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リュイール王国16

 建物の両開きの扉を開ければ、真っ先に大きなシャンデリアが目に飛び込んでくる。そのシャンデリアが照らす広々としたホールの床は、白い大理石が広がっていた。

 白の壁際では、幾つものテーブルが並び白いテーブルクロスが敷かれ、椅子も添えられている。

 ホールの中心部は、広い空間が空けられていた。恐らく、そこを踊り場として使いのだろう。

 奥の方に目を向けると、管弦楽器を持った面々が両脇に控え、やや高めの段の上に王座が二つ置かれてあった。そこにケイムとクインが座っている。その後ろには、リュイール一族の面々が立っていた。服装はどれもリークと同様にシンプルなものだ。

 仮面舞踏会はまだ始まっていない。会場内に居るのは、リュイール王国の者たちだけだ。

 翔平はリークと共に、ケイムとクインのところへ歩み寄った。

 ケイムが、人好きのする笑みで話しかけてくる。

「久方振りだな。翔平」

「ああ。久し振り、ケイム。――クインも」

 そう話しながらケイムから視線をクインに移せば、彼女は柔らかな笑みを浮かべた。

「お久し振りです。翔平さん」

 翔平は彼女に頷き、再びケイムに視線を戻す。

「とりあえず、今日は宜しく頼むな」

 彼のその言葉に、ケイムは首を緩く左右に振った。

「それを言うのは、私たちの方だ。お前におかしな役を押し付けてしまって、すまない。こちらこそ、宜しく頼むぞ」

「別に気にしなくていいぜ。俺もこの舞踏会に用があったんだ」

「そうか。……何をせよ、無茶だけはするなよ」

 ケイムにそう念を押され、翔平は頷くことで答える。そして、隣に立つリークを見た。

「ところで俺たちは何処に居ればいいんだ」

 その質問に、リークが甘く笑って答える。彼の演技は、もう既に始まっているようだ。

「暫くは、王座の後ろ隣に立っていればいいよ。舞踏会が始まる前に、他国の王族や貴族たちが挨拶をしに来るから」

「……ああ、判った」

(やっぱ違和感があるな。こいつの甘ったるい笑顔)

 僅かに顔を顰め心の中でそう思いつつも、翔平は指定された位置へさっさと歩き出した。

 彼の隣に立ちながら、リークが苦笑を浮かべながら窘める。

「翔平。顔に出ているよ」

「悪かったな。俺は男にそんな顔をされて、喜ぶ人種じゃないんだ」

「ここは我慢だよ。こんなことは、今日だけだからね」

「……努力する」

 そう言い合う二人を尻目に、建物の両開きの扉が外側から左右に開け放たれた。

 扉を大きく開いたままで、二名の騎士が姿勢を正し揃って声を張り上げる。

「同盟国――ファリアード王国、セントウォール王国の二ヵ国がお着きです!」

 その声を聞いて、翔平とリークは顔を引き締めながら前方を見据えた。

 暫くすれば、ファリアード王国の王族と貴族、セントウォール王国の王族と貴族が順番に会場内へ入ってくる。

(……凄いな)

 彼らを眺めながら、翔平は心の中で呟いた。

 彼が驚いたのは、各国が纏う衣装だ。軍服のような服装やドレスなのだが、まるでそれぞれの国の特徴を身につけているようだ。ファリアード王国は赤を基調に、セントウォール王国は青を基調に、それぞれに変化をつけ気品良く仕立てている。

「彼らは僕たちと同じで、数少ない付き人を持たない主義の王族と貴族だよ」

 リークが前を見据えたままで、翔平に説明を寄越した。

 翔平も前を見据えたままで答える。

「へぇ、そうなのか。だから、同盟国?」

「そう言う訳じゃないよ。初代国王の時代から二ヵ国とは懇意の仲なんだ」

 「ふぅん」と相槌を打ちながら、翔平は王座の前で立ち止まった彼らを見回した。

 そこで彼は、燃えるような赤髪と瞳を持つ青年と目が合う。軽く会釈をすれば、「大変だな」と言うような表情で会釈を返してきた。

「……もしかして、同盟国は俺たちのことを知っているのか?」

「知っているよ。さすがに、同盟国は騙せないからね。彼らは僕たちの協力者だ」

「同盟国を巻き込んで、か。良く知らないけど、あんたたちの計画は凄いことになっているんだな」

「そういうことだから、失敗は出来ないんだ。頼んだよ、翔平」

 幾度に渡りリークに念を押され、翔平は僅かに憮然としながら、「あんたもな」と言い返す。そんな翔平に、リークはくすりと笑っただけだ。

 国王同士が形式的な挨拶を始めている。その表情は至って穏やかで、友好関係が良好と示していた。しまいには、世間話も飛び交っている。

「サンデスト王国、ミサンダリア王国がお着きです!」

 その最中で、また騎士たちの声が張り上げられた。

「翔平。ここからが本番だよ」

 リークの言葉に、翔平が僅かに頷く。そして、王座に歩き寄る彼らを眺めた。

 先ほどの二ヵ国と違い、今度の二ヵ国は豪華さに磨きがかかっている。サンデスト王国は眩いほどの白を基調に、ミサンダリア王国は淡い黄色を基調にしている。女に至っては、煌びやかな装飾を身に付けていた。

 彼らに付き従う男女の付き人たちも着飾られ、見目麗しい容姿を一層に際立たせている。女も然ることながら、男も妖艶な雰囲気を身に纏っていた。

 思わず、翔平は隣のリークを目線だけで見下ろす。

(あれが男かよ!)

