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第9章

 

 眠れない……。いつもならとっくに寝ているはずの時間なのにと時計を見て思う。寝返りをうっても目が開いてしまう。

 あの父と母が取り乱すという事はよっぽど重要な事なのかもしれない。両親は私に何かを隠している。でもそれが何なのかわからない。沙羅は夕食に起きた事を思い出していた。考えても、何も答えは出てこない―――。沙羅は眠る事を諦め、水を一杯飲もうと自室から下のリビングへと階段を降りた。リビングには誰も居ないと思っていたが、明かりが点いている。それに微かだが話し声が聞こえてくる。なんだろうと思い私はそっとドアを開け中を覗いた。覗くと、何か深刻そうな顔で父と母は話していた。

「……あなた、どうするの? あと5ヶ月経ったら、あの子は……」

「…運命は避けられん。あの子には―――歩んでもらうしかない。そうなる事は詩織、お前も分かっているだろう……?」

「……っ! そうだけどっ……でも!!」

「詩織」

お父さんが静かな声でお母さんを呼ぶ。お母さんは顔を歪めさせただけで、何も喋ろうとはしない。沈黙……。誰も何も喋らない。心臓の音が聞こえてしまいそう……。今、話していたのは私の事? 

「……私も辛いんだ」

お父さんが沈黙を破り話し出す。私は次の言葉を待つ。

「……お前の言う通りだ。あと5ヶ月すれば、沙羅の誕生日がやってくる……」

!? 私? 沙羅は父、茂瑠の言葉に驚愕する。 

「時が満ちるそのとき、沙羅は真実を目にするだろう……。そして、もっとも私達より辛く苦しい道を歩んで行く……それまであの子を守ってやらないと……」

「えぇ……そうね」

沙羅はその会話を背に階段を駆け上がった。不可解な父と母の言葉。私はどうすればいい? 

 これから起こる事に恐怖を抱き、沙羅は自分を抱きしめるようにうずくり布団を被った。



 昨日の事を思い出し、沙羅は母の顔をまともに見れないでいた。

「沙羅? どうしたの? 顔色悪いけど……大丈夫?」

心配そうに見てくる母。そんな母を見て思う。”なんで話してくれないの”喉から出掛かっていた言葉をなんとか飲み込み、私は大丈夫と答え家を出た。

 悩んでいる私とは反対にクラスの皆は元気だ。そんなクラスメイトを他所にため息を吐いた。

「おはよー…って沙羅!?」

挨拶をしなかった私に対して蒼浬は驚いているのだろう。

「どうしたの? 何か元気ないよ? 何かあった?」

そう言って覗き込んでくる蒼浬。

「……なんでもないよ」

無理やり笑って話を変えようとすると両手で顔を挟まれる。

「にゃにすんのっ……!」

「…ふふっ可愛い! 無理やり笑ったって駄目ッ! 蒼浬には分かるんだから!」

「蒼浬……」

そんな彼女は私から手を離し、言う。

「…そんな暗い顔したら、幸せ逃げてくよ~~」

「なっ…! 余計なお世話です~~それに、お返し」

私は蒼浬の頬を掴み伸ばす。

「いひゃい!」

蒼浬ののびた顔を見て私は笑う。不安を消すように……。

「やっと、笑ったね。沙羅には暗い顔なんて似合わないよ」

 なんで蒼浬には分かるんだろう。ホントに相変わらず元気だなぁ……蒼浬は。でも、それが蒼浬の良い所だ。そんな彼女に私は何度も助けられている。蒼浬が何かあったときは私は解決してみたいなと心から思った。


 次は理科か……。

「沙羅! ちょっと先に行ってて! 遅くなるから私の分ももってくれる?」

「わかった。じゃあ、先に行ってるよ」

「うん。ごめんね」

そんな会話を交わし、私は教室を出た。廊下を歩いていると、黄色い声援が聞こえてきた。前を見ると久遠が歩いている。だからか……。私は口角をあげ、久遠の隣を通る。すれ違う間際に聞こえた言葉に沙羅は驚き樹の方を振り返る。そんな沙羅に樹は目もくれず背を向け去って行った。

 樹に言われた言葉、それは―――。

「あのときは、ごめん」

 そう言われ沙羅は赤面する。あのとき…それは保健室での事だろう。蒼浬がいなくてよかった。蒼浬の事で紛らわそうとするが、樹の声が耳にこびりつき離れない。でも、温かな気持ちになるのは何故だろうか……。まだ火照っている頬に手を当て沙羅は理科室に向かったのだった。

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