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外道な求恋者

・ ・ ・ ・ ・



 その晩、タマーニャはびっくりするくらいよく眠れた。


 ずっと気がかりだったシーエ騎士達との会談、今回はひとまずこれで終了だ。明日の朝、シーエに帰る使者一行を丁重に送り出してしまえばひと段落。再度提案してくるにしたって、すぐには何も出来ないだろう。だからタマーニャは、その間にさっさとルニエさんと結婚してしまえばよろしいのである!


 執政官のおじい騎士たちだって、そう文句は言えまい。乗っ取り目的のシーエ王子なんかより、生粋ウアラーン人の青年を女王の夫にした方が、国家独立安泰のためにも絶対よいのだと彼らも思い知ったことだろう。


 というわけで、ここは女王の特権を行使し、何か適当な功績をルニエさんに見繕って……。


 その辺まで考えているうちに、女王は寝落ちしたのだった。



 ……かさ……。



「ほがー?」



 妙な物音にタマーニャは目覚めた。鎧戸よろいどの隙間から差し込む曙光は、まだにぶい。侍女が朝食を持ってくる時間にはだいぶ早いはずだった。



――……あっ、もしやからすちゃん?



「ふが~……ちょっと待ってね。今、窓を~」



 もしゃついていても上品な金髪頭を振りながら、タマーニャは身を起こしかけた。


 とすッ!


 その肩が強く押されて、白鳥羽毛枕の中に再度埋め込まれる。



――えっ?



 ぎょっとして目を見開いたタマーニャの視界に、いびつな影が覆いかぶさっている。どきどきどき……タマーニャの頭の中で、動悸が鳴り響いた!




「お静かに」



 重くのしかかる影が、すぐ近くに顔を寄せてささやいた。



「うるさくしなければ、手荒にはしないから」



 上から方向のものの言い方(いや、位置的にも本当にそうなのだけど)ですぐに知れた。……筆頭使者役のシーエ騎士!



「何しに来た」



 かぶせられた大きなてのひらの下から、タマーニャは呟いた。


 寝起きである。意識したわけではなかったが、ぶあいそう極まりないその言い方に男は笑った。にぶい曙光に目が慣れて、薄暗い室内でも男の様子はタマーニャによくわかったのだ。



「恋を成就させに来たんですよ。……そういう話し方もできるんだ、むしろ私はいいと思うなあ」


「何と言う狼藉。きさま国に帰れると思うな、永久幽閉は免れぬぞ」


「罪になんてなりません。私、王族だもの」


「……?」


「改めまして、タマーニャ陛下。求婚してる当事者本人のシーエ第二王子、ダウラ・エル・シエです」



 がこーん!!


 驚愕したタマーニャは口を四角く開けたが、手のひらをかぶせたままだったから、ダウラ王子は女王のおもしろ顔を見逃した。



「なかなか興味深い話だったから、自分で交渉しようと思ってね。それにあなたも予想以上にいい女だし、嬉しいですよ。頭が良くって、しっかりした女性は大好きなんだ。屈服させがいがあるから」



 みどりの瞳が、……人のものではないようにきらめいた気がした。蛇か何か、別の異なる生きもののよう。タマーニャの全身に、嫌悪感がみなぎる。


 しかし女王に恐怖はなかった……代わりに、胸のうちで憤怒がたけっていた。



「下品な」


「雄と雌がつがう・・・のに、上品下品もないでしょうが。でも一応、こんなの持ってきましたよ……ごきげん取りの小道具、定番」



 さわっと顔の横に差し出されたのは、ばらの花束。


 その中にはさまれた、一片の黒い羽……。女王は息をのんだ、それがダウラにもわかったらしい。



「あれっ? 失礼、変なのが挟まっちゃって……。いや実は、これそこの泉のそばで摘んだんですけど、その時変な鳥にまとわりつかれて。嫌ですよねぇ、部下が駆除しときましたよ」



 ごいんっっっ!!


 目の前に急激な火花の飛び散りを見て、ダウラはびくんと背をのけぞらせた。


 ふいうち・頭突きによる痛光!


 毛布の上から馬乗りになって押さえつけていたはずのタマーニャの身体が、その勢いにのってぐぐうっと起き上がり、男は寝台からよろけ降りる。


 あやふやに石床についた左足が、ふわっとすくわれた。何と言う不愉快きわまる浮遊・・の一瞬、状況をようやく悟ってダウラは戸惑った!



――ひどっ……! 女王が実は武闘派なんて、聞いてないッ!



 ぐしゃん!


 背中からまっさかさま、石床に叩き落される。めりっ! 男の喉元にタマーニャの左こぶしがめりこんで、じわっと黄金色に輝いた。


 とたんダウラの二枚目・みどりの双眸が、くるっと裏返って白くなる。


 きっと顔を上げて、裸足のまま白い絹の夜衣のまま、女王は二枚扉に向かって走った。


 ぐいっと両手に押し開けたところ、内扉と外扉のあいだの狭い空間に、男たちがぎゅう詰めである!



「えっ」



 ウアラーン近衛騎士三名をぐるぐる巻きに縛り上げ、その上にのしかかるようにして拘束していたシーエ騎士の三名は、ぼさぼさ金髪を振り乱した女王の姿にぽかんとした。


 その瞬間、すいすい・すいっ!!


 刀の形に繰り出されたタマーニャの左手が、風のように素早く彼らのあごに触れて光る。


 音もなくぱたりぱたりと倒れる二人、しかし三人目は恐怖して短槍を振り下ろす!


 避けきれなくて、びしりと穂先がタマーニャの肩先をかすめた。そこで床に転がった近衛たちが、一斉にどなった!



「丸腰あいてに! それで騎士とは恥を知りなさいッ」


「素顔と本名と住所を晒してやりましょうぞ、あなたの口座は即凍結だッ」


「タマーニャ様! どうぞやっつけちゃってー!」



 ……三者三様そう言ったつもりだったが、実は彼らはさるぐつわを噛まされていた、ふがもごとしか聞こえない。しかしくぐもった三重奏の呪詛は、シーエ騎士の混乱を深めるくらいには役立った。


 ひょいっ!


 そこをすかさず、ふところに入ったタマーニャ。その左手がするするシーエ騎士の≪熱≫を吸い出して、大柄ごつい騎士はぱたーり、とたおやかに倒れ込んだのである。


 タマーニャは息を切らしながら、一人の近衛を抱き起こしてさるぐつわを引っぺがした。倒れたシーエ騎士の腰から短剣を引き抜いて、手首にきつく結ばれた縄をぶちぶち切る。



「タマーニャ様!」


「タマーニャ様、恐ろしゅうございましたッ」


「もう大丈夫だから、あなたはすぐに皆に連絡! あなたはシーエ騎士どもを拘束して見張って、……そしてルニエさん! あなたはわたしについて来てッ」


「はッ、一生そのつもりでありますッ」



 はだしのまま夜衣のまま、廊下を走り出した女王の後ろを、詩魂を持った若き近衛騎士が追ってゆく……!!



〇 〇 〇 〇 〇


 みなさまおはようございます、作者の門戸もんこです。「ずきんがらすの侍女」をお読みいただき、誠にありがとうございました。


 本作品は全5エピソードの短期連載作品です。次回の更新は7月16日(水)の朝7時を予定しております。最終2エピソードの同時更新となりますので、ご注意いただければ幸いです。


 (門戸)

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