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リュイール王国17

 サンデスト王国の王子・カウイにそう指摘され、リークは動揺するどころか余裕の笑みを浮かべる。だが、何も言わない。

 その笑みと態度をどう勘違いしたのか、カウイは嘲笑を浮かべ、さらに言葉を続ける。

「付き人を持ちたくなったのは解るが、付き人の価値はこう言った容姿で決まるんだ」

 そう言って彼は、得意げに両脇に居る付き人を前へ押しやった。

 男女の付き人が誘うように妖艶な笑みを浮かべて、リークを見詰める。一人は豊満な胸を持つ美女、もう一人は儚げな美青年だ。

 リークは、彼らに愛想笑いを浮かべる。

「確かに、美しい容姿をしているね」

「そうだろう。こいつらは床の世話も上手い。どうだ? 試してみるか?」

「ご冗談を」

 そう言ってリークは、後ろで様子を窺っている翔平を引き寄せた。

「僕は彼の相手で手一杯だよ」

(……嫌な科白だな、それ)

 心の中でそうぼやくも、翔平は黙って成り行きを見守る。

「貴方が言うように、僕は変わり者だからね。そんな見せかけの美しさよりも、僕は彼のような人が好みだよ。彼と出会わなければ、僕はずっと、付き人を持たなかっただろうね」

 リークの科白に、カウイが翔平に視線を向けた。そして、舐めるように眺め回してゆく。

「取引に使えそうもない物を付き人にするとは。――もしや、君は抱かれる側か?」

 リークに視線を戻し、カウイは意地悪く笑ってみせた。

 堪らずに、翔平は口を挟んだ。

「あんたはリークと大違いだな。仮にも一国の王子なんだろ。話の内容が下品過ぎだぜ」

「翔平」

 そんな翔平を、リークが彼だけに聞こえるくらいの小声で窘めた。

 翔平より幾分か背丈のあるカウイが、冷笑を浮かべながら翔平を見据える。

「ふん。付き人の分際で、おれに刃向かうのか?」

 翔平も負けじと睨み返した。

「ああ、歯向かうさ。俺の主人に失礼な態度をする奴は、誰だろうと許せないからな」

 そう言い終って、彼はちらりとリークに目配せする。

(これなら文句はないだろ?)

 翔平の思っていることを察したのか、リークはふっと笑みを零した。

(君はそう来るかい。それなら、僕は)

 リークがカウイに向き直る。

「カウイ王子。彼は僕に忠実な付き人だ。僕以外の命令を聞き入れることはないよ。だから、貴方が彼に何を言おうと、決して従うことはないだろうね」

 リークの科白はカウイに対する牽制だ。「僕の付き人に、これ以上は絡まないで欲しいね」と言外に言っている。

 お互いに庇い合う彼らに、カウイは苛立ったように舌を打ち鳴らした。

「馬鹿馬鹿しい。興醒めだ」

 そう言って彼は、リークの前から歩き去ってゆく。二人の付き人が、慌ててその後を追って行った。

 その態度から推測するに、どうやらカウイはリークと翔平の関係を信じ込んだようだ。

(とりあえずは、これで大丈夫だね)

 カウイの遠ざかる背中を眺めながら、リークは心の中で安堵した。そして、隣の翔平を見やる。

 翔平もリークを見返した。彼に聞こえるように顔を寄せ、小声で問いを口にする。

「あいつ、一体何なんだ?」

「サンデスト王国の王子だよ。何故か会うたびに、あんな風に良く絡まれるんだ。――翔平。彼には、気をつけるんだよ」

 苦笑をしながらあっさりと答えるリークに、翔平は無言で深く頷いた。

「それじゃあ、行こうか」

 再び歩き出した彼に、腕を引っ張られ翔平もまた歩き出す。


 会場内を一周して、彼らは再びテラスの入り口付近へ舞い戻っていた。やはり、圭の姿は何処にも見当たりはしない。

 リークと共にテラスに身を落ち着かせながら、翔平はまだきょろきょろと辺りを窺っていた。

(当てが外れたか。けど、圭がこんなところに居なくて良かったぜ)

 残念に思う反面、喜びが翔平の中で湧き上がる。もし圭がここに居たならば、彼は迷わず圭を付き人にした相手を殴り倒していただろう。

 そんな翔平の元に、ひとりの騎士が歩み寄ってきた。リュイール王国の騎士だ。

「リーク様」

 騎士の用は、彼の隣に立つリークにあるようだ。慌てた様子もなく平静な態度で、彼に何事かを耳打ちする。

 リークがその騎士に無言で頷き、翔平に視線を移した。

「翔平」

 遠慮がちに、リークが翔平を呼ぶ。

 「何だ?」と翔平が視線を向ければ、彼は申し訳なさそうな表情をする。

「悪いけれど、少し急用が出来てしまったんだ。僕はこの会場から席を外すから、君は兄さんたちのところへ戻っていてくれないか」

「分かった。けど、自由に行動してもいいよな?」

「それは構わないけれど、くれぐれも無茶な行動は止すんだよ」

「ああ。圭がここに居ないことも判ったし、そんな無茶はしないさ。ただ飯を食ったり、この中を見学したりするだけだ」

「それならいいけれど。それじゃあ、僕は行くよ。また後で」

「用事が何だから知らないけど、頑張れよ」

 翔平の声援を背に、リークは騎士と共にその場を歩き出した。

 リークの背を見送った後、テラスに残された翔平はそこから会場内を見渡す。

 圭を捜し出すことに懸命だった彼の気づかぬ間に、会場内に響き渡る音楽は変わっていた。今度は、ステップの踏める軽やかな曲だ。

 踊り場には数人の男女が、曲に合わせて踊っていた。それを眺めながら食事をする者と話に夢中になっている者が半々に居る。

 会場内は、特に変わった様子はない。

(……リークたちは一体、何をしでかすつもりなんだろうな)

