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第13章

 チョークを片手にそして右手には歴史の教科書を持った先生が何かを言っている。その様子をぼんやりとした目で見て、私はノートに目を落とした。真っ白な何も書かれていない綺麗なノート。その白いページに書き込む。「薔薇姫」と。これがどんなものなのか、何を意味するものか私は分からない。幾度無く考えても答えは見つからぬまま。沙羅は無意識のうちに掌を握り締めていた。

 あの夜の日から、沙羅は樹に会っていない。ハンカチは返さなければいけないと思っても、後一歩と言うところで足がすくんで動けなくなってしまうからだ。それに樹と面と面を向かって会わないと意味が無い。樹と会って話すのだ。そして「薔薇姫」のことを聞く。どうして、自分が吸血鬼ヴァンパイアから襲われるのか、薔薇姫とは何なのか、それを聞くために樹に会わなければいけない。


      ◇ ◇ ◇


「なぁ……樹」

樹は頬杖をつき、目の前にいる男-―武藤天眞むとうてんまを見た。天眞の隣には少し切れ目で眼鏡の男がいる。泉神楽いずみかぐらだ。本を片手に教室の壁によしかかり天眞と樹のやり取りを黙って聞いている。

「なんだ?」

 神楽と天眞は沙羅が襲われた事を知っていた。そのことを樹から聞いていたからだが。最初、樹の口から女の子の名前を聞くとは思っても居なかった。それに樹は顔色が悪い。他人から見ても樹は何か――悩みか? を抱えているようだ。そんな樹に心配になり、思っていた事を樹に言う。

「大丈夫か?」

「……大丈夫に決まっているだろ? なんだ? お前が俺を心配するなんて珍しい」

樹はいつも通りに答えたが、天眞は樹の嘘を見抜く。

「ふーん。”大丈夫”ねぇ……。お前、鏡で自分の顔見てくれば?」

天眞に同意するように神楽が読んでいた本を閉じ樹を刺す様に見つめた。

「天眞の言う通りだ。樹、あの子の事が心配で堪らないって顔に書いてある。それにその子、今までの子達とは違うんじゃないのかい?」

「……っ!」

樹の脳裏に沙羅が最後に見せた、あの悲しみと怒りが入り混じったような表情が浮かぶ。いまさら後悔しても遅い。あれは仕方がなかったんだ。思って樹は気づく。仕方がなかった――? どうして、そんな事を思った? 俺は吸血鬼ヴァンパイアだと明かしたくなかった? そうだ、俺はバレらしたくなかったんだ。あの悲痛な顔を思い出すたび罪悪感に浸っていく。あの少女のことが忘れられない。そんな事今までなかったのに。そして樹は沙羅に対して、初めていだいた感情。それは――沙羅を守りたいという気持ち。その思いが樹の心を満たしている。

 樹は今まで自分が吸血鬼ヴァンパイアである事を見せ、何度も人間と触れ合うのを避けてきた。それは間違いだと樹は気づく。でも――。沙羅に拒否されるのではないか、その不安が樹の威勢を押し潰すようにそれは樹の心に重く圧し掛かる。

 そんな樹の迷いを遮るように天眞は言う。

「心配なら行けよ。あの子の所に……。それにアイツが――高宮架斐たかみやかいが関わっているんだろう?」

「……ああ」

「まずは行動するべきだ。そうだろう? 樹?」

 神楽はずれていた眼鏡を人差し指で押し上げ、不敵な笑みを浮かべる。三日月型になった口からは鋭い牙が見えた。――吸血鬼ヴァンパイアの牙。樹は神楽の牙を見て思った。俺達は人間じゃない。神楽も天眞も俺と同じように卑しい尖った牙を持ち、生き血を啜るのだ。容姿さえも不気味で美しい美貌。それが吸血鬼ヴァンパイアなのだ。そして本性を剥き出しにすれば人は皆、逃げて行く。そんな事、俺達は望んでいないのに。


      ◇ ◇ ◇


 頭がガンガンする。風邪だろうか? 沙羅は痛む頭を抑え授業を受けていた。授業に集中しようするが、頭痛がそれを邪魔する。沙羅は痛さに我慢できなくなり、席を立った。そして先生に頭痛がするから保健室に言っても良いかと問う。

「大丈夫ですか? 気分が悪いのならどうぞ」

そう言った先生に頭を下げ、保健室に沙羅は向かった。

 保健室に入ると保健の先生が居ない。先生が来るまでベッドで休んでいよう。沙羅はベッドに潜り込み、体を横に倒す。しばらく横になっていると足音が聞こえてきた。沙羅は先生だと思い、体を起こす。

「あ、先生っ」

沙羅はカーテンを引いて先生を呼ぶが反応が無い。不思議に思い、顔を出すとベッドに押し倒された。

「!? きゃっ……」

誰だと思って顔を上げると、

「た、かみや…かい…」

高宮架斐が沙羅を見下ろしていた。妖しげな笑みを浮かべて。

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