」

 身体が動かないことに、翔平は更なる焦りを覚える。

 リークは笑みを浮かべるだけで、翔平の問いに答えはしない。身体を少しだけ後ろへずらして、翔平の首に唇を寄せた。

 翔平の全身に、冷や汗が流れ出る。その汗さえも舐めるように、リークは首へ舌を這わせていく。

 リークが翔平の片方の手から自分のそれを離して、遠慮がちにゆっくりと服の中へ潜り込ませていった。腹から胸元へ優しく手の平を滑らせて、翔平を形成する身体を確かめるように触れてゆく。

「……リーク、止めろって」

 声を上げることしか叶わない翔平は、不快感を顔に表しながら再び制止の言葉を口にした。

 それでも、何かに突き動かされたように、リークの行動は止まらない。

 リークが翔平の服を捲り上げる。外部に晒された翔平の裸の胸元――心臓のある部分が、緊張と焦りの為か目視できるくらいに激しく脈打っていた。そこへ唇を落としながら、彼の手は下半身へと流れていく。

「リーク!」

 翔平が怒りの滲む声を上げれば、リークは言葉を塞ぐように唇へ口づけた。

 下半身へ流れていく手は、翔平の手へと戻り再び指を絡めていく。

 唇を合わせながら、翔平の口内へ舌を差し入れ、無意識に手にした情欲に身を任せ口腔を犯してゆく。歯列をなぞり、上の歯の裏側――口蓋(こうがい)へ丹念に舌を這わせていった。

 そこで舌が動くたびに、翔平は訳の判らないむず痒さを感じているようだ。耐えるかのように、目蓋を閉じながら眉間に皺を寄せている。捲られたままの胸元は、先程よりも上下の動きを早めていった。

「ん……う……」

 リークの何度も続けられる行為に、翔平の中でむず痒さはやがて緩やかな快感を伴いようになる。

 鼻にかかったような、小さな声が漏れた。

 翔平が自分の声に驚いて目を見開けば、行為を続けながらこちらの様子を窺う目とかち合う。

 熱っぽい視線だ。今までに見たことのない、艶っぽく快感に満たされた碧い()だ。

 リークをそうさせているのは、翔平自身に他ならない。それを感じ取って、翔平はあまりの恥ずかしさに頬を赤く染め上げた。

 すると、リークが目を細めていく。やがて、ゆっくりと閉じられていった。

 親密な行為はなおも続いている。限られた時間の中で、リークは足りないとばかりに翔平を堪能してゆく。

 濃密な接吻が、徐々に翔平の正常な思考を奪う。リークにかけられた魔法が解かれているにも関わらず、翔平は目蓋を閉じ、絡まれた指に自分の指を絡め返していった。

 口と口の間で、翔平とリークの舌が絡み合う。それはやがて軽いものに変わり、単なる口づけ合うものとなった。

 ただ口づけ合い、高まる欲望を静めてゆく。

 そうして、リークは翔平から唇を離していった。最後に彼の濡れた唇を啄ばみ、絡み合った指も離していくとその唇を優しく拭う。

 リークが、翔平の上から身体を退かした。自分の濡れた唇も服の袖で拭い、翔平の横へ身を落ち着かせる。

 翔平は上半身を起き上がらせて、先ほどの行為に戸惑いを見せながら僅かに乱れた服を直していく。マントを纏っていた為に、地面に押し倒された際の汚れはない。

 気まずげな雰囲気が、二人の間を包み込む。沈黙が続いている中で、微かな甘さと苦さが同居している。

 だが、それはリークの頭を叩く音で一掃された。

 リークの頭を叩いたのは、他でもない翔平である。言葉もなく、彼は衝動のままに手を上げていた。

「……翔平」

 リークがすまなそうな顔をするも、翔平はさらに目つきを険しくする。

「お前は何で、こんな時にあんなことをするんだ。……どうすればいいのか判らなくなるだろ」

 行為を仕掛けてきたリークと、最終的に応えてしまった自分。落ち着きを取り戻した途端に、翔平は腹を立てずには居られない。

 その場の雰囲気の流れと言うものがあるが、今はそんなことをしている場合ではないのだ。

「ごめんよ。僕はどうしても、君とそうしたかったんだ。君の気持ちを聞いて、冷静で居られることなんて、出来ないよ」

 リークの言い分は、翔平にも理解出来るものだ。だが。

「……初めて、君をどうにかしたいと思った。何をすればいいのか、どうすればいいのか判らなかったけれど、君に触れてみたいと思ったんだ」

 さらに彼から継がれた言葉に、翔平はどう言い返せばいいのか判らず押し黙る。

 そして、リークも押し黙ってしまった。

(……結局判らなくて、ああなってしまったけれど)

