表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/84

リュイール王国22

(リークが、呪われた王子?)

 カウイの科白に、翔平が隣のリークを見た。だが、彼は翔平を見返すことはなく、前を見据えるばかりだ。張り詰めた空気がリークの周りを覆ってゆく。

「確か、呪いの王子とも呼ばれていたか」

 そのリークに追い討ちをかけるように、カウイがさらに言葉を継いでゆく。

「その証拠に、君の背中に呪紋じゅもんがある。おれたちにはない呪いの紋章がね」

 得意気で自信に満ちた口調は、実際にリークの背中を見たからである。翔平とリークの後をつけて、彼はリークの部屋でその背中を目にしたのだ。誤魔化しは通用しないだろう。

(背中のあれ――呪紋が呪いの紋章?)

 次々とカウイの口から出てくる単語に、翔平は首を捻るしかない。全てが初耳過ぎて、この展開についてゆけなかった。

 彼らの周りでは、どよめきが広がっている。カウイの明らかに確信を得た科白に、リュイール一族と同盟国を除いた誰もがリークを異端視する。

 鋭利な刃物のような無数の視線が、リークの心を傷つけていく。

 周りの反応に、カウイが満足そうな笑みを浮かべた。そして、翔平に視線を移してゆく。

「付き人のお前はどうだ? おれの話を聞いて、リーク王子に人権があると思えるか?」

 「思えないだろう?」と決めつけるように、彼は翔平に問いを投げかけた。

「……それ以前に、呪いとか紋章とか。俺はあんたの言っていることが解らない。例え解ったところでリークはただひとりの人間だ」

 その言葉にリークがゆっくりと翔平を見る。

 カウイが僅かに眉を顰めた。

「――それは呪紋のことを知らないから言えることだ。呪紋のことを知れば、お前もそうは思っていられなくなる」

「ふぅん。なら、教えて貰おうじゃないか」

 翔平の言葉に、カウイが「いいだろう」と頷いてみせる。

「呪紋は――」

 呪紋は古より在る呪いの紋章のことを示す。

 呪紋の特徴は、その背に宿す者は決まって二十二人であり、人を超える能力をその身に宿すと言うものだ。それだけではなく、呪紋の所持者がひとり死ねば、また新たな呪紋の所持者がひとり現れる。それは必然的で、メビウスの輪の如く無限であり、ひとりも欠けることがなかった。

 それに加え、所持者は永久を生きると言う謂れがある。所持者が死を望む時は、自らの手で命を絶つことでしか叶えられない。

 呪紋の所持者は人であって、もはや人とは言い難い存在だ。神でもなく魔でもなく人でもなく、それらから逸脱した存在は、「異端者」或いは「呪われた者」としか言いようがない。

 リークの口からではなくカウイの口から語られ、リークの謎が少しずつ浮き彫りになってゆく。全てが真実とは言えないが、その説明の中に真実は確かに潜んでいる。

 説明を聞きながら、翔平の脳裏にこれまでのリークの言動が蘇ってきた。その笑顔の裏側を、翔平は少しだけ垣間見たような気がした。

(……リーク)

 心の中で彼の名を呟き、翔平は隣のリークを見る。

 リークはずっと翔平を見ていた。翔平がカウイの話に集中している間中、彼の反応を窺うようにじっと見詰めていた。

 二人の視線が絡み合う。

 リークは何も語らない。ただ静かな眼差しで、翔平を見詰めるばかりだ。その瞳に揺らめくのは、諦めと覚悟だろうか。

「――これで解っただろう?」

 そう締め括って、カウイは唇の片端を吊り上げて笑う。その笑みは、当然のように翔平がリークの許から去るのだと断定してのものだ。

 その場に居た誰もが、カウイと同じように考えていた。だが、翔平は違っていた。

 翔平がリークから視線を外して、カウイを意志の強い瞳で見据える。

「……言っただろ。例え解ったところで、リークはリークでしかない」

 翔平の言葉に、リークの纏う空気が和らいでゆく。

「翔平」

 口を閉ざしていたリークが、翔平の名を呼ぶ。その声音は安堵したような響きがあった。

 翔平がその声に答えるような素振りで、ちらりとリークに目配せする。

 そんな翔平を見て、カウイは悔しそうに唇を噛み締めた。恐らく、彼はリークから翔平を引き離さそうと、呪紋の話を持ちかけたのだろう。

 これはカウイの誤算だ。彼は翔平が異世界の人間であることを知らない。異世界から来た翔平はこの世界に対して先入観がなく、呪紋に対して負の感情を抱くことはなかった。その代わりに、呪紋に対して負の感情を抱く彼らが不思議でならないようだ。

「呪紋があるからって、何であんたたちはそうやって、人とか人じゃないとかを決めつけられるんだ?」

 そう問われたところで、カウイを始めとする彼らに答えはない。彼らは先入観でしか見ていなかったからだ。

「考えてもみろよ。あんたたちがもし、リークの立場だったら、自分のことを人じゃないとか思えるか?」

 さらに畳みかける翔平の問いに、会場内は静まり返ってゆく。

「リークや呪紋を持った奴の苦しみも解らないで――何が呪いだ。何が呪われた王子だ」

 皆にそう言い聞かせながら、翔平も自分に言い聞かせていた。

 翔平自身も彼らと同じように、リークや呪紋の所持者の苦しみを理解することは出来ない。例えそれを知ったところで、何かをすることは出来ないだろう。唯一出来るとすれば、ただ傍に居てやり、彼の存在を肯定することだけだ。

