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呪紋の覚醒04

 二つの太陽の光を反射して、広大な湖の水面が宝石のように煌いている。その水面を幾つかの船が走り、湖と海を繋ぐ川を通って海へ下っていた。

 広大な湖に姿を見せているのは、何も船だけとは限らない。その中心部に、セントウォール王国の主都セイレーンはあった。

 セイレーンへ向かう渡り舟に乗って巨大な半円のアーチを潜り、翔平とリークはその中へ入っていく。都市内は道の変わりに水が流れ、そこに住む人々は自家用の舟で行き来している。

 彼らがセイレーンに辿り着いたのは、森の中での一件から数日が過ぎ、これから夕方となろうとしていた頃合いだ。

 一先ず先に宿屋へ向かい宿泊室を確保した後、翔平とリークは宿屋の前で別行動を取ることにした。二手に別れた方がより多くの情報を収集することが出来るとの、翔平の判断である。リュークは当然のように、翔平の肩に乗って彼と同行するのであった。

 リークと別れた翔平がまず目指すところは、セイレーンにあるセントウォール・ギルドだ。リークが居るので資金が不足している訳ではないが、そこに集まるエージェントや依頼の請負によって得られる情報は驚くほどに多い。

 交通手段の舟でセントウォール・ギルドに向かい、翔平はリュイール・ギルドと違って立派な建て構えの建物の中へ入って行った。

 建物の中は広く、エージェントと思わしき大人数の男女がそこかしこを行き来している。その合間を縫って、翔平は受付窓口とされる三箇所の中から一つのカウンターを選んで近づいてゆく。

「ようこそ、いらっしゃいませ」

 すると、薄いプラスチックのような壁越しに、カウンターに居る女が事務的な口調で話しかけてきた。

「あの、依頼を確認したいんだけど」

「畏まりました。それでは、エージェントナンバーの呈示をお願い致します」

 受付の女にそう言われ、翔平は旅立つ前にJから渡されたカードを取り出し窓口に差し出す。

 女は証明カードを手に取り、本物かどうかを確認して翔平に差し戻した。

「リュイール所属の桐生翔平様ですね。現在、十五件の依頼がございます」

 そう言って、女は窓口から数枚の書類を翔平に差し出す。

「こちらの書類に簡単な内容が記載さていますので、ご確認下さい。詳しい内容は、請け負って下さるエージェントのみにお渡ししていますのでご了承願います」

 女にそう言われながら書類を受け取って、翔平は彼女に礼を言うと受付窓口から離れていった。

 邪魔にならないように壁際へ移動して、書類に記載されている内容を目に通してゆく。ほとんどの内容が船や人の護衛や魔物退治などの命を張るものばかりだ。報酬金額も中々に高い。

(――どれが情報を集められるか、見当もつかないぜ。手当たり次第に請けたら、俺の命が幾つあっても足りないしな。つーか、死ぬ)

 暫くの間を書類と睨み合って、翔平はそれを折り畳むとポケットの中にしまってゆく。

(寝る前にでも、ゆっくりと考えることにするか。……後は、ここに居るエージェントに聞き込みをするだけだな)

 そう思い立って、彼はセントウォール・ギルド内を行き来しているエージェントに手当たり次第に聞き込みを始めた。

 聞き込みのほとんどが圭に関することだ。リークのことについては、ここでは判らないと踏んであえて訊かずにいた。呪紋も関連しているので、容易に口に出すことは出来ない。

 聞き込みから得られる情報は、今のところ特に何もなかった。人捜しは、そう易々と事が運べるものではない。何らかの情報が得られるまで、翔平はセントウォール王国に滞在する心構えを持っていた。

(次は、旅人や冒険者の集まる酒場に行ってみるか。そろそろ酒場に客が集まる時間帯だしな)

 翔平は決してその場に留まらず、圭の手がかりとなる情報を求めてギルドを後にする。


 セイレーンの中心部にある繁華街に酒場はある。そこは、普通に人が歩けるような構造になっていた。繁華街の入り口で舟を停めて貰い、翔平はそこから自分の足で歩くことにする。

 繁華街は十字路を中心に、煉瓦式の幅の広い道を挟んで幾つもの店が連なっていた。そして、十字路を中心に娯楽・市場・商店・公共施設と四つに区画されている。

 多くの人々の流れに沿ってその合間を縫いながら、翔平はまず十字路へ向かい、そこから娯楽の地区にある酒場へ足早に向かうことにした。時間はかかってしまうが、セイレーンの土地鑑がない彼にとって、それは無難な考え方である。

