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カモノハシには毒がある

作者: 砂霧嵐

※カモノハシが動物園に普通にいる描写がありますが、完全にフィクションです。カモノハシは日本の動物園では会えないらしいです。会いたければオーストラリアに行ってください。


カモノハシという生き物をご存知だろうか。おそらくご存知だと思うが一応説明する。説明させてほしい。


くちばしを持ちながらも鳥類というわけではなく、まんまるなつぶらなお目々は非常にとてもめちゃくちゃキュートで可愛く、ふわふわな毛は水気を弾く。内側にある毛は保温性があるらしい。


そして意外なことに、オスのカモノハシの爪には、毒がある。


「だから、カモノハシの可愛さには謎のリラクゼーション効果があると言われている。カモノハシ保護地区は行ったことがあるだろう?」

「そんな基本的なこと、貴族でも平民でもスラム街民でも今は基礎教育で習いますわよ。保護地区はいつ行っても天国ではございませんか……あ、プラティパス教授に言っては無意味でしたわね。」

「それもそうだな。俺よりカモノハシに詳しい奴は…この世界にたぶんいないだろうし。」


ここは王立ディフュール大学、の、二階角部屋にあるカモノハシ保護研究科の研究室。

ディアレント国の王都南部に位置する有名大学の有名研究室だ。


この世界には『カモノハシ』という存在がいる。

正確には、異なる世界から来訪し、繁殖に成功している生物である。



数年前、ディアレント国の隣にあった敵国がこっそり戦争をしかけようとするために異世界から召喚した人間を洗脳し戦わせようと召喚魔法を実行。

魔法師の命を何十人分も潰してようやく召喚した人間はひょろりとした男で、上下の繋がった変わった服と揃いの帽子を着用し、当時誰も見たこと無かった生物を2匹抱えてぽかんとしていたという。


「おお!ようやく成功したか!そこの異世界人よ、私の命令に従え!おいっ取り押さえて従属の首輪を装着させよ!」

「えっ怖…!何あのおっさん…というか何ここ!映画!?」

「貴様、我が王に大人しく従え!」

「えっえっ?剣持ってる!?い、行けぇ!カモたろー!!」

「ぎゅわー!?」


異世界人は右脇に抱えていた生物を襲いかかってきた兵士に向かって投げつけた。生物は剣の横を通り、生物の爪が兵士に当たって兵士は引っ掻かれた。

王はケチだったので甲冑などは一部の側近や近衛兵にしか与えていなかったのだ。


襲いかかっていった兵士は、叫び声を上げて床をのた打ち回っている。手はパンパンに腫れ上がり、いつの間にか顔も腫れて赤黒くなっていた。


「ぎぃやあああああ!!ぐあああっ!」

「なっなんだ!?何をそんなに苦しんでおる!?」

「がっああっあっ……ぁ…。」

「お、おのれ!!異世界人!何をした!!」

「えっカモノハシの毒ってそんな…?いやこの際どうでもいい!よく分かんないけど、それ以上近付くともっと恐ろしいことになるぞ!たぶん!いいのか!!」

「ぎゅわ!」「きゅわー!」


異世界人は戻ってきた生物と左脇に抱えたもう1匹、それぞれのお尻を両手で掴み、周囲に見せつけている。

生物たちもとりあえず威嚇をしており、兵士の苦しみ様を見た他の兵士たちは戦意喪失している。この場にいる全員がよく分からない混乱に陥っていた。


引っ掻かれた兵士は全身を紫にして、全身腫れ上がっているように見える。既に意識はなく、泡も吹いている。


「ぐっ…。おい!私をもっと囲んで守らぬか!」

「よく分かんないけど……今だ!」

「あっ」


王が兵士たちを寄せて身を守らせている間に、異世界人は兵士たちの隙間に走り込むと、窓をガシャーンと割って逃走した。

上下の繋がった服の内側に生物を潜り込ませながら。手をクロスさせて。


1階だったので異世界人はそのまま城内を全力疾走し、よく分かんないままその辺に繋がれていた馬を盗み、パッカラパッカラと城を脱出。そのままストレートにディアレント国の関所へ逃げ込んだそうだ。


異世界人は、元野球部の甲子園球児。専門学校で動物に関することを学び、とある動物園でカモノハシや小動物のコーナーを担当していた新人飼育員で、ふれあいコーナーの乗馬体験も担当する男であった。ひょろりとしたシルエットの内側は細マッチョである。

そして動物に割と懐かれやすい。


かくして、異世界人と謎の生物カモノハシの存在によりお隣が戦争を起こそうとしていることが発覚。ディアレント国は戦争を阻止するべく、ついでにいつも要らんことをちょいちょいしてくる隣国を打ちのめすべく出兵。

