第14章
架斐は沙羅を見据え言った。
「ラッキーだなあ……沙羅ちゃんとこうしてまた会えるなんて、本当に嬉しいよ」
架斐は沙羅に笑みを見せるが、沙羅は黙ったまま何も言わない。否、言えないのだ。
「それよりさあ…? なんで、沙羅ちゃんがこんな所にいるの? 保健委員なのは知ってるけど……
まさか、本当に気分が悪いのかな? それだったら、俺が介抱してあげようか?」
架斐は妖艶に微笑み、沙羅に見えるように牙を見せた。忘れていた。この人も吸血鬼である事を。
「……っ!!」
沙羅は声にならない叫びを出す。沙羅は後退るが架斐には意味の無い抵抗に等しい。沙羅の両腕を架斐は片手で拘束し、そして頭上へと持っていく。架斐の行動に驚き沙羅は目を見開くが腕を動かそうにも動かせない。…どうしよう? 腕は掴まれたままだし。なんとか、架斐から逃げようと辺りを見渡すが何も無い。悩んでいると、架斐が沙羅の胸ボタンに手を掛けた。
「…っや!」
驚いて声を出すが架斐は慣れているのか平然としている。架斐は沙羅の抵抗するのも楽しそうに眺めて次々とボタンを外していく。私、どうなるの? このまま高宮架斐に血を吸われて吸血鬼になるの? それとも……嫌っ!! 絶対、嫌だ。高宮架斐に犯されるなんて……。脳裏に浮かんだ事を消すように沙羅は頭を左右に振る。
架斐は沙羅の顎を掴み、無理やり自分のほうへと向かせる。すると沙羅の白い首筋が露になった。架斐は顎から手を離し沙羅の首筋のラインをなぞる様に優しく触れる。沙羅は架斐の手のもどかしさに声を上げた。
「……んっ」
自分のものとは思えない声に沙羅は顔を真っ赤に染める。……いまのって、私の声?
「くすっ…可愛い声。そんな顔をしてるって事は……まだ?」
沙羅は自分が処女だと架斐に言われ、これでもかっというぐらい赤くなる。
「俺が相手してあげようか? 沙羅ちゃんだったら俺、大歓迎だよ? ……どう?」
「……最低っ! 体だけなんて信じられないっ……バカにしないでっ! 私は好きな人じゃなきゃ嫌!! 誰が貴方となんかっ!」それも吸血鬼なんてもってのほかだ。沙羅は架斐を睨みつける。
「ふーん。沙羅ちゃん、好きな人いるんだ……。どんな人? 人間? それとも……吸血鬼?まあ、どうでもいいけど」
――『好きな人』その四文字の言葉が頭の中をぐるぐると回る。言われたとき、私は誰の事を考えた? なんで、久遠が浮かんでくるの? 私は久遠が好き? 何故、久遠の事を思ったら胸が焦げるように熱くなるの…?
そんな困惑している沙羅を見て架斐は声を出して笑う。
「やっと、捕まえたよ? 薔薇姫」
架斐の瞳はどんどん紅くなっていく。吸血鬼が獲物を捕らえる時の目。忘れるはずが無い。この瞳がどれほど恐ろしいか、自分がよく知ってる。沙羅は必死に抵抗するが叶わない。
「無理だよ? どんなに俺達の力に抵抗しようっていっても……人が吸血鬼に勝てるはずが無い」
そう言って架斐は冷たく沙羅を一瞥する。あの時と一緒―――。どうして、この人はこんな冷たくて悲しそうな顔をするの?
架斐の見透かすような紅い瞳から目を逸らそうと沙羅は顔を背け、目を瞑った。それがいけなかったのだ。沙羅が首を振った時、首筋が架斐の目の前に晒された。それを架斐が見逃すはずも無く。架斐は白い首筋に唇を寄せ首に舌を這わせた。気持ち悪い。
「……やっ! やめっ……あっ」
架斐は沙羅の太ももを撫でた。予想通りの反応に架斐は笑みを深める。そして、薔薇姫である沙羅の肌の匂いを堪能する。その肌の下を通る赤い血。それは吸血鬼を誘う甘うい媚薬。早くその赤い血を…吸血鬼の喉を癒す事が出来るのは血だけなのだ。そして、架斐が牙を突き刺そうしたその時。
―――バンッ! 保健室のドアが音を出して勢いよく開く。ドアを開けたのは誰なのか沙羅には分からない。しかし架斐は分かったのか、噛み付こうとしていた首筋から顔を離し眉を寄せ、カーテンの向こうに居る人物を睨みつける。架斐がカーテンを開けるとそこには、樹が立っていた。沙羅は予想していない人物に目を見開く。樹は二人を冷たくを見下ろしていた。