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リュイール王国18

 一方、その頃のリークは――。

 騎士と共に、暗がりの城下町を駆け抜けていた。その目は鋭さを帯び、冷厳な雰囲気を漂わせている。彼の腰元で、愛用のベルトにぶら下がる長剣が揺らいでいた。

 リークが隣を走る騎士に、ちらりと視線を向ける。

「それで、町の外に何体の魔物が現れているんだい?」

「判りません。突然現れたかと思えば数十体に殖え、結界を破壊しようと突進してきたのです」

 騎士の言葉に「そう」と相槌を打ちながら、彼は僅かに眉間に皺を寄せた。

(選りによってこんな時に魔物が増殖するなんて、一体どういうことだい?)

 予想もしていなかったことに、リークは唇を一文字に引き結んだ。

 そんな彼に、騎士が言葉を続ける。

「今は我々と共に町の警備に当たっていた、ギルドのエージェントたちが魔物を食い止めています」

「町の人々は大丈夫なのかい?」

「はい。今日が今日なので、家の中へ留まらせ、警護に騎士を配置させました」

「手際がいいね。後は、舞踏会に影響がないようにするだけか。――僕は町の外へ出るから、君は魔術師たちに召集をかけ、結界の強化に当たらせて欲しい」

「了解しました」

 リークの命を受け、騎士が彼の許から駆け去っていった。

(仮面舞踏会が始まる前に、何とか終わらせないと不味いね)

 そのことを頭の中に置いて、リークは駆ける足をさらに速める。

 すると暫くして、月明かりに照らされた巨大な門が彼の目に映った。その向こう側では、魔物と闘っているギルドのエージェントたちの背中が見える。

 リークは長剣を鞘から抜き取り、巨大な門を駆け抜け、その場に到着したと同時に近くの魔物を躊躇もなく斬りつけた。

「リーク王子!」

 その場に居たカディスが驚いたように、リークの名を呼んだ。

 カディスの隣に居たJが、ちらりとリークを見る。

「リーク王子。舞踏会はどうしたのですか? ここは我々に任せて、戻られた方が宜しいかと思いますよ」

 突進してくる魔物をあっさりと薙ぎ払いながら、彼は淡々と自分の考えを告げた。

「それは出来ないよ。これは依頼にない事態だ。僕も手伝わせて貰うから、君たちはあまり無理しないで闘ってくれよ」

 それを言い終えると同時に、リークは魔物の群れに飛び込んでゆく。すかさず長剣で魔物たちを円状に薙ぎ倒し、小さく呪文を唱えると空いているその手に火を呼び込んだ。そして、倒れている魔物たちに丸い火の固まりを放つ。冷厳な雰囲気と相まって、容赦の欠片もない行動だ。

 だが、それでリークの動きが止まることはない。

 その場を駆け抜けながら呪文を呟き、空いている手の平を長剣の刃の部分に宛がった。柄の部分から鋭利な先端へ手を動かす。すると、それに沿うように、柄の部分から鋭利な先端へと順々に眩い光が帯び始める。

 それは異質な力を秘めた剣だ。魔を容易に打ち消すことの出来る、聖なる光の剣。

 リークの行動に、誰もが驚きに目を見張った。魔法で光の剣を創るなど、本来あり得ないことなのだ。

 そんな彼らの視線を気にすることもなく、リークは素早い動きで順々に魔物を斬りつけていった。

 その口許に僅かな笑みが浮かぶ。返り血を浴びごとに、またリークの口許の笑みが深くなる。

 その場に居た誰もがその異様な光景を目にし、金縛りのように動くことが出来なかった。

「……呪いの王子」

 誰かがぽつりとそう呟く。だが、誰もその言葉を聞き取ることはなかった。

 リークの行動は暴走したようにさらに続く。まるで、その場に居る全ての魔物を「殺す」勢いだ。

 次第に、魔物たちは恐怖に駆られた。圧倒的な強さ、そして彼の冷淡な様にじりじりと後退る。

「な、なあ、J。あれ、本当にリーク王子なのか?」

 上擦った声で、カディスがJに問いかけた。そんな彼に、至って冷静なJが淡々と答える。

「……リーク王子です。しかし、平常心ではないようですが」

「……そろそろ止めねぇと、不味いんじゃねぇか?」

「そうですね。……と言っても、私たちには止められそうもありませんが」

「ど、どうするんだよ?」

「……翔平君を連れてくると言うのは、どうでしょうか?」

「坊主をか?」

「ええ。私が見た限り、リーク王子は翔平君のことを大切な友人だと思っているようです。平常心を取り戻す為には、そう言った存在の方がいいのではないかと」

「で、坊主は今何処だ? ギルドには居なかったよな?」

「リーク王子の招待で、舞踏会に行っていますよ。出て行かれる前に、そんなことを言っていました」

 それを聞いて、カディスは思い切り舌を打ち鳴らした。

「俺らじゃあ、入れねぇじゃねぇかよ」

 そう文句を言えば、Jが「騎士に頼めばいいじゃないですか」と間髪入れずに告げる。

 そのJに、カディスは「判った!」とその場を駆け去ってゆく。


 翔平はまだ、首を捻っていた。

(……リークとあいつの違いって、友達かそうでないかだからな。圭と同じようなことをやっても変わんないだろうし)