 舞踏会で圭を捜す目的を失った翔平が思うことは、それだけに絞られる。だが、それ以上のことは、何も考えられなかった。何故なら、リークから詳しい話を一度も聞かされていないからだ。

(まあ、俺は部外者だから気にしても仕方ないんだけど)

 今更のことを思って、翔平はその場から歩き出した。飲み物と食べ物を取りに、近くのテーブルへ向かっていく。

 手当たり次第に皿の上へ盛った食べ物と飲み物を左右の片手に持って、翔平はすぐさまにその場を後にする。他国に知り合いは居ないので誰かに話すこともなく、再び眺めのいいテラスへ戻った。

 やや暗がりではあるが、白の大理石で出来た柵の平らな部分に皿とワイングラスを置き、夜空を眺めながらひとりで食し始める。

 暫くして、翔平の背後に人の気配が近づいてきた。

「おい、リーク王子の付き人」

 そう呼ばれて振り返れば、先ほどのカウイが二人の付き人を従えて立っている。

「何だよ。またあんたか。リークなら居ないぜ。他を当たるんだな」

 翔平が呆れながらそう言えば、カウイは意地悪く笑ってみせた。

「リーク王子に用はない。用があるとすれば、お前にだ」

「ふぅん。それで?」

 カウイに対して、翔平は至って平静なままだ。淡々と次の会話へ促す。

 カウイはぴくりと僅かに眉を動かした。

「先ほどもそうだったが、付き人の分際で敬語を使わないとは、躾がなっていない。お前はどんな躾を教えられたんだ?」

 彼の問いに、翔平はさらに呆れて訊き返す。

「あんた。そんなことを訊きに、わざわざここに来たのか?」

 それが癇に障ったのか、カウイは憮然としながら翔平を見据えた。

「……お前はどうやって、リーク王子の付き人になった?」

「……何でそんなことを訊く?」

 翔平が眉根を寄せ訝しげにまた訊き返せば、カウイは唇の片端を吊り上げて笑う。

「興味だ。あの王子が付き人を作るとは、前代未聞のことだからな」

「ふぅん。興味だか何だか知らないけど、それで俺が教える訳ないだろ」

 そうきっぱりと言い放つ翔平を無視して、カウイがさらに言葉を続ける。

「只で、とは言っていない。お前の欲しい物なら何でもやるぞ。付き人は自分の身体を引き換えに、裕福な暮らしを望む者が選ぶ身分だからな」

 「所詮はお前もそうなのだろう」と、彼は翔平を眺めながら同意を求めた。

 その目を、翔平は鋭い眼光で睨みつける。

「俺を、あんたたちの付き人と一緒にするな。さっきリークが言っていたように、俺はリークの命令にしか従わない。――どんなことをしてもな」

「ふん。そう言うところだけは、しっかりと躾てあるのか」

 そう独り言を呟くカウイに、翔平はやっていられないとばかりに背を向けた。

「もう俺に用はないだろ。飯の邪魔だから、さっさと何処かに行けよ」

 それだけを言って、彼は再び食事に戻る。だが、それで頷くカウイではなかった。

 カウイが翔平に背中から被さるように、身体を密着させる。

「容姿は趣味ではないが、お前をあの王子から奪うのもまた一興だな」

 翔平の耳元で囁いて、カウイは愉快そうに笑った。

 だが、翔平はそれに動じることなく、無言で肘を思い切りカウイの腹部に減り込ませる。カウイが腹部を押さえて、その場に蹲った。

 その様を、翔平は睨み下ろす。

「あんたがリークに執着していることは、大体判った。けどな、個人の勝手な感情に、俺とリークを巻き込むな。それと、俺はリークのように気が長い方じゃないんだ。さっさとここから消えないと、どうなるか判らないからな」

 翔平を見上げて、カウイは悔しそうに唇を噛み締めた。その彼に、今まで黙って見守っていた付き人の二人が駆け寄る。そして、彼らに支えられながら、カウイはテラスから歩き去っていった。

 彼らの背中を眺めて、翔平はふっと息を吐き出してゆく。それは安堵でも溜め息でもなく、沸々と沸き起こる怒りを抑えるようなものだった。

 ふと腕を見やれば、それ程寒くもないのに鳥肌が立っている。

(……やっぱこれが当たり前の反応だよな)

 翔平がそう自分自身に確認したのは、リークとのやりとりが前提にあったからだ。

 演技だとしてもリークとのやりとりは、先ほどのカウイとそう変わらない。それにも関わらず、翔平は鳥肌を立たすことはなかった。

 「何でだ?」と、翔平はしきりに首を捻る。

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