ならびに異世界人とカモノハシ、隣国でいきなり知らん男に乗られたにしては懐きまくっていた黒馬を保護した。


異世界人にとってどうでもいいが、その黒馬は隣国の将軍の愛馬であった。


「いやー、窓割るのは映画みたいに上手くいって良かった。あとカモたろーとハシリーヌに怪我なくて良かった。あとこの馬懐いてるんだけどどうしよ?野生に返す?あ、イヤ?そっかー。」


保護された異世界人は思ったより冷静で、野生に返されるかもしれないことを悟った黒馬に帽子をもしもしと食まれている。

こうして異世界人は無事生き延び、カモノハシのカモたろーくん (オーストラリア生まれ動物園育ち)とハシリーヌちゃん (オーストラリア生まれ動物園育ち)も生き延び、黒馬のブラックワンダー号 (命名異世界人)は隣国で果てたかもしれない運命を脱した。


保護されてのんびりしている間に、召喚した隣国は滅亡。滅亡の寸前に隣国の王が悪あがきに召喚の魔法陣を破壊、召喚方法の書かれた書物はどさくさに紛れて戦火により焼失、異世界に帰る方法は永久に消えてしまったのだった。

悲しみに明け暮れたが帰れないものは仕方ない。実家の愛猫マロンちゃんに会えないのはとても悲しいが、帰れない事実は異世界人にもディアレント国にもマロンちゃんにもどうも出来ない。


異世界人 遠藤幸太…コータ・エンドーは諦めて、連れてきてしまった命の恩人、いや命の恩カモノハシであるカモたろーとハシリーヌと共にディアレント国でお世話になることとなった。あとブラックワンダー号。


「それでエンドー殿。」

「なんですか、えっと、たぶん大臣さん。」

「宰相です。そのカモノハシ?という生き物は…どのような存在で?」

「えっとカモノハシというのは……ん?」


ここでやっと、コータはカモノハシたちの異変に気付いた。


「…カモたろー、お前そんなに爪大きかったっけ?」

「ぎゅ?」

「ハシリーヌ、お前そんな…羽根生えてた?」

「きゅわ?」

「というかそんな鳴き声だっけ?」


いつの間にかカモたろーの爪は立派なものになっており、カモたろーの意志によって収納したり毒を自由に出し入れすることが出来るようになっていた。敵意が無ければ毒は出さない。

ハシリーヌの背中にはちょこんとヒヨコのような羽根が生えており、低空飛行なら可能となっていた。意外と早く飛ぶ。


尚コータはカモノハシ担当になってから一度もカモノハシの鳴き声を聞いたことがないので、これが正解の鳴き声なのかは分からない。


「なんで?」

「わたくし共に聞かれましても…。もしや召喚時の影響では無いでしょうかね?」

「なるほど?」


隣国が滅亡RTAにより滅んで1ヶ月、カモノハシがディアレント国の王族に気に入られたことで無事にディアレント国籍をゲットしたコータは、ディアレント国保護対象としてこちらでの常識を学んだ。ある程度魔法も使えることが判明したので魔法も学んだ。

敵ではないと判断したカモノハシたちが王族に媚を売り、王族たちが「もっと増えたりしないかな…」と一言発したことで己の存在意義を見直すことにした。


見直した結果として、こちらでカモノハシを繁殖出来ないかを研究すべく、コータはコータ・プラティパス・エンドーという名前とディフュール大学教授としての地位を手に入れた。

ちなみにプラティパスは英語でカモノハシを意味する。


そして時は進み、コータはカモたろーとハシリーヌをいいカンジにくっつけることに成功。毒を操るオスカモノハシと翼の生えたメスカモノハシという異世界産カモノハシを繁殖させ、『カモノハシ保護地区』なる場所を、王族所有保養地を1つ潰して作り出した。

「カモノハシの楽園を見たくありませんか?」とコータが王様の耳元で囁いた結果である。


現在そのカモノハシ保護地区には100匹ほどのカモノハシたちが生息し、この可愛さを独占してはならないという謎の使命に駆られた王族により一般開放。ただし完全予約制。

更にコータの入れ知恵により、保護地区内にはカフェも併設。カモノハシモチーフのお土産屋も作られた。


まさに今、カモノハシの可愛さはディアレント国…いや国内外に知れ渡っているのだ。

例えその生態が、連れてきた異世界人コータでさえ全て分かっていなくとも。



「…ということで俺は3年以上かけてカモノハシたちの可愛さと謎さを売り込んで、ここにいるわけだ。分かったか?」

「なるほど、カモノハシはやはり謎が多い。俄然興味が出ましたわ。こちら、研究室配属希望書です。」

「ありがと、希望書は受け付けるよ。まあズー教授の推薦付きなら間違いなく採用だけどね。」

「それを聞いて少し安心出来ましたわ!よろしくお願いしましてよ、プラティパス教授!」


現在、ディフュール大学では学生が所属研究室を決める時期となっていた。

カモノハシはとても人気であるが、よく分かっていない生態が異世界に来たことで更によく分からなくなっている。ただ可愛いから研究したい〜などというちゃらんぽらんな理由で学生を研究室に入れては、カモノハシたちにいずれ危害が及ぶかもしれない。

