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人獣見聞録-猿の転生 V ・Side-B:悪魔のいる天獄  作者: 簑谷春泥
第1章 八月の光
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プロローグ Side‐Black:第二の男

 凍りついた透明なカプセルの中に、その男は眠っている。棺のような函に身を横たえ、霜の降りた睫毛がぴたりと閉じた瞼から伸びて、外界の光を拒んでいる。暗夜の闇のように真っ黒な前髪は、その寝顔を隠すことを既に諦め、かつてと同じ長さのまま大人しく主の目覚めを待っている。

 不意に函の内側の四方から蒸気が噴出し、棺を満たす。温かな水蒸気が緩やかにカプセルの内部温度を上昇させていく。

 一人の女が、部屋の中に入ってきた。桃色と緑の髪が給仕服の肩まで伸びている。やや緊張した面持ちでカプセルをなぞり、その横に付けられた、強化ガラスに護られた掌大のボタンに手を伸ばした。指紋認証でガラスの覆いを開き、核のスイッチすら連想させるそのボタンをそっと、しかし迷いなく彼女は押した。

 蒸気が部屋に漏れ出す。カプセルの蓋が開き、青年がゆっくりと瞼を開いた。

 喉の調子を確かめるように低く唸る。

「……。今……、何年だ?」

「2248年。5年ぶりの覚醒だね、闇彦くん」

「……5年か。思ったより早かったが……、試運転としては充分か」

 青年は血の巡りを確かめるように、顔の前に掲げた手を、幾度か握り、開いてみせた。「上出来だ。冷凍睡眠……、実用化できそうだな」

 それから光の無い漆のような黒眼を彼女に向ける。「で、見つかったのか」

「極東で世界規模の高エネルギー反応を観測したのが三か月前。パターン解析の結果、一号の狂花帯反応と99パーセント一致……。『Q』の護衛のもと、治安維持局に匿われていることは確認できたよ」

「Q……、真白(ましら)(そそぎ)の、クローンの方か。オリジナルはたしか、五号だったか?」

「そうだね。でも、今さら気にすることじゃないよ。何番だろうと、闇彦くんに敵う奴なんていないでしょ。12人の怒れる(トゥエルヴ・モンキーズ)・第二号の君にはさ」

青年は手渡された銀縁の眼鏡をそっと鼻の上に乗せた。

「はッ、それもそうだな」

それから改造人間第二号……、御黒(みぐろ)闇彦はゆっくりと身を起こした。

「始めようか」


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