表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/84

呪紋の覚醒05

 ヴェントに翔平が「宜しく」と返すと同時に、酒場の店員が飲み物を運んできた。それを受け取って、彼らは一息を吐くようにグラスに口をつける。

 リュークに水をあげながら、翔平はまた口を開く。

「ところで、あんたたちの集めている情報は何だ? 俺もそれを拾ったら教えるけど」

 「頼るだけってのも悪いからな」と、翔平はつけ加えた。

 すると、ヴェントが嬉しそうに目を細める。

「そうか? じゃあ、頼んだ。それでいいよな?」

 簡単に申し出を受けた後に、ヴェントが隣に座るカインに尋ねた。訊く順序が違う彼に対して、カインは咎めもせずただ頷くだけだ。

 翔平に向かって「実はな」とそう切り出して、ヴェントが内緒話をするように声を潜めて身を乗り出した。翔平もつられて、身を乗り出してゆく。

「オレらは、ある一団を捜しているんだ」

 それに対して、翔平は先を促すように相槌を打ってみせる。

「そいつらは、フード付きの黒いマントをつけて十一人で行動をしている。顔はフードに隠れて判別がつかないが、魔法と少し違った不思議な力を使うんだ。――あえて言えば、呪紋のような力を」

 ヴェントの科白に、翔平は驚きに目を見開いた。その目を鋭くさせ、さらに先を促すように相槌を打つ。

 すると、ヴェントが困ったような顔をする。

「……悪いが、色々と訳ありでそれ以上のことは話せない」

 そう言った彼に、翔平は首を左右に振って「それはお互い様だ」と言ってみせた。

「呪紋関係は無理だろうけど、フード付きの黒いマント辺りなら、色々なところから情報を訊きだせる。――知らせに行く場合、城まで行った方がいいのか?」

 翔平の問いに、ヴェントが首を左右に振る。

「オレらは今、宿屋に居るんだ。場所を教えるから、そこに来てくれるか」

 そう言って彼は、翔平に宿屋の場所を教えた。宿屋の位置は、翔平たちの宿屋から離れたところにあるようだ。

「判った。そこへ行けばいいんだな」

 その言葉にヴェントが頷き、翔平も頷き返した。

 そんな彼らを、静かに眺めていたカインが口を開く。

「ヴェント、時間だ。そろそろ行くぞ」

「そうだな。――翔平。オレらはそろそろ次の場所へ移るよ。別に情報がなくても、宿屋に遊びに来てもいいからな」

 カインの促しに、ヴェントは椅子から立ち上がりながら翔平に言葉をかけた。

「急いでいるところを足止めして、悪かった。――二人とも有り難う」

「いいってことよ。な? カイン」

「ヴェントの言う通りだ。気にするな」

「今度はゆっくりと話をしようぜ。じゃ、またな」

 そう言って、彼らはその場から踵を返してゆく。

 歩き去って行く彼らの背中を見やって、翔平は圭の絵を手に取りながら椅子から立ち上がった。すると、リュークがテーブルから飛び上がり、その肩へ静かに降り立つ。

(さてと、聞き込みを始めるか。……この状態だと、リークの方も収穫はなさそうだな)

 そう思いながら、翔平は客の座っている近くの席へ歩き寄っていく。



 店内での聞き込みが漸く終わり、マスターに飲み物の代金を支払うと、翔平は急ぎ足で酒場を出た。

(思ったよりも、結構時間がかかったぜ)

 そう思いながら、彼は疲れきった顔で深く息を吐き出してゆく。

 酒場に居るのはほとんどが酔っ払いで、情報を訊き出すのに一苦労であった。

 空を見上げればいつの間にか夜空に変わっており、リュイール王国ほどでもないが無数の星が瞬いている。だが、神秘的な輝きを放つ二つの月は、何処へ行っても変わりはしなかった。