 そう思って、疑問への答えは漸くそれに納まる。友達のスキンシップと大して変わらないのだと自分の考えに納得して、翔平は飲み物を口にした。

 その背後では、多くの王族や貴族たちが踊り場で踊りを踊っている。翔平とリーク以外は皆ワインを飲んでいたのか、陽気な笑い声がそこかしこに上がっていた。

 まだ、舞踏会は終わらない。始まったばかりなのだ。

 翔平の背後にまた人の気配がした。振り返れば、リュイール王国の騎士が立っている。リークを呼びに来た騎士ではない。

「どうしたんだ?」

 翔平がそう問えば、騎士は平静な態度で口を開いた。

「伝言があります。――ギルドのエージェントが、城の外で貴方を待っているとのことです。名はカディスと言っていました」

 騎士の言葉に「分かった」と頷き、彼は皿とワイングラスを持ってその場を歩き出す。

 そんな翔平に、騎士が「翔平様」と呼び止める。

「その両手にあるものは、こちらで片しておきます。どうやら、急ぎの用ですので」

「悪いな。それじゃあ、頼むぜ」

 騎士に皿とワイングラスを渡し、翔平は今度こそその場から歩き出した。

(一体、カディスは俺に何の用があるんだ? まさか、今日でも稽古はみっちりとやるぞ――とか言わないよな)

 疑問と推測を頭の中で張り巡らせ、王族や貴族の間を縫ってゆく。

 会場を出れば、翔平はいつもの早歩きの歩調で歩き出した。渡り廊下を過ぎ、城内の廊下を過ぎ、橋を渡り切った先で翔平を待つカディスの許へ進む。

 カディスが「急げ!」と言っているかのように、手を高く上げ大きく振ってみせた。その行動に急かされ、翔平は駆け足で彼に近づく。

「何だよ、カディス。俺に用って」

 翔平がそう話しかけるのだが、話すのも惜しいとばかりに、カディスはその腕をむんずと掴み走り出した。

 腕を引っ張られ、翔平も走るしかない。

 翔平が同じくらいの速度で走り始めるのを確認して、カディスは掴んでいた腕を離した。

 翔平がカディスの顔を横目で窺えば、彼は焦燥し切った表情をしている。

 「どうしたんだよ?」と問えば、カディスは横目で翔平を見やって前を見据えた。

「リーク王子がご乱心だ」

 カディスの言葉に、翔平は信じられないとばかりに聞き返す。

「何だって?」

「町の外に出れば判る。とりあえず、今は全速力で走れ」

 そう言い終るカディスの駆け足が、徐々に速くなった。翔平もその速さに追いつくように、さらに足を速めてゆく。

 お互いに黙って走り続けて、漸く二人の目に巨大な門が飛び込んできた。最後の力を振り絞りその門を駆け抜ける。

 そして、翔平はその場に固まった。

(な……んだ、これ)

 目を背けたくなる光景に、思考が上手く働かない。

 翔平の眼前に広がるのは、無数の魔物の死体だ。魔物の血が地面に広がり、まるで血の池のようである。その池を、リークが光る剣を手に走り抜けていた。

 返り血を浴びた横顔の口許は、深い笑みが刻まれている。

 リークが容赦もなく、まだ生き残っている魔物へ斬りかかった。魔物は逃げ惑い、表情を恐怖の色に染めている。

(何やってんだよ、リークの奴!)

 その光景が目に飛び込み、翔平は心の中で叫びながらその場を駆け出していた。

 リークの身体を真横からタックルして、魔物の前から距離を離させる。そして、仰向けに倒れる身体に伸しかかり、両手両足を自分のそれで押さえつけた。

 翔平が魔物を振り返る。

「おい! 死にたくなかったら、すぐにここから逃げろ!」

 彼の必死の叫びに、言葉が通じるのか魔物たちは驚いたような顔をした。

「何してんだ、早く行け!」

 さらに叫ばれ、魔物たちは互いに顔を見合わせ、そしてその場から駆け去ってゆく。

 魔物たちの背中を眺めた後、翔平はリークに視線を戻した。

 リークを睨み下ろし、翔平は怒りを押し殺したように問いかける。

「リーク。あんた、自分が何やってんだか解っているか?」

 翔平の意志の強い、深い茶の瞳に射竦められ、リークはただじっとその瞳を見上げるばかりだ。

「答えろ、リーク」

 今度は翔平に強い口調で言われ、リークの碧い瞳が僅かに揺らぐ。

「……翔平。僕はまた」

 それ以上のことを、リークは口にすることが出来なかった。

 翔平に押さえつけられた両手を抜き取り、真上にある彼の身体を抱き寄せる。リークの行動に、翔平は抗うことはしなかった。その拍子に、魔物たちの血が跳ね上がる。

 リークは安らぎを求めるように、翔平の身体をきつく抱き締めた。

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