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呪紋の覚醒10

「にも関わらず、全く情報が掴めていないけどな」

 苦笑交じりのヴェントの言葉に、翔平は地図から彼に視線を移した。

「となると、一団は常に人目につかないように動いているんだな。――他の町や村なんかはどうなんだ?」

 翔平の問いに、カインが答える。

「調査の為に使いを走らせたが、情報を得ることは出来なかった」

「人の住む場所に限らず、洞窟など魔物が出やすい場所はどうだい?」

「調べてみたが、無駄だった」

 リークとカインのやり取りを聞いた翔平は、考えるように両腕を組んだ。

「――八方塞か」

 そんな翔平の真横に移動して、リークは思いついた事柄を口にする。

「……ひょっとしたら、歪みを利用しているのかも知れないね。歪みだったら、誰かに見られる心配は、あまりないと思うよ」

「ま、こんなに調べて、ないとなったらそれしかないだろうな。リークお……じゃなかった。リーク、歪みは何処で出来るか予測はつくか?」

 ヴェントの問いに、リークは微苦笑を浮かべながら首を左右に振った。

「歪みは恐らく、彼らが故意的に創り出しているものだと思うよ。残念だけれど、何処で出来るのかは予測がつかないね」

 その言葉に、ヴェントは「そうか」と呟きながら肩を落とす。

 その時、両腕を組んで考え込んでいた翔平が声を上げる。

「――なら一番手っ取り早い方法の、この国の鍵の在り処を調べて、待ち伏せればいいんじゃないか? 封印の鍵が実在しているなら、知っている奴も居るはずだと思うんだけど」

「そうだね。調べてみる価値は、ありそうだ。けれど、全員が全員、それにかかり切るのは、少し不味いと思うよ」

 翔平の提案に同意したものの、リークは先のことを考えてその科白をつけ加えた。

 リークの科白に、ヴェントが何かを決めたように頷く。

「二手に分かれた方がいいな。リークと翔平は、封印の鍵を調べてくれないか? オレらは引き続き奴らの聞き込みと、歪みを見つけられる方法を探してみる」

 「それで構わないか?」と、ヴェントは全員の顔を見回した。

 すると、カインを始め翔平が無言で頷いてゆく。リークは――。

「僕たちも色々と動きたいけれど、君たちの方がここに詳しい。それに、君たちの方が人を動かせられるからね」

 その言葉を口にしながら、ヴェントの提案に同意した。

「……言い忘れてたけど。ギルドのことについては、俺に任せてくれ。一応、ギルドのエージェントをやっているから」

 翔平が思い出したかのように口にすれば、ヴェントとカインが「助かる」と頷いていく。

 二人の同意を確認した翔平は、今度はリークを見上げた。

「その間は悪いけど、リークだけで封印の鍵を調べてくれないか?」

「……構わないけれど」

 そう言いつつも、リークは何かを言いたそうな、心配そうな眼差しで翔平を見下ろす。

 翔平がふっと、安心させるように口許に笑みを刻んだ。

「大丈夫だ。無茶はしないから」

 そう言ってみせるが、翔平のそれはあまり当てにならないことを、リークは良く知っている。以前のように影から見守ることは、「封印の鍵」の単語によって遮られた。

「……分かったよ。けれど、くれぐれも気をつけるんだよ」

 リークの言葉に、翔平はその笑みのままで頷く。

「ああ。だから、心配するな」

 力強い翔平の言葉に、リークは何も言えなかった。ただ、無言で頷くしかない。

「――そろそろ、いいか?」

 翔平とリークの話し合いが終わるのを見計らって、ヴェントは口を開いた。それと同時に、カインがセイレーンの構造を示す地図を退かせ、今度はセントウォール王国全土を示す地図に丸印をつけていく。