まあオスは敵意を持った人間には毒をまき散らすし、メスはふわふわ飛んで逃げるのだが。


コータはしっかりとした研究を共にしてくれそうな学生を絶賛ピックアップ中なのである。目標は6人程度。それ以上は希望があればバイトとして採用する予定。

そして今、ほぼ入ることが確定しそうなのが目の前にいる貴族令嬢である。


「ところでミリエッタ・サーオウル伯爵令嬢。」

「ただのミリエッタで結構ですわ、プラティパス教授。ここでは学生に地位など関係ありませんもの。」

「よくぞ言った、ミリエッタ嬢。気取らない貴族は庶民からウケが良いよ。俺もこっちに来てから学んだけど…ってそれはどうでもいい。これから時間はあるか?」

「これからですか?帰ってお母様と明後日のお茶会の話し合いがありますが…。」

「そうか、残念だ。カモノハシの赤ちゃんが生まれそうだと連絡があってな。」

「プラティパス教授、お茶会などどうでもよろしいですわ。お供致します。どなたか、サーオウル伯爵家に伝言を。」


ミリエッタはあっさり予定を放棄した。

カモノハシのためならばサーオウル伯爵夫人は、いや貴族なら予定変更も辞さない。きっと娘を許す。割と本当に。

この数年でカモノハシとコータはすっかり貴族を翻弄する存在となっていた。


出かける準備をするから少し待つように言われたミリエッタはウキウキで応接室にて待機していたが、コータが入った教授室とは別の部屋からガサゴソと音が聞こえたことに気付いた。

『立ち入り禁止』と書かれた札のある扉の向こうにもしかして誰かいるのか、もしかしてカモノハシがいるのでは?と思ったミリエッタは扉を開けたくなる衝動をなんとか抑え、コータを待っていた。


「お待たせ、では行こうか。」

「あ、あの、プラティパス教授。あちらのお部屋には誰かいらっしゃるのですか?」

「へ?」

「物音が聞こえたものでして…。も、もしかしてカモノハシですの!?でしたら見てみたいですわ!」

「……あー、うん。でもあの子は今ちょっと療養中でね、誰とも会わせないようにしているんだ。悪いね。」

「あ、いえ。申し訳ありませんわ。」

「いやいや。だがこれからカモノハシがたくさんいるところに行くんだ、それで勘弁してね。」

「もちろんです!では参りましょう!」


この時、ミリエッタの記憶にあるサイズのカモノハシが立てる音にしては大きかったような気がしたが、カモノハシにいっぱい会えることに夢中になってすっかり忘れてしまった。

コータは立ち入り禁止部屋の施錠をしっかりと確かめ、防犯の魔法もかけ、ミリエッタと一緒に大学を出た。



カモノハシ保護地区はディフュール大学から歩いて30分、馬で10分のところにある。ブラックワンダー号だと5分で着く。

敷地は広く、コータが分かりやすく言うところのハウステン●スを超える広さだ。

ミリエッタのことを考えて、ブラックワンダー号でゆっくり走り到着したコータとミリエッタは関係者出入り口から入り、専用のツナギに着替える。ブラックワンダー号は馬房でおやつタイムである。


このツナギは庶民だろうが貴族だろうが関係なく、客も着替えることが義務付けられている。下手に外から何かの菌を持ち込んでしまったらカモノハシが全滅してしまうかもしれないぞ、とコータが脅し説得したおかげで反発はあまり起きていない。王族も着ているのだから、貴族で反発するやつはいない。


