女子高生は難しい
「次の授業体育かよー、めんどくせぇな」
「運動神経が良い癖に、体育は嫌いなのか?」
「汗かきたくないんだよ」
「想像よりも贅沢な理由だった」
ジンと並んで廊下を歩いていく、次の授業は校庭で行われるサッカーだ。
バスケとの選択で好きな方を選べたが、俺はジンがサッカーを選んだので同じくサッカーにした。正直どっちでもいいしな。
ちなみにジンはバスケ部で中学の頃は全国に行けるレベルで強かったらしい。
何でバスケを選ばないんだよと思ったが、どうやら授業でまでバスケをやりたくないらしい。
まぁサッカーもめちゃくちゃ上手いので体育の評定はどっちにしろ満点だろう。
結局今日のサッカーでもジンは二得点決めて授業は終わった。
入学式の日から今日でちょうど三週間だ。
その間にすっかりジンとは仲良くなり、よく一緒に行動するようになっていた。
ジンと絡むようになってから俺は、他のクラスメイトともちょくちょく話せるようになった。
友達と呼べるような人はまだジンだけだが、それでもクラスメイトとは大分打ち解けられてるのを感じる。
「あー明日からゴールデンウィークかー、最高だな」
「そうだなー」
明日からはゴールデンウィークで学校も休み
になる。
学校生活も一ヶ月近く経ったが、時の流れは随分と早く感じられる。
「ちなみにツトムは休みの間にあそんだりすんの?」
「特に予定はないけど、ただ姉が家に帰ってくるな」
「へー、お前妹さんだけじゃなくてお姉さんもいたのか。羨ましい奴め」
「あ、そういえば明日は俺の誕生日だな」
「マジか!?初耳だぞ」
まぁ実のところ気を使わせないように敢えて言ってなかったしな。
しかしそれを聞いてジンが申し訳無さそうにソワソワしだす。
「あー、ツトム、そのなんだ、これとかいるか?」
そういってカバンについたキーホルダーを見せてくれる。中々に精巧な作りをした兎のキーホルダーだ。
「ありがとなジン、でも別にそんなつもりで言ってないんだ。気持ちだけ受け取っとくよ」
「そうか、まぁツトムがそういうなら」
「ところでそのキーホルダーはなんなんだ?」
「あー、これ元カノから貰ったやつ」
「なんてもん渡そうとしてんだ!」
こうやって冗談を言い合える友達もできて、
本当に順調な学校生活を送れ始めている。
この調子なら明日帰ってくる姉にも、学校生活は楽しいと胸をはって言うことができそうだ。
俺の姉、阿部 春香は、去年から実家を離れて1人暮らしをしている。
姉が住んでる場所は都市部の近くで、割と田舎な我が家からは車で2時間程の場所にある。
そこまで距離が離れている訳ではないが、それでも往復すると4時間かかることを考えれば、行き来するのに結構な労力がかかることには違いないので、何か特別な理由でもない限り姉も帰ってこない。
ではなぜ姉は明日帰ってくるのか、そりゃもちろん俺の誕生日だからだ。
俺の誕生日は4月29日、ゴールデンウィークが始まる日に俺は生まれた。
不登校だった頃は祝日だとか気にしたことはなかったが、学校に通うようになってからはゴールデンウィークで連休になることが嬉しくて仕方ない。
学校生活は楽しくなってきたが、ここ最近ずっと慣れないことの連続で神経を使って生活していたし、疲れも溜まってるからな。
6限目の授業を乗り切り、HRが終わると早々に席を立ち、そそくさと帰り支度を整える。
今日は出来るだけ早く家に帰りたい気分だ。
「ごめんツトムくん、ちょっといいかな」
教室を出ようとしたらクラスの女の子に呼び止められた。
全く関わりの無い子で、勿論話したことはない。
「これ図書館の本なんだけど廊下に落ちててさ、誰のか分からないから、悪いんだけど図書館の先生に届けてくれないかな」
そういって気まずそうに一冊の本を渡してくる。
それくらい自分で届けろよ!って言いたくなったが、自分が確か図書委員になっていたことを思い出す。
ならば持ち主不明な図書の対応をするのも俺の仕事の内にはいるだろう。
面倒くさいが仕方ない、ちゃちゃっと済ませてさっさと帰ろう。
「そうだったんだ、拾ってくれてありがとう。これは責任を持って届けておくよ」
そういって満面の笑顔で応じる。
こうして日頃からイメージ向上につとめているのだ、随分と作った笑顔だと自分でも思う。
「ごめんねー、ウチすぐ部活行かなきゃだから。じゃっよろしく!」
そういって俺に本を渡すなりすぐに走り去っていってしまう。
ホントにすぐ終わらせて帰ろう。
俺は仕方なく本を持って早足で図書館に向かう。
ここの高校の図書館はかなり広く、そして立派だ。
他の高校の図書館は見たことないので比較できないが、それでもかなり図書館に予算を使っているだろうことは分かる。
先生の話によれば、この図書館内に蔵書の数は約7万冊あるらしい。
詳しいことは分からないが、これは高校の図書館にしてはかなり多い数字だろう。
俺も始めて中に入ったときは、図書館の雰囲気にテンションが上がって1人ではしゃいでしまった。
そのまま図書委員なんてやってるから俺も単純だな。
図書館についた俺は先生を探して歩き回る、いつもなら大抵は入口横のカウンターにいる先生の姿が今日は見当たらない。
しばらく探していると、ふと本棚の高い所の本を取ろうと頑張っている生徒の姿をみつけた。
ギャルのような見た目だが雰囲気は不思議と大人びている女子生徒。
あれは……もしかしてスギモトか?