「この丸印は、古くからある村々だ。封印の鍵のことなら、こう言ったところの方が詳しいと思うぜ」

 そう説明するのは、ヴェントだ。カインがその言葉を継ぐ。

「すまないが、この件については極秘だ。その為、二人だけでやって貰いたい。村々への移動手段は、こちらで用意する」

 そう言いながら、カインは丸印をつけた地図を滑らせ翔平の方へ差し出した。

 翔平はその地図を受け取ると、持ち歩き易いように丸めていく。

「それで、連絡はどう取ればいいんだ? 村へ行くにしても、流石に日帰りで帰れない場所もあるだろ?」

 その翔平の科白に、今まで大人しくしていたリュークが唐突に小さな鳴き声を上げた。そして、彼の周りを飛び回っていく。

 それを目で追いかけながら、翔平は首を捻らせた。彼と同様に、他の三人も首を傾げながら眺めている。

 暫くして、翔平は何かを思いついたように「伝書鳩」と声を上げた。

「……もしかして、リュークはそれをやろうとしている、とか?」

 翔平の口から出た疑問めいた科白を聞きつけて、リュークが誰よりも先に反応を示していく。

 リュークが嬉しそうに鳴き声を上げて、翔平の肩へ再び降り立つ。

「リュークは、そのつもりのようだね。きっと、翔平の役に立ちたいのかも知れないよ」

 そのリュークを見下ろしながら、リークが翔平の言葉に同意した。

 彼らの様子を眺めていたヴェントが、カインを見上げて疑問をぶつける。

「竜って、人間の言葉を理解出来たっけ?」

「如何に聖なる竜であっても、本来は人間の言葉を理解出来ないはずだ」

「そうだよな。小白竜がここに居ること自体珍しいのに――あの竜、何かあるかもな」

 小声で交わされる二人の会話の内容に、翔平とリークは気づかない。リュークを眺めながら、竜の飛ぶ早さについての他愛もない話を始めていた。

 だが、またヴェントの一声で、会話は本題へ引き戻されてゆく。

「――連絡方法も決まったし、行動するのは明日からにしようぜ。今日は各自、明日の準備ってことでいいか?」

 ヴェントの言葉に、三人が無言で頷いた。

 次いで、カインが口を開きながら向かいの二人に目をやる。

「移動手段の方は、湖の辺で用意させておく。そこで、男がひとり待っているだろう。その男から、それを受け取ってくれ。必要なものがあれば、いつでも言って構わない」

「そう言ってくれて、助かる。――色々と悪いな」

 翔平の言葉に、彼は無言で首を左右に振るだけだ。必要なことは全て話したとばかりに、今度こそ口を閉ざしてしまう。

 そうして、彼らの話は取り敢えず一段落を迎えることとなった。

 開いた窓から外を眺めれば、いつの間にか日は天高く昇り、今の時刻が昼を迎えていることが判る。

 翔平は飲み物を飲み干すと、椅子から立ち上がった。

 そんな彼に、ヴェントが残念そうに声をかける。

「何だ、もう行くのか?」

「ああ。これから寄るところがあるんだ。悪い」

 すまなさそうに答える翔平を見て、ヴェントは気にするなと言うように、ニカッと子供っぽい笑顔で笑う。

「今度来る時は、ゆっくりしていけよ? 折角知り合いになれたんだからさ」

「分かった。また今度な。――二人とも、今日は色々と有り難う」

 そう言い置いて翔平がその場を歩き出した。

「それじゃあ、僕もこれで失礼するよ。明日から、お互いに頑張って行こう」

 リークも二人にそう言い置いて、翔平の後を追っていく。

 ヴェントがその場から立ち上がった。翔平とリークを玄関まで見送る為に、カインと共にその後をついてゆく。

 そして、彼らは玄関先でまた挨拶を交わして別れた。

 遠ざかる二人の背中を見送りながら、ヴェントがカインに話しかける。

「カイン。翔平とリークが加わってくれたけど、奴らを見つけられると思うか?」

「大丈夫だ」

「……そうか。そうだよな」

 まるで自分に言い聞かせるようなヴェントの呟きに、カインはその燃えるような赤髪に優しく触れていく。

「心配ない。鍵は必ず取り戻せる」

 力強いその言葉に、ヴェントはただ頷くしかなかった。


 宿屋を出た翔平とリークは、一先ず昼食を取る為に近場の飲食店へ向かうことにする。そこで早々と昼食を済ませ、続いて向かう場所はセントウォール・ギルドだ。

 昨晩の内に依頼の内容を確認した翔平は、情報を得るめぼしい内容がないと判断しつつも依頼を請けることにした。但し、報酬が高額の依頼を請けるのではなく、低額の依頼を故意的に選んでいる。

 その行動はリュイール・ギルドでJとのやり取りを、彼なりに肝に銘じていることが容易に知れた。だが、報酬金の高低はあるが命の危険に差はない。リュイールと違い、セントウォールは命を張る依頼がほとんどだ。

 リークは邪魔にならないように壁際に立って、カウンターで依頼を請ける手続きをしている翔平を心配そうに眺めていた。だが、翔平が手続きを終わらせ戻ってきても、リークが彼に何かを言うことはもうない。

 翔平が選んで進んだ道だ。リークは彼が命を落とさないように稽古をつけ、無事に帰ってくることを祈りながら待っているしかない。

 ギルドの次に翔平たちが向かうところは、繁華街だ。無論、明日の準備をする為である。

 武器、防具、道具、非常食など、念には念を入れておかなければならない。彼らはこれからセイレーンを拠点にして、セントウォールの全土を駆けずり回るのだ。今までと違い、魔物たちを避けて通ることは、恐らく出来ないだろう。

 買い物を全て終えれば、翔平とリーク、リュークは漸く、宿泊している宿屋に戻ることが出来た。

 やるべきことが多く、気づけば日はもう既に夕方へと傾いている。だが、それで彼らの行動が一段落する訳ではない。

 荷物を全て宿泊室へ置くと、彼らはセイレーンを出て湖の辺へ向かった。一日中ぶら下がっていただけの長剣を手に、そこで翔平の稽古が始められる。

 リークの教えはカディスよりも数段と優しいが、翔平の悪い癖などを的確に分析し、彼の剣の型にあった姿勢や剣の扱い、間合いなどを実戦形式で重点的に教え込んでいく。

 そうして、今日もまた夜は落ちていった。

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