「はい、ここがカモノハシ保護地区だ。知ってるだろうけどね。」

「ええ!予約はなかなか取れませんが、時折来ています!これからは研究のためにいっぱい会いに来られますのね…!嬉しいですわ!」


ミリエッタはキラキラした目で地区内を眺めている。

まだカモノハシたちのいるゾーンではないが、一般客たちも庶民貴族関係なくワクワクした雰囲気で歩いていた。

コータはミリエッタを微笑ましげに見ながら、カモノハシ生息ゾーンへと連れていき、バックヤードへと入って行った。


「えー、あった。ここが赤ちゃん生まれそうなカモノハシを保護するベビールームね。」

「べ、ベビールーム…!ドキドキしますわ!」

「さて、あ、ルッさん!生まれた?」

「コータさん!まだ生まれてないっすよ!」


ベビールームから出てきた青年に気軽に声をかけたコータは、ついでにミリエッタを紹介する。


「ルッさん、彼女はミリエッタ・サーオウル伯爵令嬢。今度うちの研究室におそらく入るよ。」

「はー、貴族さんでしたか!どうも!」

「ミリエッタ嬢、彼はルーク・ルビール。ルッさんて俺は呼んでる、この保護地区が出来た当初からのベテラン職員だよ。」

「…えっあの、ルビールって…宰相様の…?」

「あー俺は宰相さんの愛人の子!庶子なんで!宰相さんは父親って感じじゃないっすね!なんでルークでもルッさんでも、好きなように!」

「で、ではルークさんと。これから研究室の一員となりますので私もミリエッタと気軽にお呼びくださいませ。」

「はい!ミリエッタさん、よろしく!」


にこやかにとんでもないことを言うルークのことはさておき、3人はベビールームへと入った。

中は温かく、柵で囲まれたベッドには一匹のカモノハシが寝ていた。その隣にはタマゴが置かれたクッションがある。時々動いているので、中に何かが入っていることは分かる。


「出来るだけ静かにね。」

「は、はい…。…卵生って…不思議ですわねぇ。」

「そうっすね。鳥でもないのに不思議っすよねぇ。」

「俺、向こうではカモノハシを専門に学んでたわけじゃねえからな。もっと勉強しとけば良かったよ。」


コータとミリエッタ、そしてルークが眺めていると、不意に揺れが激しくなった。それと同時にタマゴにヒビが入り始めた。

経験のないミリエッタには近くの椅子で待機を命じ、コータとルークは慌てて職員を集めて赤ちゃんの誕生に備えた。


そしてなんやかんやあること30分。新たなカモノハシがこの世界に誕生した。これで127匹目のカモノハシである。

職員たちは静かに安堵し、ミリエッタは泣きながら拍手で生命の誕生を祝っている。ルークは特別ということで地区内放送で一般客に拡声魔法で報告をし、一般客は新たなカモノハシを歓迎した。


かと言って今一般公開するのはさすがに早いので、今いる客には後日の赤ちゃんお披露目に確実参加出来るチケットを出口で配布。客は帰りのアンケートに満点をつけて帰ることとなった。

そう、アドベ●チャーワールドや●野動物園のパンダお披露目のようなものである。ただでさえ人気なカモノハシ、それが赤ちゃんなのでお披露目は毎回倍率がえぐいことになる抽選会が行われる。貴族も王族も庶民も老若男女も関係ない。本当に運任せの抽選である。現実は厳しいのだ。


「うっうっ…!この目でカモノハシの赤ちゃんを…しかも誕生の瞬間から見られるなんて!お母様にきちんとお話ししなくては!…あっお話ししても大丈夫です?」

「んー、別に話したところでその瞬間を見られるわけではないし。簡単にならいいよ。可愛かったーとか。」

「分かりました。ここぞとばかりに褒めちぎっておきます。お披露目のこともお話ししますわ!」

「うん。サーオウル家には悪いけど、見たければ抽選してもらうことになるよ。」

「ここぞとばかりに自慢しておきますわ!」

「良かったっすねぇミリエッタさん!産卵のとこから見れたらもっと良かったんすけど…。」

「生まれる瞬間を見られただけでもものすごく嬉しいですわよ!」


誕生してから数分、興奮するミリエッタと職員たちだったが、駆け込んできた知らせに興奮が収まることとなる。


「コータせんせ!コータ先生いますか!!」

「ん?どうしたの?カモノハシに何かあった?」

「いえ!いやカモノハシに関連はしますけど!あの!あっちに!」

「落ち着いて。」

「…ふう。ディフュール大に武力集団が押し入り、プラティパス教授の研究成果とカモノハシを寄越せと…人質も取られているそうです。」

「は?」


ベビールームは静まり返った。今までもカモノハシは可愛くて誘拐未遂にはあっていたが、王族を敵に回すような幼児でも分かることを実際にやらかした馬鹿はいなかった。と思っていたら大学の方に研究成果を狙いに来た馬鹿が現れたという。

コータとミリエッタは慌ててブラックワンダー号で大学へと引き返して行く。念のためにカモノハシたちのヒエラルキー頂点であり全てのカモノハシの始祖となっているカモたろーとハシリーヌも連れ、ミリエッタを後ろに乗せて鞭を打つ。2人とも急ぎなのでツナギのままだ。

そんなご主人のただならぬ様子にブラックワンダー号の脚も唸る。ドッスンドッスン走る地面はすごく掘り返されていた。


「研究成果なんてどうするんでしょう?!」

「分からん!もしかして保護地区だと警備がすごいから大学を狙ったのか…?とにかく今は急ぐ!ミリエッタさん、巻き込んで悪いな!」

「いえ!カモノハシの危機がもしれませんもの!あとミリエッタさんって親しげで良いですわね!今後もそれでお願い致しますわ!プラティパス教授!」

「ミリエッタさんがいいならそれで!」



ディフュール大学は兵士たちでいっぱいで、学内から避難してきた学生や教職員も校門前で溜まっていた。ブラックワンダー号をミリエッタに任せ、人だかりの中に一際偉い人物がいたので迷うことなく声をかける。