 そう口に出したいが、心の中だけで思い止まった。

 翔平の心の声など知る由もないリークは、また甘く蕩けるような笑みを浮かべるだけだ。

 そんな二人を余所に、騎士たちの声と共に続々と他国の王族と貴族、そして付き人たちがやって来る。今回、この舞踏会に参加する国は、ウィンダー王国とゼウイムス王国の大国を省いた二十ヵ国だ。だが、圭の姿はまだ見当たらない。

 皆が皆、ケイムに形式的な挨拶を交わし、それぞれの好きな場所へ移動してゆく。服装にそれぞれの国の特徴がある為に、誰がどの国なのかは容易に知ることが出来た。無論、リュイール王国しか知らない翔平に至っては、見分けがつかないのは言うまでもない。

 二十ヵ国が揃い、それぞれの場所に納まったことで、ケイムは王座から起立した。それに習い、隣のクインも立ち上がる。

 誰もがリュイール王国の国王を注視した。

 ケイムが会場内を見回しながら声を張り上げ、歓迎と友好の意を流暢に語ってみせる。その様は国王さながらの、カリスマ性と迫力があった。

 ケイムが語っている間に、城の使用人たちが豪華な食事や飲み物、ワイングラスを素早くテーブルに運んでいる。ワイングラスに飲み物を注げば、彼らは即座にその場を後にした。無論、翔平を含めたリュイール一族の面々にも渡される。

 全てのワイングラスが行き届いたところで、ケイムはそのグラスを掲げた。

「では、皆様方の栄光を祝しまして」

 その号令を元に、誰もがワイングラスを掲げる。そして、揃ってワイングラスを口にして一気に飲み干した。

 それを合図にして、管弦楽器の演奏が始まる。奏でられる曲は、緩やかなワルツだ。

 会場全体が和やかな雰囲気に包まれる。

 漸く堅苦しい雰囲気が取れ、翔平はワイングラスを近くのテーブルに置きながら、緊張を解くようにふっと息を吐き出した。

 そんな翔平を見やり、リークはくすりと笑う。

「大丈夫かい? 翔平」

「ああ。……堅苦しいのって、あんまり慣れてないから緊張したぜ」

「そう。それは仕方ないことだね」

 いつもと違い、リークの声音は何処か甘さを帯びていた。

「……ああ」

(……耐えろ。俺)

 リークの演技に思わず笑いそうになるのを、翔平は何とか我慢をする。

 そんな翔平に、リークが耳元に唇を寄せた。

「顔が引き攣っているよ」

「わ、悪い」

 リークの忠告に翔平は謝りながら、口許に笑みを作ってみせる。

 間近で翔平の笑顔を眺め、「それでいいよ」と囁いた。

 話の内容を省けば、恐らく二人のその行動は妖しさが漂っているように映るだろう。

 ケイム含めリュイール一族の面々は、二人の内情を知っているので、穏やかな笑みを浮かべ見守っていた。

 ふと何かを思い立って、翔平がリークに小声で話しかける。

「ところで、リーク。仮面舞踏会とか言って、誰も仮面なんかつけてないけどいいのか?」

「今はまだ違うよ。その内にみんなが仮面をつけ出すから、その前に君の友人を捜そう」

 そう小声で返して、リークは翔平の手を取ってゆっくりと歩き出す。その手に引っ張られ、翔平も王座の後ろを後にした。

 リークの手に引っ張られ、他国の王族や貴族の合間を縫うように会場内を歩く。その都度、翔平は周りに目を走らせた。

(……こんなに人が多いんじゃ、見つけるのに一苦労だな)

 そう思いつつも、さらに目を周りに走らせる。すると、翔平はあることに気がついた。

 痛いほどの視線が、翔平たちに集まっている。その視線は、大概が物珍しげなものだ。

 「あの子って、リーク王子の何? まさか、あれが噂に聞いた付き人?」などの声も、翔平の耳に届いてきた。

(それは名目上で、ただの知り合いだ)

 心の中でそう反論するも、付き人の役目を任された以上、翔平は何も言えない。

 そんな折に、テラスの入り口へ差し掛かった時だ。

 リークが急に足を止めた。

「リーク?」

 翔平はその名を呼びながら、視線をリークに戻す。そこで彼は、リークが何故立ち止まったのかを知った。

 リークに劣らずの美形の細身で長身の男が、両脇に男女の付き人を従えながら彼の前に立っていた。服装からして、サンデスト王国の王子のようだ。

「今晩は、リーク王子」

 リークを見下ろしながら、その男は唇の片端を吊り上げて笑った。

 リークも、彼に向かって笑みを浮かべる。だが、その笑みは何処か余所余所しかった。

「今晩は、カウイ王子」

「噂に聞く、君の付き人はそこの彼?」

「そう見えないかい?」

「見えないね。――全く美しい容姿じゃない。それに、君は昔から付き人を持たない変わり者だったじゃないか」

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