かなり分厚い本を取ろうと手を伸ばしてるみたいだが、彼女の身長では指先しか届いていない。
例の件から俺はスギモトにあまり関わらないようにしていたが、今回はただの慈善行為だ。
俺が変わりに本を取ってあげようと彼女に近づく。
しかし次の瞬間、本棚から本が抜けて落下、
そのままスギモトの足の甲にぶつかった。
俺は慌てて彼女に駆け寄る。
「おい!?大丈夫か?」
スギモトはかなり痛そうにしてうずくまっていた。
実際、このサイズの本が足の甲に当たったのだ、角の部分が当たったのならかなり痛いだろう。
ましてやこの図書館では上履きを脱いで、スリッパを履くことになっている。
当たりどころによっては腫れていてもおかしくない。
「大丈夫だから、ほっといて……」
とても大丈夫そうじゃない掠れた声でそんなこと言われても、ほっとける訳が無い。
「取り敢えず保健室に行こう。立てるか?」
そういうと片足で震えながら何とか立とうとするが、上手く立てないようだ。
仕方ないので、彼女の肩を持って支えてあげようと手を伸ばす。
「触らないでっ!」
しかし俺のその手は彼女に振り払われてしまった。
ここまで強く拒絶されたら俺にできることは殆どない。
「そうか」
そういって俺はそのまま図書館から立ち去った。
早足で向かう先は保健室だ。
たまたま誰も居ない保健室で、保冷剤と湿布、念のために包帯を拝借して再び図書館に向かう。
するとまだ彼女はその場に座り込んでいた、痛くて動けないのなら結構重症なのかもしれない。
彼女は俺が戻ってきたのを見て、驚いた顔をした。
「取り敢えずこれで患部を冷やしてくれ、痛みがひいたら湿布をはってその上から包帯を巻くといい。あの高さから重いものが落ちたんだ、もしかしたら骨にも異常があるかもしれないから、異常を感じたらすぐに病院に行けよ。それから今日は歩いて帰るな、迎えでも何でも呼べ」
俺は一気に伝えたいことを伝えて、今度こそ本当に帰ろうとする。
「まって」
しかし意外なことに今度は彼女の方から呼び止められる。
小さな声だったので、危うく聞き逃してしまう所だった。
「何が目的なの?」
随分と懐疑的な言い草だな。
俺はただ怪我した人を助けるという当たり前のことをしただけにすぎない。
「目的って……目の前で困ってる人がいたら助けるのはごく自然なことだろ。それ以上でもそれ以下でもないけどな」
「……ありがとう」
小さな声で彼女はお礼を言った。
「でも言っておくけど、私は最低でクズな人間だから。今日の恩をこれから返そうなんてこれっぽっちも思わないような人間だから」
しかし続けてそう突き離すような口調で言われてしまう、だがその声は心なしか震えているように聞こえた。
そして、更に続けて彼女はこう言った。
「だからお願い、もうこれ以上私に関わらないで」
まるで言い聞かせるように、彼女はそう続けた。
彼女は親切にしてくれた相手にお礼をしたうえで、それでもなお、これ以上は関わらないでくれとお願いしたのだ。
一体なぜスギモトがここまで他人を拒絶するのかが全く分からない。
ハッキリ言って異常なほどだ。
だがここまでのやり取りで俺は気付いたことが1つある。
スギモトはずっと何かに怯えているように人と話すのだ。
そして、それを隠すように強気な態度をとっている。
本質的には自分と似ている、そう思った。
何故そう思ったのかまでは、今の俺にはわからなかったが。
「そっか、分かったよ。もう関わらない。色々お節介をやいてすまなかったな」
「…………」
しかしそう感じたところで俺にはどうすることも出来ない。
自分勝手な優しさが毒にしかならないことを俺は知っている、下手をすれば彼女の傷に入り込み悪化させる毒だ。
知った気になった所で、分かった気になった所で、実際の所は1%だって彼女を理解してなどいないのだ。
だから、彼女が望まないなら無理に関わろうとした所で逆効果にしかならないことも、俺には分かってしまった。
俺は今度こそ図書館を後にする。
結局その後、図書館の先生を見つけ本を渡して帰る頃には、普段よりも遅い時間になってしまっていた。
あー、疲れたな。これまでの疲労が一気に押し寄せてくるようだ。
しかし明日からは誕生日&ゴールデンウィークだ、思う存分自堕落な生活をしてやる。
取り敢えず沢山寝よう、そしてそれに飽きたら高校で沢山借りた本を読み尽くしてやる。
そんな休日満喫プランをたてながら俺は帰り道を歩いていった。