「学長!」

「おおコータ君!実は…。」

「人質取った押し入り強盗でしょ?聞いてます!」

「そうか、人質に関してはもう大丈夫だ。奴らはどうやら隣国の王族派貴族の生き残りらしいぞ。」

「王族派の?全員ディアレント国の兵士にボッコボコにされてディアレント大監獄にぶち込まれてるって聞きましたけど?!」

「そのはずなんだが、どうやら生死不明の者が数名いてな。そいつらが徒党を組んで傭兵も集め、カモノハシの毒を手に入れて我が国に一矢報いようとしているらしい。さっき人質を取りながら丁寧に話していた。」

「そんな…2時間サスペンスの終盤で誰も聞いてないのに勝手にペラペラ動機と過去を語る犯人みたいな…とにかく今奴らはどこに!?」

「君の研究室の近くでディアレント兵と交戦中だ…あっあそこ!」


学長が指を差した先にある窓から光が漏れている。魔法による交戦中のようだ。


「くっ…!我が大学の重要研究室の前であんなに戦うなんて!」

「一応研究室には結界と防護魔法と防犯魔法と反撃魔法を展開していますが…。」

「君、そんな改造してたの?」

「え、悪いですか?」

「次からは魔境行きの転送魔法も組み込んでおきなさい。」

「はい。」


学長ももれなくカモノハシ信者だった。


そんなやり取りをしていると、交戦中の階が少し静かになっていることに気付いた。

交戦中のディアレント兵が慌てて窓を開けようとしたり後退していく様子が見える。


「なんだ?何故下がっている?」

「あっ。」


敵集団が水魔法を発動した。水が出ていかないように窓と研究室にきちんと固定魔法をかけていたらしく、ディアレント兵たちは大量の水に流されて行った。

邪魔が一時的に無くなったことを確認した敵集団は研究室の方へ廊下の水中を泳いでいる。


「うわ、やりたい放題かよ。」

「むう…おのれ…!ディアレント国には海が無く水中戦が苦手と知ってるが故の攻撃か!」

「あ、そうなんだ。」

「これではこちらからも援護出来ないではないか!私たちも水は苦手だ!ろくに泳げる奴はおらん!」


周りの学生や教職員、ディアレント兵は歯痒そうに廊下に目を向けている。

戻ってきたミリエッタも心配そうに見つめていた。


「うーん。泳げる人は本当にいないんです?多少も泳げない?」

「田舎で川遊びをしていたぐらいしか…。」

「俺は全く無いな。」

「私は領地の湖で少しだけ泳ぎの練習をしていたことがありましてよ。でもバタ足が出来るぐらいですわ。」

「そうか…、うん?」


泳げない意見の中で1つ泳げる意見があったことに気付いたコータは真横を見た。

ミリエッタの発言であった。申し訳なさそうに手を上げている。そしてミリエッタは動きやすいツナギを着たままである。

コータは女性に荒事を強いないタイプの人間だったが、この時初めて荒事を強いることにした。



「本当に!?本当に行くんですの!?私少し泳げるだけですのよ!?」

「水を恐れずバタ足出来るなら上等だよ。防護魔法だけ自分にしっかりかけておいてね。」

「うえーん!」


数分後、ツナギを着たままの2人は研究室のある二階へ上がる階段に来ていた。流された兵士たちは撤退しており、敵も魔力節約のためか二階廊下のみ水没させているようだ。


「ええい!それでどうするんですの?!」

「静かに。」

「…それで、どうなさいますの?」

「うん。ミリエッタさんに質問するよ。カモノハシは本来どんな生物?」

「…水陸で生活出来る、くちばしのあり卵生であるけど私たちと同じ分類の生物、ですわ。」

「うん。多少毒のある程度の生物、だった。」

「ええ。こちらの世界へ来る時に独自の進化らしきものをして、オスは毒を自在に操り、メスは羽根が生え飛べるようになった。ですわね?」

「そう。召喚の影響でね。そこでだ。生物に召喚が影響を及ぼすなら、他にも変化の起きた生物がいるだろう?」

「え?カモノハシ以外に召喚されてき……た………、まさか…?」


コータはにこりと笑って、自分を指差した。


