名も無い男の慕情
この夢が早く冷めればいいと 何度も願った
これが夢であれと毎夜願い 静かに目を閉じた
それでも夢が覚めることは無く 朝を迎えては現実を思い知らされる
目の前で 寒いと身を縮こまらせる彼女を抱きしめ あたためることもできないまま
その背を優しくさすることしか出来ない
もういい もう無理はしなくていい
だいじょうぶ だいじょうぶだから
口癖のように何度も彼女に語り掛ける俺の言葉は 彼女に届いているのだろうか
「蛍が飛んでる」ささやく彼女の目は 微かに開き笑みを浮かべている
雪が舞い始めた障子越しに見えるそれは 彼女にとって蛍に見えるのかもしれない
「雪が降る寒い日に産まれたから うちの名はユキなんだ」と話していた
「ユキ」と名を呼べば、顔を向け笑ってくれる
ユキ 一緒に帰ろう おまえの故郷に
春になったら連れて行くよ 案内してくれ
そして もう一度見たいと言っていた蛍を見よう
この雪のように 白く 美しいその光を もう一度君に見せてあげたい
もう いいよ
ゆっくりお休み
どうか 俺の腕の中で眠っておくれ
ユキ
雪のように 蛍のように
君は綺麗で美しい
ユキ 待っていてくれ
花粉症もそろそろ、そろそろ落ち着いてきたかなと思いつつ、リハビリを兼ねてあげてみました。
書き始めた次回作での登場人物の想いです。
彼のこのシーンは最後の最後、ラスト間近になる予定です。
できれば読んでいただきたいところではありますが、読み手を選ぶ作品になると思いますので、無理をせずに少しだけでもかじり読みでもしていただければ嬉しいです。
お読みいただき、ありがとうございました。