 夜の繁華街は昼間の健全さを失くし、人々を誘い込むような妖しさに満ちている。そこは子供の入る余地のない、大人たちの世界だ。

 翔平は居心地の悪さを感じ、早々にこの場から去ろうと酒場の前から歩き出そうとした。

 すると、前方からこちらに駆け寄る足音が近づいてくる。

 建ち並ぶ店の明かりに照らされて、その足音の主がリークであることは容易に知れた。

 「翔平!」と、リークが叫ぶ。その表情は、遠目からでも判るほどの焦りを見せていた。だが、翔平の前まで辿り着けば、それは安堵へと変化を遂げる。

「見つけられて、良かった。君は、ここに居たんだね」

 肩を喘がせながらそう言って、リークは安堵した笑みを浮かべた。

 その言葉と額から流れ出る汗で、翔平はリークが懸命に自分を捜していたことを知る。

 翔平は思わず、驚きに目を見開いた。

「……何で、俺を? 何かあったのか?」

「違うよ。君の帰りが遅いから、心配でね。――翔平を迎えに来たんだ」

 額の汗を拭い、リークはいつものように優しい笑みを浮かべる。

 そんな彼に、翔平は何と返せばいいのか判らず押し黙ってしまう。その全ての原因は、リークの想いに対する戸惑いからだ。

 頭を切り替えて別行動を取ったところで、その戸惑いから逃れることは出来なかった。リークから想いを向けられるほど、翔平は知らず知らずの内にペースを乱されてしまう。

 そのことを翔平は自覚しているが、リークは彼の心の微かな揺らぎに気づくことはない。

「翔平、宿屋へ戻ろう。この時間帯で、僕たちがここに居るのは不味いよ」

「……ああ、そうだな」

 リークの言葉にそう答えて、翔平は今度こそその場から歩き出した。その隣を、リークが翔平の歩調に合わせて歩く。

 夜の繁華街を並んで歩きながら、翔平は努めて平静を装い、リークに聞き込みの話題を振る。

「それで、そっちの方はどうだ?」

「残念だけれど、何も」

「やっぱりな。俺の方もそうだ。……だけど、協力してくれそうな奴は見つけたぜ」

 その言葉に、リークが翔平に視線を向けた。

「ひょっとして、ヴェント王子とカイン王子かい?」

 その問いに、翔平もリークに視線を向ける。

「もしかして、リークも会ったのか?」

 そう問い返せば、リークはゆっくりと頷いた。

「君を捜している途中でね。二人とも僕を見て驚いていたよ。――君は、彼らに僕のことを話していなかったんだね」

「ああ、圭のことを訊いただけだ。……俺たちもそうだけど、あっちも色々と訳ありらしいな」

「そのようだね。少しだけ話を聞いたよ。君とのことも聞いた」

「……悪い。俺の判断で勝手に決めて」

 翔平がヴェントたちとのことで謝ると、リークは優しい笑みで緩く首を左右に振る。

「君の判断は正しいよ。彼らは信用に足りる人物だ。……例えそうでなくても、僕は君の判断にとやかく言うつもりはないよ。それに、僕は勝手について来た身だしね」

 その科白に、翔平の表情が心なしか不機嫌になった。

「何言ってんだ。俺たちは一緒に旅をしているんだろ。勝手について来たとか言うなよ」

 やや怒気が含まれた口調に、リークは困ったような、それでいて嬉しそうな表情を浮かべる。

「君がそう思ってくれていたなんて、知らなかった。ごめん、もう言わないよ」

 素直にそんなことを口にする彼に、翔平は無言で頷くことで答えた。

「……とりあえず、詳しい話は宿屋に戻ってからな。飯を食いながら、今日のこととこれからのことを話そうぜ」

 翔平の提案に、リークは「そうだね」と相槌を打つ。

 そうして二人は繁華街を抜け、出入り口にある舟に乗り込み宿屋へ向かって行った。


 二人の宿泊する宿屋は、それほど部屋数が多い宿屋ではない。だが、その代わりに宿屋の設備やサービスは行き届いており、安心して寝泊りが出来るところであった。

 その宿屋の一室に、翔平とリークは入って行く。

 翔平は室内にあるテーブルに四角い紙袋を置くと、疲れたとばかりにベッドへ仰向けに倒れ込んだ。リュークが窓の桟に身を落ち着かせる。

 リークは向かい側のベッドに腰かけて、そんな翔平をくすりと笑いながら眺めていた。

「翔平、装備品は外した方がいいよ。つけたままだと、余計に身体が疲れるから」

 翔平にそう言いながら、リークはマントや胸当て、長剣のぶら下がったベルトを外してゆく。

 だが、翔平はベッドに倒れ込んだままで微動だにしない。

「翔平?」

 リークがベッドから立ち上がって、翔平の許に近づくと小さな寝息が聞こえてきた。

 翔平は眠っていた。それほどに、彼は疲れ切っていたのだろう。

 その寝顔を見下ろして、リークは微苦笑を浮かべる。

「仕方ないね」

 そう呟いて、リークは眠っている翔平に腕を伸ばした。

 翔平の身体から装備品を外していく。マントや胸当て、長剣のぶら下がるベルト。そして、息苦しくないように服の釦を三つほど外した。

 翔平に触れたままで、リークが窓の桟に居るリュークに視線を向ける。

「リューク。夕食を食べるかい?」

 リークの問いに、リュークは「キュー?」と鳴きながら首を傾げた。

「……その反応はどっちだろうね」

 リュークの反応が判らず、リークも首を傾げてしまう。

「一応、テーブルの上に出して置くよ」

 そう言って、リークは翔平から離れ、テーブルの方へ歩いていった。四角い紙袋からリュークの食事を取り出し、紙に包まれたそれを広げる。

 すると、リュークは窓の桟から飛び上がりテーブルの上へ降り立った。目の前にある食事を見て、リュークが窺うようにリークを見上げる。

「先に食べていいよ。翔平と僕は、後で食べるから」

 竜に言葉が伝わる訳ではないが、そう言ってリークはゆっくりと頷いた。

 リュークが恐る恐る食べ物に口をつける。そして、その食べ物が安全だと判ったのか、勢い良く食べ始めた。

 リュークを暫く眺めた後、リークは再び翔平の許に戻っていく。脱力し切った翔平をリークひとりでは動かせないので、その身体に自分のベッドにある毛布をかけてやる。

 それが終わると、リークは自分のベッドへ戻っていった。そして、布袋から紙と羽根、黒インクを取り出して手紙を綴り始めていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