1年と少し前、ディアレント国で安定した暮らしが出来るようになって落ち着いたコータはある日考えた。

カモノハシに影響があったのなら、自分は大丈夫なのか?と。今更だが考えた。

考えて試行錯誤して、自分の中にある可能性を感じ取った結果、召喚された人間にも影響はあるということを知る。

もう異世界人を召喚する方法は無く、この能力が戦争に使われる危険は少ない。それでも、コータはこのことを誰に対しても秘密にすることにした。


そして今、その秘密は明かされることになる。


「カモたろーの能力を『毒使い』、ハシリーヌの能力を『低飛行』と仮に付けるとしたら、俺は…『召喚』の類になるんだろう。」

「召喚…。」

「召喚だと固いしすごそうに聞こえるなぁ。『動物園へようこそ』ぐらいにしておこうか。動物園で働いてたからかな?」

「急に親しみやすくなりましたわね。ということは、プラティパス教授は動物を自由に召喚出来る…?」

「いや、制約はもちろんある。『動物園へようこそ(小)』ぐらいだわ、すまん。」

「それで…その能力でどうなさいますの?」

「それはな、もにょもにょ。」


コータは作戦をミリエッタに伝え、速やかに行動に移った。


敵対する武力集団は『暁の幻影』という、夜明けなのに影なの?しかも幻なの?みたいな名の集団である。この国の誰にも伝えてないので別に覚えなくていい。

集団と書くのもアレなのでアカツキとでも呼ぶ。とても厨二病だが我慢して欲しい。


アカツキはカモノハシ研究室の防犯魔法などを解こうと水中で必死になって解読していた。コータが4桁ダイヤル式南京錠を元に作っているので、1万通りぐらい解除プランがある。頑張れ。


水中で見張りもいる中、アカツキの見張りの前に人影が現れた。すぐさま水中で攻撃魔法を放つが、人影は素早く泳いで攻撃を避けている。

苛立った見張りアカツキが範囲攻撃にしたところ、人影が増えた。その人影が前に飛び出すと、廊下に巨大な木の入り組んだ防壁が瞬時に現れ、攻撃はあっさりと防がれた。


「ふう、これで距離は詰められたな。」

「さすが教授ですわ!にしても…すごいですのね、このカワウソ、ビーバーという生物も!」

「正確にはコツメカワウソなんだが…コツメってサイズではなくなってるよなぁ?」


コータが召喚した小動物は、2匹のコツメカワウソとビーバーだった。

水中で自由に泳げるコツメカワウソは『遊泳』能力、水際で巣を作るビーバーは『砦作成』能力を持っていた。共に水中で活躍出来る、頼もしく可愛い生物である。


それだけでなく、召喚による影響は他にも出ていた。


異世界コツメカワウソは地球のコツメカワウソよりも大きくなっていた。毛並みは地球のと同じくすべすべである。何故か掴んだ人間ごとスイスイ動けるようになっている。何故か空気も吸える。何故だろう。


ビーバーは素材をえっちらおっちら集めてダム巣を作る生物であるはずだが、異世界ビーバーはゴソゴソと自分のしっぽ付近から明らかにサイズ感が伴わない木を出してはドンドン木製の防壁を作り出している。2メートルはある木をどこから出しているのか、コータにも分からない。


一気に近付いたことでアカツキ全員に存在がバレ、アカツキはコータとミリエッタを狙い始める。

ミリエッタが反撃しながらもビーバーの砦を盾にしつつ徐々に距離を詰めると、コータはもう一匹のビーバーをこっそり召喚し、窓へと送り出した。

カリカリカリと窓の枠を1つ分固定魔法ごと齧り尽くすと、その窓から水が排出されていった。

異世界ビーバーはたぶん消化も強い。レンガ部分を齧っても特に異変は無かった。


「うわぁーーーっ!」

「なんだ!何が起きた!?」

「窓だ!窓が我々の固定魔法ごと破壊されている!」

「くそっ!塞げ塞げ!」

「いやーっ!流されるぅー!」


アカツキが3人ほど流されていったところで破壊された窓に新しい結界が貼られ、廊下は膝上ほどの浸水と木の砦、そして数人の人間と生物だけになった。流されたアカツキたちは外にいた野次馬にボッコボコにされている。