 漸く目的の場所へ辿り着いた彼は、躊躇うことなく酒場の扉を大きく開けた。――のだが、酒場を出ようとした長身の男と衝突してしまう。

 翔平は尻餅をつくことは免れたが、リュークがその衝撃に肩から地面へ落下しようとしていた。それを、長身の男と一緒に居た男が間一髪で受け止める。

「悪ぃ。大丈夫か?」

 そう言ってきたのは、翔平と衝突した男の方だ。

「こっちこそ悪い。ちゃんと前を確認してなかった」

 翔平も謝りながら男に視線を向けた。そこで、翔平は驚きに目を見開く。男の方も翔平を見て驚いていた。

「あんたは確か、ファリアード王国の……」

「お前は確か、リーク王子の……」

 同時にそう言い合って、彼らは見覚えのある互いの顔をまじまじと見合う。

 翔平と衝突したのは、燃えるような赤髪と赤の瞳を持った青年だ。リュイール王国での舞踏会の件で、城を訪れたファリアード王国の王子である。

「リーク王子の友人。何故、こんなところに居る?」

 赤髪の王子の言葉を継いで、リュークを受け止めた男が口を開いた。その男も彼と負けず劣らずの長身で、青の髪と灰色の瞳を持った端正な容姿をしている。

 翔平はこの青年にも見覚えがあった。彼はセントウォール王国の王子だ。

「俺は今、旅をしているんだ」

 セントウォール王国の王子の問いにそう答えながら、翔平は彼から渡されたリュークをしっかりと受け取る。

 「大丈夫か?」とリュークに問えば、リュークは小さく鳴き声を上げ、定位置となりつつある翔平の肩に戻っていく。

 リュークが肩に乗るのを見届け、翔平は彼に視線を戻した。

「こいつを助けてくれて有り難う。……それで、あんたたちの名前は?」

「俺は、カイン」

「そして、オレがヴェント」

 短く名乗るセントウォール王国の王子に次いで、ファリアード王国の王子がニカッと子供っぽい笑みを浮かべて言った。

 翔平も彼らに「俺は翔平。こいつはリュークだ」と名乗り返す。

「ところで、あんたたちこそ何で酒場なんかに居るんだ?」

 そして、疑問に感じていることを躊躇いもなく口に出した。それに答えるように口を開くのは、ヴェントだ。

「ま、人には色々と事情があるんだ。な? カイン」

 ヴェントが同意を求めると、カインは無言で頷くだけであった。

 カインの頷きを見やって、今度はヴェントが翔平に問いを投げかける。

「ところで、お前も酒場に用?」

「ああ。ここに来ている旅人や冒険者に訊きたいことがあってな。――あんたたちにも訊きたいことがある」

「オレらに?」

 翔平の科白に首を傾げながら、ヴェントがまた隣に立っているカインに視線を向ける。カインも彼に視線を向け、そして無言で頷いてみせた。

 ヴェントが、再び翔平に視線を向けてしっかりと頷く。

「――いいぜ。ここで何なんだし、酒場で話を聞こうじゃないか」

 そうして、彼らは連れ立って酒場の中へ入って行った。

 酒場のマスターと店員の女が翔平に向けて、「いらっしゃいませ」と挨拶を投げかける。ヴェントとカインに対しては、「他にも何か?」と言うような顔をしていた。

 酒場の中は、翔平の予想通りに客が徐々に集まって来ている。満席と言う訳ではないが、半分の席はほぼ埋め尽くされていた。一、二時間もすれば満席になり、賑わいも一層に増していくのだろう。

 彼らは落ち着いて話が出来るように、酒場の隅っこにある席を選んで身を落ち着かせた。

 注文を伺いにやって来た店員に酒ではない飲み物を頼み、暫くの間を取って翔平は話し出す。

「俺が訊きたいのは、ここやファリアード王国にある奴が訪れたかどうかだ」

 「ある奴?」と首を傾げるヴェントに、翔平はポケットから折り畳んだ紙を取り出した。それは、圭の顔絵が描かれた紙だ。リークに「生徒手帳を誰彼構わずに見せるのは、不味いよ」と言われ、旅路の途中で彼から渡されたものである。どうやらリークは手配書を作る際に、翔平の為にと思い手配書ではないものも用意していたようだ。

 翔平は折り畳んでいた紙を開いて、圭の姿が描かれた絵をヴェントとカインに見せる。

 翔平の肩に乗っていたリュークが、何故か鳴き声を上げながらテーブルに場所を移動した。そして、テーブルに置かれた圭の絵を覗き込む。どうやら、圭に興味を持ったようだ。

「実は、こいつを捜して旅をしているんだ。こいつについて、何か情報を持っていたら教えて欲しい」

 翔平の言葉に、圭の絵を覗き込んでいた二人が互いの顔を見合わせた。次いで、同時に翔平に視線を移してゆく。

「悪いが、全く見覚えがない」

「オレの国にも居なかったな」

「そうか。……あんたたちの国に姿を見せていたって話を聞いたんだけど」

 二人の科白に、翔平はそう話しながら小さく肩を落とした。

(やっぱ、そうは簡単に行かないよな)

 解っていたとしても、こうも情報を得られないと気が滅入ってしまうものだ。

 そんな翔平に、ヴェントがテーブル越しに居る翔平の肩を軽く叩いた。

「気を落とすなよ。他の奴らが知っているかも知れないだろ。オレらもちょっと事情があって、お前みたいにある情報を集めているんだ。その圭って奴の情報を拾ったら、お前のところへ教えに行くからさ。――暫くは、ここに居るんだろ?」

「ああ、そのつもりだ。成り行きで悪いけど、あんたたちの厚意に甘えさせて貰う」

 そう言って翔平は二人に礼を述べ、宿屋の場所と名前を教えてゆく。何の情報がない今、彼は藁にも縋る思いだ。

 そんな翔平にヴェントが明るく笑いかける。

「気にするなよ。ここで会ったのも、何かの縁だ。――これからヨロシクな、翔平」

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