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第24章

 抱き締められ彼の温もりが伝わってくる。ぼんやりとした頭で沙羅は吸血鬼ヴァンパイアも人と同じように暖かいんだと思っていた。

「…ありがと。なんか、すっきりしたっ!」

そう言って沙羅は屈託無い笑顔を見せた。樹も同じく笑みを返し、再度同じように沙羅の顔に触れた。

「…目ぇ、赤くなってる。後でちゃんと冷やしとけよ?」

樹は手を伸ばし、沙羅の赤く腫れている目をそっと撫でた。

「…っ…うん」

頷いた沙羅を見て満足そうに樹は微笑んだ。微笑んだ樹に対し沙羅はまたうつむく。そして、そのまま樹に問う。

「…聞いて良いのか分からないんだけどさ、」

まあ聞くんだけどねと笑い、沙羅は樹を真っ直ぐ見、問いた。

「――吸血鬼ヴァンパイアって何なの? それに薔薇姫って何? 極上の血だとか、香りとか、もう聞くのはいやなのっ…。久遠なら、…樹なら知ってるんでしょ? 教えてよっ……」

沙羅の最も気になっている事。彼ならわかるとおもい質問を投げた。

「…沙羅は吸血鬼ヴァンパイア、俺たちをどう思う?」

静かな彼の声に耳を傾ける。

「……。」

黙ったままの沙羅を見て樹は何も言わず、そのまま話し続ける。

「――恐ろしい、怖いと思うならそれで良い。俺たちは人の生き血を啜る化け物だから」

 『化け物』という言葉に胸が苦しくなる。彼にそんな言葉を言わせたいわけじゃない。沙羅はただ本当の真実を知りたいだけ。どうして、両親は”薔薇姫”というものを隠すのか。まだ知りたいことや疑問は沢山ある。

「…かじゃ…ない」

「え?」

「……化け物なんか…ないっ! 樹は化け物なんかじゃないっ! 違う…違うの、そんな事を言わせたいんじゃないっ。私はただ……」

そう言って沙羅は自分の体を抱きしめる。震える体を、己の腕で。

「…吸血鬼ヴァンパイアは怖いよ。怖いけど、私はそれを受け止める。だって生きているから。私達とそんなに変わらないよ。人間も牛や鳥の肉を食べているでしょ? だから同じ」

真っ直ぐ樹の瞳を見て呟いた。

「…だから、そんな事を樹に言って欲しくない」

「――ホント沙羅には敵わないよ」

樹は優しげに沙羅の頭を撫で、ゆるりと頬に手を這わした。

「もう質問は? 無い?」

「…あるけど…薔薇姫って知ってる?」

極上の血を持つ者。一口啜れば、もう他の者の血は飲めないという。

 難題でも押し付けられたように樹は一瞬、眉を寄せた。その表情を沙羅が見逃すはずも無く、沙羅は首を傾げた。

「樹?」

「…薔薇姫は2千年に一人生まれてくる女児。その血は甘く、口にした者は最高の快楽と力が得られると俺達の間(ヴァンパイア界)では言われている。そして、その血を求める輩も少なくない」

 ”その血を求める輩も少なくない”沙羅は樹の言った事を心の中で繰り返した。

「輩って…もしかして」

青ざめる沙羅を見て樹は頷いた。

「そう。吸血鬼ヴァンパイアだ…薔薇姫になった奴は最悪だな。こんな卑劣で傲慢ごうまんなものに狙われるなんて…俺だったら自分の運命を恨む。もしくは両親か…でも、2千年なんだ。そんな確率で生まれてくる、人間なんていないさ」

(薔薇姫が目の前にいる私だったら? 貴方はどうするの?)

震える掌をもう片方の手で強く抑え、止める。

 胸が苦しい。息が出来ない。耳鳴りがする。話している時の樹は哀れんだ顔だった。自分を、薔薇姫を可哀想だと樹は言った。言ってはいないが、そう聞こえた。

「…じゃあ、もしも私が薔薇姫…だったら? 樹はどうする?」

恐る恐る沙羅は訊ねた。

「沙羅が? …そんなのあるわけ無い。もし、沙羅が薔薇姫なら俺は絶対に、何が何でも沙羅を守ってみせるよ」

 真剣に、ただ真剣に樹は沙羅に向かって言った。曇りない澄んだ瞳で沙羅を映し、樹は告げた。

 涙が零れ落ちそうだった。言葉をくれるだけでこんなにも不安が溶けて行く。そんな気持ちからか、沙羅は一粒、雫を流した。その水が沙羅の手の甲に落ちた。

「…沙羅っ?」

樹は沙羅が泣き出してしまったかと思い慌てて彼女の顔を覗き込んだ。

「…樹、ありがとう」

心からの笑顔でありたけの思いを込めて沙羅は微笑んだ。

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