すかさずビーバーに木の盾を作って貰ったコータとミリエッタは素早くアカツキたちに近付く。しかし相手も手練れの武装集団である。各自武器を手に応戦体勢に入った。


「ちっ!妙な生物連れてやがる!気をつけろ、何してくるか分からん!」

「頭領!男の方、コータ・エンドー・ブラトパンティだ!」

「ちげーよ!!コータ・プラティパス・エンドーだ!二度と間違えんなボケ!セクハラで訴えるぞ!」

「教授キレないでくださいまし。訂正してる場合ではありませんわよ。」

「コータ…?異世界人か!ますます何の生物か分からん!カモノハシですらよく分からんのに!」

「…それはそうだな。」

「頷いてる場合でもありませんのよ。」


細かな風の刃を飛ばしてくるアカツキに対し、コータとミリエッタは魔法で防御と反撃を繰り返す。ビーバーの盾は結構頑丈で壊れる気配がなかった。

ふとアカツキからの攻撃が止むと、頭領が叫ぶ。


「ふん!お前たちディアレント国は海が無いから水責めすれば何とでもなる。確かにそうナメていた。だがな!」

「むっ?」

「お前たちの国には!砂漠もなかろう!干上がれ水よ!食らえ砂地獄!!」


頭領が叫び終わると廊下の水が一瞬にして消え、その代わりとでもいうかのように砂が大量に廊下へ積もった。

まるで小さな砂漠のようになり、コツメカワウソは喜んでごろんごろんと砂風呂を楽しんでいる。ビーバーは砂を掬い上げてキョトンとしている。可愛い。


「あっ、可愛い!」

「いや言ってる場合ですの!?可愛いですけれども!」

「あ、可愛いな。…じゃなくて砂漠の再現だ!お前たちは砂漠も慣れぬだろう!」

「確かに…私も流石に砂漠は初めてですわ!砂浜も行ったことありませんのに!」

「更にだ!この砂は特殊でな!この砂がある場では魔法攻撃は通用しねえぞ!ふははは野郎共っ武器を取れ!相手はたかが武器も持たねぇ人間と水に強い生物だけだ!やれ!」

「「おう!」」


アカツキの手下たちが剣や棍棒を片手に砂地を蹴ってコータたちに襲いかかる。

流石に劣勢と見たミリエッタが思わず目を瞑った。そんなミリエッタを庇うように一歩前へ出たコータはツナギから連れてきていたカモたろーを出す。


「カモたろー。半殺しレベルの酸毒。」

「ぎゅ。」

「「ぎゃああああ!!」」


カモたろーが爪をちょいと振ると、分泌された毒が手下たちに数滴ずつかかり、ジュッと嫌な音と共に手下たちが砂に崩れ落ちる。

すかさずビーバーたちがいつの間にか編んでいた縄を渡されたミリエッタが手下を縛り上げ、コータは砂を蹴って残りのアカツキの元へ一気に駆け出す。


コータは元甲子園球児。鬼コーチによる砂浜ランニングも経験していた。あと鳥取砂丘も何度か行ったことがあった。


「ちっ!来てどうなるってんだ!毒を封じれば良い話だ!」

「それはどうかな?…召喚!スナネコ!」

「は?!まだ生物を出すって…のか…?」


コータの足元にはちょこんと黄色いネコが座っていた。とても可愛い。ふわふわしてる。


「そんな可愛いネコに何が出来るってんだ!」

「頭領!俺は斬るの無理っす!可愛すぎるダメ!」

「俺もだ!実家のネコに似てる!」

「あ!?お前ら…!」

「今だ!」

「ふにゃ!」


スナネコがプリティボイスで鳴くと、砂をかける仕草をした。可愛い。

その瞬間、アカツキの面々の両端にあった砂が全て波のようにアカツキへと襲いかかった。

生き埋めって怖いよね。


お分かりだろうが、本来のスナネコにそんな能力は無い。本来は砂漠で一生懸命生きれるぐらいのスナネコは、異世界スナネコになった途端に『砂遊び』の能力をゲットした。

今も生き埋めにした砂の山をうねうね動かして遊んでいる。可愛い。やってることは可愛くない。

そんな生き埋めになった砂の山から頭領だけが何とか出てきた。


「ぶはっ…!何故だ、この砂は魔法を通さないはず!」

「どうやら異世界からやってきたやつの能力は魔法とは少し違うみたいだな。ラノベでいうスキルってやつかな?ギフトってやつかな?」

「チッ、まだだ!研究室の解呪班には高度な結界を仕掛けている!防音加工だ!あいつらは遺跡の盗掘のプロだ、集中しちまえばお前のような異世界人の仕掛けた魔法なぞ…!」

「盗掘のプロなんだ。」

「まあその分戦闘力は無いが、ここで俺がお前たちを返り討ちにしちまえば………あ?」

「どうした?」

「…あの女のガキはどこだ!?」


頭領は目の前にコータしかいないことに気付いた。

慌てて後ろの研究室に振り向こうとした頭領に、コータはカモノハシを突き付ける。


「動くな!こいつであんたがどうなってもいいのか?」

「きゅっ!」

「くっ…カモノハシの毒か!厄介なんだよな…毒の効果を操れるってのはよ!」

「そうだなぁ。厄介だねぇ。ところで盗掘くんは結界の中で集中してるんだっけ?」

「あ?それがどうした?」

「カモノハシの毒って、魔法を溶かす毒も分泌出来るし音も無く後ろから麻痺毒を垂らすことも出来るんだ。いやー隠密向きだよな、怖い怖い。」

「…まさか!」

「ちなみに…カモノハシに毒があるのはオスだけなんだ。俺の持つこのカモノハシは、メスのハシリーヌだ。」

「きゅわ。」


突き付けられて威嚇のポーズをしていたハシリーヌは目の前でパタパタと浮いてみせる。ふよふよ浮くカモノハシを見て呆気にとられた頭領は今度こそ後ろを振り返る。

ちょうど、ミリエッタが構えたカモたろーの毒で解呪役の盗掘男が倒れるところであった。


「くそっ!こうなりゃ俺だけでも逃げ…っ!」

「スナネコ。ここ掘れにゃんにゃん。」

「ふにゃん。」

「ぇあっ?」


逃げようとした頭領の足元が崩れ、頭領は1階へと砂と共に落ちて行った。落ちた先では駆け付けたディアレント兵と野次馬が頭領をふん縛ってボッコボコにしていた。

そんな様子を見てから、2階の廊下にスナネコが廊下を丸く掘って砂に変えた落とし穴を見て、コータは呟く。


「これ、不可抗力で学長に通るかな?」

「全てあの武力集団のせいにしてしまえばよろしいのではなくて?」

「そうだな。…学長ー!廊下の被害は全部こいつらのせいでーす!!」


コータは窓を開けてそう叫ぶ。見ていた学長にはほぼ全てを知られているが、学長は笑顔でサムズアップした。

これにて、ディフュール大学襲撃事件は一応幕を閉じた。


気絶している残りのアカツキ手下たちを穴にぽいぽい放り込み、砂を掻き分けたコータとミリエッタ、そしてコツメカワウソにビーバーにスナネコは研究室を一応確認することとなった。