 自分のことで懸命になる翔平を、リークは眩しそうに目を細めて見詰める。

 リークにとって、翔平の反応は初めて見るものだ。まだ十五年ではあるが、これまでを生きてきて、リークの呪紋を受け止めてくれる者は居なかった。

 カウイの語る呪紋の内容は、ほんの僅かな情報でしかない。世に渡る一般的な内容を、カウイは語っただけである。呪紋の真実として語られるそれは、カウイの語る内容を織り交ぜたもっと深刻なものだ。

(……翔平。君になら、全てを話せるかも知れないね)

 翔平に対して、リークはやっとそう思えてきた。今まで押し隠してきたものを、自分の内にあるものを、全て曝け出せるのだと彼はこの時思った。

 それと同時に、彼の中の曖昧な何かがまたひとつ大きくなってゆく。

 リークが静かに息を吐き出して、周りを覆っていた全ての空気を取り除く。そして、カウイと睨み合いをしている翔平の手にそっと触れた。

(僕は大丈夫だよ。庇ってくれて有難う)

 心の中で感謝の言葉を述べて、触れていた手を離してゆく。

「僕が呪紋の所持者であることは、認めるよ。……呪いの王子と呼ばれていたことも否定はしない。貴方が僕をどう思おうと構わないけれど、彼に絡むのはもう止めにして貰えないか」

 リークはそうはっきりと公言して、不敵な笑みを浮かべた。その笑みの通り、リークはもう何も恐れてはいない。翔平がリークの存在を認めてくれている。彼にとって、それだけで充分だった。

 リークが不敵な笑みを浮かべると同時に、会場の両開きの扉が勢い良く開け放たれる。

「聖王国、ゼウイムス王国がお着きです!」

 騎士の声が会場内に木霊したと同時に、神官の衣装を纏う者たちが静々と入ってきた。その先頭に歩く人物は、神秘的な雰囲気を纏う少女だ。

「随分と早いね」

 そう呟いて、リークが彼女に向かって片膝を折る。それに習い、リュイール王国、ファリアード王国、セントウォール王国の誰もが跪いて頭を垂れた。

 「翔平も」とリークに促され、翔平は慌てて片膝を床について頭を下げる。

 その翔平よりも慌てたのは、三ヵ国を覗く十七ヵ国の王族と貴族だ。突然のゼウイムス王国の来訪に、彼らはその場で固まったように立ち尽くしていた。

 少女がリークの許へ歩き寄る。

「ようこそお出で下さいました。――イリス女教皇」

 リークが目の前に立つ女教皇、イリスに顔を上げて、優しい笑みを浮かべた。

「今晩は、私たちをお招き頂き有難うございます。リーク王子」

 そう言って、イリスがリークに向かって深々とお辞儀する。

 そんな彼女に、リークは苦笑を浮かべた。

「頭を上げて下さい。兄が貴女をお待ちしています。どうぞ、奥へ」

「はい。それでは失礼致します」

 そう言って、彼女は後ろに控える数十名の神官たちを振り返る。

「貴方たちは、作業に取りかかって下さい」

 神官たちに指示を出して、彼女はケイムが待つ王座へと歩き出した。

 それと同時に、神官たちが会場内で立ち尽くしている王族や貴族の許へ近づいてゆく。

 その光景を跪いたままで眺めて、翔平はリークに視線を移した。

「あの人、誰だ?」

「ゼウイムス王国の女教皇。神々の意思を告げる役割の方で、王族より地位の高い人なんだよ」

「ふぅん、凄い人なんだな。――それで、ゼウイムス王国を呼んで、仮面舞踏会の現行を見せて取り締まらせるのが、リークたちの計画なのか? 俺はもっと、凄いことをやるのかと思っていたんだけど」

 翔平の科白に、リークが苦笑する。

「さすがに、そこまでは出来ないよ。危険過ぎる。――同盟国に証人として、協力を要請していたこともあるしね。僕たちが出来るのは、精々このくらいだけだよ」

 そう言って、リークは立ち上がった。翔平も彼に続いて、その場を立ち上がる。

 周りに目を走らせば、他国の王族や貴族が神官たちに何事かを問い質されているようだ。

 その最中に、翔平たちの近くでカウイの声が上がる。

「待ってくれ。付き人を持っているのは、リーク王子も同じじゃないか。どうして、おれたちだけが問われるんだ?」

「――残念だけれど、彼は僕の付き人ではなく友人なんだ。君が見たものは全て、彼に協力して貰った演技だよ」

 カウイに近づいて、リークがのんびりとした口調で真実を告げた。

 カウイが悔しそうな顔で、「謀ったな」とリークを睨みつける。そんな彼に、リークはふっと笑んだ。

「君たちのしてきたことが、目に余ったからね。こちらから仕掛けさせて貰ったよ。……これを機に、君たちがしてきたことが、どんなに国民を傷つけてきたかを考えるといい」

 それだけを言い置いて、リークは踵を返して歩き出した。その途中で「翔平。行くよ」と小声で促され、翔平も彼の後をついてゆく。

 騒然とする会場内を背に、二人はその場を歩き去っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