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第4話:共闘とハイブリッド・アビリティ

 地下鉄のホームに、緊張が張り詰める。

 俺たちの目の前に立つ、ガイアの新型エージェント。


 流線型の白い装甲は、まるで騎士の鎧のようだ。

 その表面を走る青いラインは、不気味な光を脈動させている。


 パニッシャーのような無骨さはない。

 だが、その洗練されたフォルムからは、比較にならないほどのプレッシャーが放たれていた。


「全員、戦闘準備!」


 エリシアの鋭い声が響き渡る。

 その声に、レジスタンスのメンバーたちが一斉に動き出した。


 廃材で作られたバリケードの裏に身を隠し、それぞれが手に持つ、手製の武器を構える。

 火薬式の旧式な銃、電磁パルスを放つグレネード、高圧電流が流れるロッド。

 どれも、この地下都市で手に入るもので作り上げた、彼らの知恵と抵抗の証だ。


「落ち着いて! 相手は新しいモデルよ。データが何もないわ」

「絶対に一人で突っ込まないで。連携を最優先に!」


 エリシアは冷静に指示を飛ばしながらも、その額には汗が滲んでいた。


 俺も、レジスタンスのメンバーたちに混じって、最前線に立っていた。

 ポケットの中のフラグメントが、まるで敵の存在に共鳴するかのように、微かな熱を帯びている。


 脳内に、AIの冷静な声が響いた。


 《警告。対象エージェントの戦闘能力は、前回のパニッシャーを大幅に上回ると予測されます》

 《装甲の材質も未知のものであり、あなたのバーストが有効である保証はありません》

 《単独での撃退は極めて困難です》


『分かってる』


 俺は、思考で短く答えた。


『でも、もう逃げない』


 そうだ。もう逃げるのは終わりだ。

 初めて見つけた、俺の居場所。

 初めて「仲間」と呼べるかもしれない人々。


(この場所を……守りたい)


 腹の底から、今まで感じたことのない熱い感情が湧き上がってくる。

 恐怖で震える足を、無理やり地面にねじ伏せた。


 新型エージェントが、ゆっくりとこちらへ一歩、踏み出した。

 その瞬間、俺の隣でしゃがみ込んでいたゼオンが、古いコンソールを叩きながら叫んだ。


「ケイン!」

「君のその魔法のエネルギー……僕のこのガラクタに流し込めないか!?」


「はあ?」


 いきなり何を言い出すんだ、こいつは。


「うまくいくか分からない! でも、試す価値はある!」

「この地下都市の古い電力網と、君の魔法をシンクロさせるんだ!」


 ゼオンの目は、狂気にも似た探究心で爛々と輝いていた。

 彼の目の前にあるのは、配線が剥き出しになった、いつの時代のものかも分からない制御盤コンソールだ。


 その時、AIがゼオンの提案を肯定した。


 《提案を受理。旧世代の技術とのシンクロを開始します》

 《あなたのバーストを、指向性を絞って、あのコンソールに流し込んでください》


(正気かよ、お前ら……!)


 だが、迷っている時間はない。

 エージェントは右腕を変形させ、プラズマを発射できそうな銃口をこちらに向けていた。


『わかった、やってやる!』


 俺は覚悟を決め、ゼオンの隣に膝をついた。

 コンソールの中心にある、剥き出しのエネルギー受信ポートに、右の掌をかざす。


「頼む……!」


 ゼオンが祈るように呟く。

 俺は、全身のエネルギーを掌に集中させた。


「いっけえええええええッ!」


 バーストのエネルギーが、青白い光の奔流となってコンソールに流れ込む。

 凄まじい量のエネルギーを受け、コンソールが火花を散らし、悲鳴のような音を上げた。


(失敗か!?)


