第16章
「はぁっ……はぁっ……」
沙羅は保健室を飛び出して直ぐ、樹の教室に向かった。教室のドアを開け中に入る。そこには誰もいなかった。もう授業が終わったのだろう。でも、久遠は何処に居るの? まさかもう帰ってしまったの?
そんなはず無い! 何故か沙羅は確信が合った。
校内、玄関、廊下、渡り廊下、他の学年の教室、図書館、体育館など一通り行って見たが、久遠は居なかった。私は仕方なく鞄を持って学校を出た。家に帰ると見慣れない靴があり、不思議に思ってリビングに向かうと、明冬が椅子に座っていた。明冬は沙羅に気付き手を上げる。
「おっ! お帰り、沙羅。大丈夫か? 体調……」
「えっ……うん。もう大丈夫」
沙羅はそう言って無理やり微笑んだ。その不自然な沙羅の笑みに明冬は眉をひそめた。
「体調? どうかしたの? 沙羅?」
不安げに詩織が言う。
「大丈夫、大丈夫! 元気だよっ」
なんでもないといった顔で沙羅は詩織に言葉をかける。
「―――そう。それなら良いんだけど……また何かあったら、絶対、私達に言うのよ?」
「そうだぞ。沙羅」
ソファに座っていた父、茂瑠も頷く。そんな二人に弾圧されながらも沙羅は言った。
「う、うん……わかった。――さっきから気になっていたんだけど、なんで明冬が家にいるの?」
沙羅の問いかけに詩織は思い出したように答える。
「あぁ…それはね。明冬くんのお母さんがケーキを焼いたから、どうぞって…おすそ分けって持ってきてくれたのよ」
「そっか。明冬のお母さん、お菓子作り上手だもんね」
納得したように沙羅がいうと沙羅達の横でテレビゲームをしていた柚鶴は声を出してはしゃぐ。
「じゃあ、切りましょうか。皆も揃っている事だし……! 明冬くんも食べてくでしょ?」
詩織は明冬が首を縦に振るのを見てケーキようの皿を取り出した。
「なんか、この頃沙羅、元気ないよなー」
玄関で靴を履きながら明冬は沙羅に言う。不意をつかれ、沙羅は素っ頓狂な声を出す。
「へっ?」
「だから……お前らしくねぇっていってんの!」
照れたように頭を掻きながら、明冬は言った。
「…や、やだな~! 私、そんな顔してないよっ…! いつも通りだってば!」
沙羅はそう言った途端、明冬の目が真剣になった。いつもとは違う明冬に沙羅は一瞬たじろぐ。
「…いつも通りなんかじゃねぇよ」
明冬は沙羅の腕を掴みに自分の方に抱き寄せた。沙羅は体制を崩し、明冬の方に体が傾いた。明冬はそれを支えるように、優しく沙羅を包み込む。
「―――っ!?」
「――無理なんか、すんなよ……」
沙羅は驚いたように明冬を見上げる。どうして、自分の押し隠している気持ちが分かったのか……。バレていないと思っていたのに。どうして。
沙羅は明冬の思っている事を読み取ろうと、もう一度、明冬を見上げた。