「でも被害が出なくて良かったですわ!もし研究成果を奪われることがあれば、奥にいるカモノハシを拉致して悪用されたかもしれませんもの。」

「え?奥?」

「プラティパス教授、保護区に行く前に仰っていたではありませんか!体調の崩したカモノハシがいるって。もしかしたら拉致られていたのかもしれませんわよ?!」

「…あぁー。うん、えっとね、ごめん。」

「はい?」

「ミリエッタさんには謝らなきゃね。それね、実は嘘なんだ。」

「…はい?」


カチャカチャと魔法を解除しながらコータはさらっと謝る。


「ほら、さっきまで俺の能力隠してたでしょ?あれには続きがあってね。なんで俺の能力が『小動物のみの召喚』だったか、分かる?」

「え?えーと、ん?」

「とりあえず試したんだよ。この世界の子供たちだって、初めて魔法使えるってなったらとりあえず使ってみるだろ?」

「それはそうですわね。私も魔法を自分自身でようやく使えるとなってはしゃぎましたもの。」

「そう、それ。召喚してみたんだ。」

「ええ。」

「そしたら、その、なんというか………帰せないことが分かってね。」

「え?」

「カモノハシ、カモたろーとハシリーヌは隣国によって連れられてきたから帰れないと思ってたけど、まさか俺が召喚しても帰せないと思ってなくてねぇ。」

「…まさか、奥にいるのって…。」

「カモノハシではないよ。ビーバーやカワウソでもない。」


喋りながらも研究室の防犯一式をぴこぴこ解除していたコータは作業を終え、ガチャリと扉を開けた。

開いた扉からトットットッと足音のような音が聞こえ、コータはそれに気付く。


「あー、騒がしかったから出て来ちゃったのか。もう大丈夫だからな。ごめんなー。」

「ぴぃー。」

「ぷ、ラティパス教授…!そそそその子は…?!!」


ミリエッタがガクガク震えながら指を指す。その震えは恐怖などによるものではなさそうで、コータは苦笑いしながら答えた。


「これは、カピバラ。喚べる動物の中で一番大きな生物だよ。」

「ぴばー!」

「カピッ、カピバラ…さん…!!!」


ミリエッタはカモたろーを抱えながらもふらふらとカピバラに近付き、兵たちが駆け付けるまでひたすらもしゃもしゃもさもさと撫で続けていた。



大学襲撃事件の数日後、コータは事件について詳しく聞くためにと王城へ呼ばれたので出かけていた。

今は、この国に来てからお世話になっている宰相に能力を隠していたことをぷんすか怒られているところである。


「何故他にも召喚出来ると教えてくれなかったんですか!情報の共有は大事でしょう!」

「だって…カモノハシだけでめちゃくちゃ気に入ってくれる世界なんだもん。他のも絶対気に入ると思って…。」

「それはそうでしょうけれども……ん?気に入ってはならんのですか?」

「んなことないよ。ただ…うん。ほら。」


窓の外にある庭園を見ると、この国で一番偉い国王がデレデレしながらカピバラの赤ちゃんを新しく作らせた温泉へと入れている。王女や王子もニコニコとしてリンゴをあげたり、満足そうである。

王妃は膝にモモンガを乗せて、一心不乱にナデナデして、友達でありリス派である公爵夫人と異世界生物について熱心に話していた。


一方、反対側にある窓の外からは兵士たちの声が響いていた。


「カモノハシ様こそ正義!カワイイの象徴だ!お前らそれを忘れたか!!」

「いーやコツメカワウソ!カワウソ様こそがカワイイ!見ろあの噴水の中を流れていく様を!カワイイだろうが!」

「ビーバー様はまさにストレス社会の砦!カワイイ上に防御も強い!」

「カピバラ様!カピバラ様は何をしなくともカワイイぞ!風呂が好きだと聞いたから今度うちの隊長の領地にある温泉にだな!」


実に激しく、熱心で、醜い争いである。争ってはないが争っている。


それらを視認した宰相に、カモノハシを肩に乗せたコータは一言告げる。


「推しは、戦争の火種になるから。」

「………あー…なるほど。」


宰相は膝に抱えたスナネコの顎下をずっと掻いてやりながら、神妙に頷いたのであった。



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