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リュイール王国01

 雲が流れる青空に、二つの太陽と水を溢れさせる幾つかの小島が浮かんでいる。

 地上は深緑の山々や森や草原に覆われ、現代的な物は何処にも見当たらない。

 自然が豊かで長閑な景色に映る。

(何て言うか、ゲーム的だな)

 見知らぬ世界を見回しながら、翔平は心の中でそう感想を述べた。

 あれから――魔方陣の大穴へ飛び込んでから、翔平は瞬時にして飛び込んだ勢いのままでこちら側へ転がっていた。圭の姿をすぐに確認したが、何処にも見当たりはしなかった。

 翔平が立っている場所は、小高い丘の上だ。森と森に挟まれた僅かな平野にぽつんとあり、真下に一本に伸びる道が何処までも続いている。道の脇で、立て札がひとつ寂しげに立っていた。

 土が露出した道があるとなれば、この世界に原住民が存在していることになる。だが、どう言う種族なのか知る由もない。誰一人として、道を通って行く者が居なかったからだ。

「ここで誰かを待ってたら日が暮れるな。動くしかないか」

 人が通る気配のない道を眺め、翔平は溜息を吐きながらひとりごちた。

 小高い丘から身を躍らせて道に着地する。小高い丘とは言え、人が飛び降りることの出来る高さだ。そのまま道の脇に立つ立て札へ向かう。

 立て札には、翔平の知らない文字が記されてあった。文字を挟んで左右に矢印が伸びている。恐らく向かう先を示しているのだろう。

(……判らない。ここは、喋る言葉が俺の世界と違うのか。誰かに会っても意味なかったな。とりあえず、右へ行くか)

 翔平は何の迷いもなく歩き出した。歩きながら、彼は圭のことを考える。

(圭はきっと、この世界の何処かにいるはずだ)

 大穴に引き込まれた時点で、圭はゲル状のものに包まれ身動き一つ取れていなかった。彼が今の翔平のように、一人で見知らぬ世界を行動することはなさそうだ。よって、何処かへ連れ去られたと考えた方が妥当だろう。

(……全く知らないとこだから、何処に居るのかも見当がつかないぜ)

 圭が殺されたと言う推測は、翔平の考えに入ってはいない。何故なら、殺すとなれば図書室の時点で翔平諸共圭を殺したであろう。だから、圭が今でも捕らえられた可能性は高いが、死亡の可能性は極めて低い。

 どれくらいに一本道を歩いたのだろうか。翔平の目に三つに分かれた道が映った。真っ直ぐに進む道と左右へ進む道。どの道も相変わらず森に囲まれていた。

 十字路の道に沿って立て札があったが、文字の読めない翔平にとっては意味をなさない物だ。

 翔平は迷いもなく真っ直ぐに突き進む。だが、数歩ほど歩いて足を止めた。

 左へ進む道から駆けて来る人影を見つけたからだ。目を凝らせば、それが小さな子供だと判る。

「子供?」

 そう呟く間に、子供が徐々に距離を縮めてきた。顔は必死の形相だ。走りながら、時折後ろを窺い見ている。

 翔平は視線を子供の後ろにやった。途端に、彼の顔が凍りつく。

(嘘だろ?)

 そこには獣の姿があった。狼のような姿形をしているが、翔平の世界で見られる類のものではない。額の真ん中に鋭い一角があり、目は赤く、口から尖った二本の牙を剥き出しにしている。

「×××××!」

 子供が翔平の姿に気付き、叫び声を上げた。

 何を言っているのか、やはり翔平には判らない。だが、今の状況下で推測するに、助けを求めているのだろう。

(こんな時は、正義の味方みたいに助けたいけど……ここは逃げるが一番だろ)

 顔を引き締めて、翔平はその場から駆け出した。無論、子供へ向かってである。子供を放って置いて、自分だけ逃げることはしない。

 子供の小さな身体を、荷物のように片手で身体の脇に抱えた後、翔平はすぐさま踵を返して駆け出した。片手に子供、片手に二つの学生鞄では、走り難く速度が落ちる。だが、彼はどれも手放す気になれなかった。

 翔平の向かう先は、始めに選んだ道だ。後ろを振り向く余裕もなく、走り続け突き進んで行く。


 ひたすらに走り続けて、翔平の眼前に巨大な煉瓦の壁に挟まれた同じ高さの門が映った。門は幸いなことに開放されている。

 翔平は最後の力を振り絞って、聳え立つ門を駆け抜けた。

(ここまでくれば……)

 肩で喘ぎながら、鞄を持った手の甲で額の汗を拭い後ろを振り返る。

 獣は門の前で翔平を見ていた。どうやら、門の中へ入ることは出来ないようだ。低い唸り声を上げた後、その場を走り去って行った。

 子供を腕から離して、翔平は脱力したように身を屈める。

「たっ、助かった……」

(マジで死ぬかと思ったぜ)

