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私の夢

作者: 猫田五郎丸

 私はみたんだ。夢を――。

「あんなぁ。お盆っちゅうのはなあ、あの世の人が帰って来れる日なんよ。しっかりお迎えしたらなあかんで」

 昔から田舎の祖父に言われていた言葉だ。あの世も霊も否定はしないが肯定的にもなれなかった。

 しかし、数年前亡くなった祖父が盆入りにふっと目の前に現れた今……否定は出来ない。

「元気そうでなによりや! やけど上から見とったら仕事しすぎちゃうか? しまいに去んでまうで、しっかり生きやなあかんど」

 いきなり部屋に現れた祖父に声が出ない。祖父は何故かゲラゲラ笑っている。そして、私に手を差し伸べこう言った

「ほな、行こか〜」

「い、い、い、行くって何処へ!? 私、死んだ? 死んだの!?」

「なんでやねん! まあ手ぇ繋いだるからついてき」

 そう言ってパニックになっている私の手を掴んだーー瞬間、白い光に包まれた。ほんのり暖かい。そして光が弱くなり目をゆっくり開けると、懐かしい校舎が見えた。見飽きるほど見た小学校だ。

「キノシタ小学校やで。お前運動会でいっつもビリケツやったな! しかも全ての種目な!」

 ……人の傷をエグりながらまた笑っている。

「でもお前はビリケツでゴールしてめっちゃピースしてたん忘れられへんわ」

 どんどん傷はえぐられる。その姿に空気を変える為か元気に言った。

「ほな、次行こかぁ」

 また祖父は私の手を握る。再び白い光に包まれて、次はこれまた通っていた学校だ。そしてここは私が青春を捧げた音楽室。

「ここで吹奏楽の練習しとったんかあ。コンクールはじいちゃん感動して涙ちょちょ切れそうになりながらそのあとのビールがたまらんかったわ! わっはっは」

 豪快な笑いは音楽室には響かない。でも私にはしっかりと楽しそうな祖父が見える。幸せだ。もう会えないと、永遠の別れをした祖父とこうやって笑えるのだから。

「ほな」

「次はどこ行くの?」

 いつのまにか楽しんでいる自分に気づいたが、もうそんなことどうでも良かった。

 祖父と色んな所を回った。場所取りに一番体力のいった花見。保護者には厳しい炎天下の海、カメラ好きの祖父がよく通った紅葉の綺麗な神社、山頂の雪で真剣に戦った雪合戦。素敵な思い出ばかりだ。

「次は? 次どこ行くん?」

 都会で暮らすうちに忘れてしまっていた方言まで出てくる。

 わくわくして言う私の一言はなぜか空気を変えた。

「ほな……いこか」

 寂しそうな顔をした祖父は私の右手をゆっくり握りしめた。白い光につつまれーー、るものだと思ったのだが目の前は暗転し真っ暗闇になった。

 そして棺が一つ、置かれている。

 不気味なそれは近づきたくないのに、私を呼んでいる気がして仕方がなかった。

 ゆっくり近づいて顔を覗くと、中にいたのは私だった。

「ごめんなあ……じぃちゃん頑張ったけどお前蘇生せんかったみたいやわ」

 今にも泣きそうな祖父が居る

 いつも明るく、楽天的で、涙を見せない、でも誰よりも痛みが分かり、優しくてーー。

 いつのまにか私は涙を流していた。

「お前がちょっとでも楽しく走馬灯を見られるように考えたつもりやけど……やっぱ辛いわな、ごめーー」

「ありがと、じいちゃん! 私、しっかり死ぬわ、楽しかった! あの世でまた会おな!」

 大粒の涙でよく見えなかったが、私の人生最期で一番素敵な夢を見せてくれた祖父へ全力のピースをした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 平易な文章とお爺ちゃんの関西人丸出しのキャラのお陰で物語にムリなくズイズイ入り込めました。 ああ、あの時みる走馬灯って、実は先に逝ったご先祖様が見せてく入れる物なんだと思わず納得。 主人公…
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