 リークは先ほどの光景を思い返して、それ以上の何かを望んでいたことを自覚する。だが、やはり彼にはそれが何であるのかを知る術はなかった。

 リークの情欲の衝動は、ままならないままで終わってしまう。だが、翔平にとってみれば、あれだけで良かったとほっとするものがあるだろう。無論、翔平はリークの「それについて」を知ることはない。

 翔平がふいに深い溜め息を吐き出した。

「もう、こんなことはするなよ」

 溜め息と共に吐き出された一言は、それでもうリークを許しているような響きがある。それだけで許してしまえるのは、恐らく相手が彼であるからだろう。

 しかし、リークが彼の言葉に頷けるかと言えば、それは否である。暴走と同じように、いつ何時その衝動に突き動かされるのか判らないのだ。

「……本当にごめんよ」

 リークは翔平に対して、ただ謝罪するしかなかった。

「……そんなに謝るなよ」

 彼の困ったような顔を目にすると、翔平はそっぽを向いていく。そして、気を取り直すかのようにすっくと立ち上がった。

「……そろそろ時間がなくなってきたし、行こうぜ」

 無愛想な調子で告げるなり、翔平はリークを置き去りにしてその場から踵を返してゆく。

 翔平の態度に、リークは苦笑を浮かべるしかない。ゆっくりと立ち上がると、彼の後を追うように歩き始めた。


 二人が村長の家に辿り着いたのは、全てが完全な夜へと変化を遂げた時である。

 村長の家の窓から明かりが漏れ、影たちが漸く本来の身体に戻ったことを知らせていた。

 翔平が家の扉を叩けば、待っていたかのように扉がゆっくりと開かれる。

 扉を開けたのは、村の長その人のようだ。年老いた目元を優しく細めて、翔平とリークを出迎える。その顔は憔悴しきったものがあった。

「……旅のお方、良くぞお出で下さった。先頃はおかしなところを見せてしまい、さぞや驚かれたことでしょうな」

「いいえ。僕たちの方こそ、無断で家に上がってしまってすみません」

 リークがそう謝れば、村長は「気にしておりませんぞ」と人柄の滲み出る笑みを浮かべる。

 そんな彼に、今度は翔平が口を開く。

「それで、爺さん。ここで何があったのか教えてくれるか? あと、もう一つあんたに訊きたいことがあるんだ」

「そうですな。――では、中へ」

 村長に中へ通され、翔平とリークは家の中に入って行った。

 二人が村長と共にやって来た場所は、村人たちとの集会場となっている部屋だ。翔平とリークが、影となった彼らと出会った部屋である。

 部屋には、数名の男女が床に座って二人を待っていた。出会った当初の人数よりも少ないのは、子供の待つ家に戻った者が居るからだ。

 村長の後について部屋を移動し、二人は村人たちの前で腰を下ろした。

 床に胡座を掻いて、翔平は村人たちの表情を窺う。誰もが村長と同じく憔悴しきっており、暗く深刻な表情をしていた。

(…………)

 翔平が隣に座るリークを見やる。すると視線に気付いたのか、彼は見返してくると小さく頷いた。

 リークから視線を外して、今度は反対側の隣に座る村長を見やる。

「一昨日に、この村で何があったんだ?」

 翔平の単刀直入な問いに、村長が深刻な表情で頷いてみせた。

 何かを確認するように、村長が村人たちの顔を見回していく。村人たちはそれが何であるのかを理解し、村長に対してそれぞれの反応で頷いていった。

 村人たちの了承を得て、村長は隣の翔平を見る。

「……その話をする前に、貴方方は何故このような村へ立ち寄ったのかのう?」

 「ああ、それなら」と翔平は口を開く。

「俺たちは、封印の鍵の情報を求めてここへ来たんだ」

 翔平の回答に、村長が眉根を寄せる。周りにいる村人の誰もがどよめいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