 今頃になって恐怖が襲ってきたのか、翔平の身体が僅かな震えを刻んでいた。

 そんな翔平を、子供が傍らでじっと見ている。

 翔平が顔を上げれば、

「×××××、××××!」

 満面の笑顔で子供が話し掛けてきた。恐らく、礼を言っているのだろう。

 翔平は子供の頭に手を乗せ、撫で回しながらふっと優しい笑みを浮かべる。言葉が通じないので、「どういたしまして」と態度で示したようだ。

 その時、彼らに向かって、女性の甲高い声が飛んでくる。

「×××っ!」

 子供の名前を呼んでいるのだろう。慌てたように駆け寄って、子供をきつく抱き締めた。

 どうやら、子供の母親らしい。目から涙を流し、安堵の笑みを浮かべている。

 母親に抱き締められ、今まで泣き出さなかった子供が大声で泣きじゃくり始めた。

(良かったな、坊主)

 母子の再会を目にして、翔平はおもむろに立ち上がる。

 それに気付いた母親が、勢い良く顔を上げた。いまだ乾かない涙を目に浮かべ、何故か翔平を睨み上げている。

「は?」

(何だよ、その顔?)

 母親の敵視する態度に、翔平は訝しげに顔を歪めた。

「××××!」

 母親が翔平にではなく、別の方向に向かって大声で叫んだ。その方向には、数名の騎士らしき男が歩いている。

 母親の叫びを聞きつけて、騎士たちがこちらに向かって駆け寄ってきた。

(何か不味い展開の気が……)

 乾いたはずの汗が、翔平の額から一粒流れ落ちる。

「××××××?」

 母親に真摯な態度で、一人の騎士が何事かを尋ねた。

 母親が翔平に向かって指を差す。

「×××、×××××っ!」

 きっと、悪いことを言われているのだろう。言葉の判らない翔平だが、それだけは何となく察しているようだ。

 騎士が翔平を見る。

 翔平は一歩後退った。踵を返して、その場から逃げ出そうと試みる。しかし、退路を阻まれ、騎士に取り囲まれてしまった。

(子供を助けただけで、悪いことしてないんだけど。――俺の運って最悪なのか?)

 騎士と睨み合いをしながら、翔平は心の中で運の悪さを嘆く。盛大な溜息も一緒に吐き出される。

「××××××××××××××?」

 騎士が何事かを問い質してきた。

「…………」

 翔平はあえて無言のままだ。無言のままで、目を周りに走らせて退路を探る。

 翔平たちの周りは、喧騒と共に人垣が出来始めていた。

(人垣に紛れさえすれば逃げれるかも)

 翔平が動く。あえて、目の前の騎士に突進した。しかし、騎士はその行動をようようとかわす。

(しめたっ!)

 騎士が避けた隙に、空いた空間から走り抜けた。だが、相手は翔平よりも一枚上手のようだ。

 走り抜けた翔平の腕を瞬時に掴み、力任せに引き戻す。身体の均衡を失った彼の足に、容赦なく足を引っ掛けうつ伏せに転ばせた。次いで、掴んだ腕を捻りながら背中に持っていく。

「ぐぅ……!」

 堪らずに翔平が痛みに唸り声を上げた。

「××××××××」

 翔平の背中に乗り掛かる騎士が落ち着いた口調で話し、掴んでいない翔平の手も背中に持っていき縄で縛り始める。

 騎士の手際の良さに、人垣から大きな歓声が上がった。

(くそっ、丸っきり俺が悪者かよっ!)

 心の中で悪態を吐きながらも、翔平は騎士のなすがままである。身動き一つさえ出来ない。

 両手を後ろ手に縄で括られ繋がれて、翔平は無理矢理に立たされた。「行け」と言う風に背中を小突かれ、渋々歩き出すしかない。彼の持っていた学生鞄は、縄を持った騎士が持ち歩いていた。

「×××××!」

 翔平が助けた子供が叫んでいたが、人垣の喧騒に呑まれ聞き留める者は居ない。


 賑わいを見せる町並みを抜けて、翔平が連行された場所は、町の中心部にある煉瓦造りの大きな城だった。

 綺麗な造りの城を、円状に囲んで水が流れている。その円状の水溜りに沿って、内側と外側に深緑の木々が植えられていた。

 一人の騎士が、煉瓦造りの橋の前に立つ騎士に何事かを説明している。すると、橋に立つ騎士が城に向かって片腕を上げた。

 橋の先にある、城の大きく重厚な両開きの扉が開かれる。

 「行け」とまた後ろで催促され、翔平は歩き出した。彼は逃げ出すことに諦めてはいないようだが、周りを歩く騎士たちの隙が全く窺えない為に従うしかない。

 橋を渡って扉を潜れば、煌びやかな装飾が点在する城内に入った。

 翔平は物珍しげに城内を見回す。

 煉瓦の壁に窓と窓の間を挟んで並ぶ綺麗な作りのランプ、所々に置かれた植木や大きな花瓶に活けられた花々。翔平の歩く幅のある長い赤の絨毯は、扉から上階へ上がる階段に伸びている。見た限り絨毯はそこだけのようで、後は煉瓦式の床が広がっていた。

 城を歩く人々が、物珍しげに翔平を眺めている。じろりと睨み返せば、彼らは慌てたように目を逸らしていった。

 赤い絨毯に沿って、階段を二回ほど上がる。すると、何かの紋章を飾りにした両開きの扉が待ち構えていた。

「×××××!」

 騎士が声を張り上げて、外側から扉をゆっくりと開けてゆく。

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