第5章
加筆修正中
4章と話が合いません。
ご了承下さい
ベッドにごろごろと転がり、私はため息を漏らした。
「はぁ…」
久遠樹に言われた事を思い出し、また赤くなってしまう。―――あんな事、言われたの初めて。それに、腕を捕まれるなんて。ポーっとしてしまった自分が恥ずかしい。まくらに顔を埋め、ベッドの上をごろごろと転がる。
「久遠、樹……」
見た者を魅了するような、彼の容姿。一瞬、ほんの一瞬だが見とれた。鋭いような、凛としたような瞳だった。あんな瞳で見つめられたら、私どうなるんだろう。そんな事が頭の中に浮かび、思いっきり首を振る。
「ち、ちがうっ! ちがうっ! そんなんじゃなくて…」
一人で訳が分からず、何かに向かって弁解する。わたわたと慌てているうちに、私は眠ってしまった。
そして、朝。カーテンの隙間から零れてくる光に私は目を細めた。
いつもと同じ時間に朝食を食べ、明冬を待つ。
「はよー! はぁー眠ぃ…」
片手を挙げやってきた明冬。
「おはよー。どうしたの? 昨日寝るの遅かったの…? 凄い隈だけど、」
「あ"ーこれなぁ…ちょっと、父さん達の仕事手伝ってて…」
「明冬のお母さんとお父さん、忙しいもんね…また、建築のデッサン?」
「まぁ…そんなとこ」
明冬のお父さんは建築家で、お母さんは学校の先生。そんな親を持つと大変だって明冬はよく言ってる。
「お疲れ様。私が肩でも揉んであげよーか…?」
「いっ、…良いって! おれそんなに、柔じゃねーし!」
「そお?」
朝早く起きてしまった為、登校時間より少し早く家を出て学校に来ていた。
「昨日は全然、眠れなかった……あのアドレスは間違いだったし。もー、最近寝不足つづきだよ……」
そんな事をブツブツ言いながら廊下を右に曲がろうとしたが、誰かにぶつかり声を上げてしまった。
「きゃっ!」
「うわっ!」
相手のほうも驚いたみたいで、声を出した。声からすると男子のようだ。床に座り込み沙羅は顔を上げる。とそこには真正面に綺麗な顔があり、おもわず後ずさってしまった。
「ははっ、そんなに驚かなくても良いのに……」
その男子は声を出して笑う。そして、私をもう一度見る。さっきまで浮かべていた笑顔を消し、氷のような瞳で沙羅を見据えた。
「そう……そんなに恐がらなくても良いのに。なあ、薔薇姫?」
悪寒が走った。さっきの笑みが嘘のよう……これがこの人の本当の顔なの? なんて、冷たい瞳。
その男子は沙羅に近づき、頬に手を添え優しく撫でた。沙羅はそのままの状態で口を開く。
「ば、薔薇姫って何のこと? それに貴方、一体誰なの?」
その男子は沙羅の頬から手を離し言った。
「ああ……紹介が遅れたね。俺の名前は高宮架斐。俺の事は架斐でいいよ。―――薔薇姫。…薔薇姫っていうのは、俺たち―――吸血鬼の間で呼ばれている名。伝説の血、人間の中でもっとも極上の血の持ち主。それが―――水無月沙羅、お前だ!!」
沙羅はまだ、状況を理解できていなかった。突然、薔薇姫と言われ、その薔薇姫が何なのかさえ分からなかった。それに……気になったのは、目の前にいる架斐が言った言葉。 ”俺たち吸血鬼の間” 吸血鬼なんて、架空の生き物。いるはずがない…。ありえない……。もし、そんなものがいるのだとしたら、信じたくない!!
「信じられない―――そんな顔をしているね。でも、存在するんだよ。俺たちが生きているからこそ」
架斐はそう言って、鋭い眼差しで私を見た。まるで、獲物を見つけたような目……。この瞳どこかで?
「薔薇姫……お前の血はどんな味がするのだろうな?」
架斐の口元から微かに見える鋭い牙。それは、人間にはない……人の生き血を啜る為に在るもの。牙は吸血鬼の証し―――。
架斐が沙羅の首筋に噛み付こうとした瞬間。一人の女の子が歩いて来た。
それをみた架斐は舌打ちし、沙羅を一瞥し去って行った。沙羅は安堵のため息を吐き、その場に座り込んだ。