 そう思った瞬間だった。

 コンソールから溢れた光が、地下都市の壁や天井を走る古いケーブルを伝って、蜘蛛の巣のように広がっていく。


 ホームの薄暗い照明が一斉に最大光量で輝き、天井に設置されていた旧式のスピーカーから、耳をつんざくような高周波が鳴り響いた。


 それは、ガイアのネットワークを一時的に麻痺させる、強力なジャミングフィールドだった。


 新型エージェントの動きが、カクン、と固まる。

 その全身を走っていた青いラインの光が、不規則に明滅し始めた。


「やった……!」


 ゼオンが、歓喜の声を上げる。


 《成功しました。これが、ハイブリッド・アビリティの基礎です》

 《対象エージェントは、一時的にガイアとの接続を絶たれ、機能が大幅に低下しています》


 AIの冷静な報告が、勝利の確信を俺に与えた。


「今よ! 総員、攻撃開始!」


 エリシアの号令が飛ぶ。

 好機を待っていたレジスタンスのメンバーたちが、一斉にバリケードから飛び出した。


 銃声が、地下空間に木霊する。

 手製の銃から放たれた弾丸が、エージェントの白い装甲に弾かれる。


 だが、確実にダメージは通っていた。

 ジャミングによって自己修復機能が低下しているのか、装甲のあちこちが凹み、火花を散らしている。


「怯むな! 撃ち続けろ!」


 メンバーの一人が叫び、電磁パルスグレネードを投げつけた。

 エージェントの足元で青い光が爆発し、その動きがさらに鈍くなる。


(俺も、やるぞ!)


 俺は再びエネルギーを練り上げ、今度はエージェント自身に狙いを定めた。

 さっきのハイブリッド・アビリティで体力を消耗したが、まだ戦える。


『AI! 弱点はどこだ!』


 《関節部分の駆動系が比較的脆弱です》

 《特に、首と胴体をつなぐ頸部を推奨します》


 俺はAIの指示通り、エージェントの首元に狙いを定めた。

 そして、今度は拡散させず、一本の槍のように鋭く絞り込んだバーストを放つ。


 青い光の槍が、エージェントの首筋に突き刺さった。

 甲高い金属音と共に、装甲がひび割れ、内部の機械が剥き出しになる。


「グルルル……」


 エージェントから、獣の唸り声のようなノイズが漏れた。

 赤いモノアイが、明確な敵意を持って俺を捉える。


 まずい、ヘイトがこっちに集中した。


 エージェントは仲間たちの攻撃を無視し、一直線に俺に向かって突進してくる。

 その巨体が、凄まじい圧迫感で迫ってきた。


「ケイン、危ない!」


 エリシアの悲鳴が聞こえる。

 だが、俺は冷静だった。


(今だ!)


 俺は突進してくるエージェントの足元に、再度バーストを放った。

 爆発の衝撃で、エージェントが大きく体勢を崩す。


 その一瞬の隙を、仲間たちが見逃すはずがなかった。


「今だ、やれえええ!」


 レジスタンスたちが、エージェントの背後や側面に回り込み、剥き出しになった駆動部にありったけの攻撃を叩き込む。


 銃弾が装甲を抉り、高圧ロッドが内部回路を焼き切る。

 エージェントは断末魔のようなノイズを撒き散らしながら、ついにその場に崩れ落ちた。


 そして、数秒の痙攣の後、完全に動きを止めた。

 赤いモノアイの光が、ゆっくりと消えていく。


 静寂が、戦場を支配した。

 そして、次の瞬間。


「「「うおおおおおおおおっ!!」」」


 割れんばかりの歓声が、地下都市に響き渡った。

 レジスタンスのメンバーたちが、武器を空に突き上げ、勝利を叫んでいる。


 彼らは、俺の方を見ていた。

 俺を、英雄を見るような目で。


「すげえな、お前!」

「あのエージェントを倒しちまうなんて!」


 次々に肩を叩かれ、俺は戸惑いながらも、胸の奥が熱くなるのを感じていた。

 疑いや警戒の視線は、もうどこにもない。


 俺は初めて、この場所で「仲間」として認められたのだ。


 エリシアが、俺の元へ歩み寄ってきた。

 彼女の顔には、安堵と、そして確かな希望の光が浮かんでいる。


「ありがとう、ケイン」

「あなたのおかげで、みんな助かったわ」


「いや、俺一人の力じゃない」

「みんながいたからだ」


 俺がそう言うと、エリシアは少し驚いたように目を見開き、そして、嬉しそうに微笑んだ。


「そうね」

「あなたのその力と、私たちの技術があれば……」

「もしかしたら、本当にガイアに勝てるかもしれない」


 その言葉は、もう夢物語のようには聞こえなかった。

 俺たちの手で、この息苦しい世界を変えられるかもしれない。


 俺は、破壊され沈黙したエージェントの残骸を見つめながら、固く拳を握りしめた。

 戦いは、まだ始まったばかりだ。

 だが、もう俺は一人じゃない。

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