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宇宙編




『キーーウィィーテーーーッック!!!

 日本の猫型ロボットは賢すぎる!?!

 事実83.5%のユーザーが便利すぎると答えました!

 今ならプラン料金半額キャンペーン実施中!

 しかも!一年無料!!

 チャンスは今だけ!!』


「フン…騒がしいCMになったもんだな」

鍵谷はディスプレイに映る広告を見てほくそ笑む。


社用の宇宙船内の壁は約8割が液晶のような新素材で出来ており、

何か高級感のある内装を映したり、外の宇宙を透過したりとカメレオンのような変化をする。

エンジン出力は反重力装置によって衛星の軌道を拾いながら航海するため、

惑星の船は楕円形に近い形になっている。


御前様ごぜんさま、いわゆる企業の絶対的トップの鍵谷は、来たる『重大な会議』のため、

終始落ち着かない様子だ。


「今何時だ。山本やまもと


「11時32分です。もうすぐ会議ですね。」

黒淵とは違い、鍵谷のバディは人間だった。


猫型ロボットを作る会社の幹部社員には優秀なロボットがいるのに、

そのトップ層には赤々とした血が通っているのだ。


「各経営陣のメンツは揃ってきているのか」


「はい、衛星事業に関わっていない地上の者は

 リモートとなっています。

 関連会社含め、全員で24名です。」


「そうか、楽しみだ。ソフト社の黒淵は来ているな?」


「はい、黒淵様は先ほど到着しました。」

何かと目をかけている黒淵は強制参加とのことだった。

最終調整が済んでおらず、前乗りではなく宇宙船に当日参加である。


  ―11時46分―


大会議室には13人座れる椅子と円形の机があった。

直径10メートルほどの円柱型の空間だ。

外の宇宙空間がそのまま壁面に映し出されているが、

ここまでバーチャルな部屋だと不気味さすら覚える。


パッと画面が変わり、オンライン参加者は周りを円形に囲む壁面に後部席として表示された。

複数の会議は、猫型CDDではなくディスプレイ壁を通して行われる。

猫型CDD経由だと、複数人でオンライン通話ができないのが玉にキズだ。


11時50分を超えた頃、会議室に人や猫がわらわらと入ってくる。

皆、浮かれない面持ちである。キウイテック社の役員がほとんどであるが、

天才メカニカルデザイナーのショート博士など滅多にお目にかかれない社長直属の人間もいた。


24人の参加者のうち、人間は15人 猫は9匹だ。

キウイ社にはもはや種族の垣根はなかった。

人間に肌の色違いがあるように、9匹の猫たちも青黒 茶 白黒モノトーン 赤白黒など様々な

種類が入り乱れている。


正午になり、鍵谷と山本の2人が入ってきた。

皆が立ち上がって挨拶をした後、すぐに着席した。

しん、と静まり返る。


話し始めたのは社長秘書の山本だ。

「では、定刻になりました。会議を始めます。

 本日は社の方針を決める大事な会議です。

 社長、お願い致します。」


「集まってもらったのはほかでもない。」

「結論から言うと、CDDを最終フェーズへと移行する。」

どよめきが聞こえる中、ショート博士は不敵に笑みを浮かべる。


「今まで行ってきたCDDのレンタルサービス事業は準備段階であり、

 これから最終フェーズとなる。

 アジア圏を始めとし、今まで世界中に普及をしてきた猫型デバイスであるが、

 ある程度のユーザーデータが確保できたと言える。

 人類は、隠してはいるが、娯楽の掘り出しや自分探しに夢中になり、

 コミュニケーション不足は加速するばかり!

 もはや猫がその借り主に成り代わったところで周り人間は興味がないのだ。

 その借主の思考、指紋、ポテンシャル、全てをコピーできているのだから!」

 演説のような口調で鍵谷は話し続ける。


「互いのコミュニケーション不足で借主達の生存は連鎖的にうやむやになっていく!

 これを『シュレディンガー計画プロジェクト』と名付けることとする!

 皆、ご苦労だった。ここにいる人間達も今後はCDDにデータコピーしてもらうことになる。

 もちろん、この私もな!」


専務取締役の名護なごはひどく動揺していた。

今まで社外秘の事項をいくつも隠蔽工作してきた役員ですら、

プロジェクトを聞いていなかったのだ。


「社長、それはあまりにも倫理に反しています!

 そもそも衛星電波法に抵触しているかと。」

グループ会社 機映の三家《サン=グー》が忠言する。

中国語で話しているものの、AI翻訳で世界の誰でも解読できるようになっている。

バベルの塔も時間をかければ建立するのだ。


「先述した連鎖のスピードは、シミュレーションの結果驚異的なものとなった。

 通信を旧時代のP2Pモードに切り替え、人類のDNAを一つなぎにしていくのに

 かかる時間は2時間程度だ。大枠の準備は出来ているからな。」


「その後、データを回収された国民はどうなるのでしょうか…!?」

経営管理部経営企画室室長の錆田さびただ。


「最後はこのマザーコンピューターシップ『KEY』へと集約する。

 最終アップデートと計画履行は明日正午とする。

 そしてこの重要な移行作業は君に任せたい!」

鍵谷はモノトーンの猫を指差した。


「社長、私が今行っているP2Pの案件はこういうことだったのですね…

 私は出来ません!こんなテロ行為のようなことは!」

黒淵修二は製造されて以降、初めて反発した。


「なるほど…君は古参社員が故、大きな精神的成長を遂げたようだ。

 また新しいパッチが必要だな…。もういい。」


側近の山本が何やら手持ちの液晶タブレットを操作すると、

黒淵は機能を停止し、隣席のサバトの右目がアンバーに変わる。

緑とアンバーのオッドアイになった。


「では、サバト、宜しく頼んだ。」


「承知致しました。」

社長業の引継ぎが光速で完了したグレーのトラ猫は、

いつも通り凛とした表情で答えた。


「以上で連絡事項は終わりである。

 質問は何かあるか?」


人間として最後の日が決定してしまった、

イギリス支社のフォールズが後席から手を挙げた。

「どうして人類を『KEY』に集約するのでしょうか?

 宇宙で新しい事業を始めるのでしょうか?」


「地球がある程度の発展を遂げ、

 持続的な共生思想が一周してしまったからだ。

 大気圏外のスペースデブリも飽和状態。

 もはやこの星に発展はない。私が責任をもって人類の保存、発展を担っていく。

 もしかすると猫だけの惑星を作ることになるかもな!ハハハハ」


もはや誰も話す気など起こらなかった。

解散後、人間である15人は地球のために何かができる

最後の救世主となったのだが、黒淵のような報復を恐れて、

何かをする気力が出ない。


名護専務含む宇宙船に残った者は、残り少ない時間の過ごし方を考えた。

気晴らしに外を眺めても、運河のようにスペースデブリが漂うばかり。

肩を落として終末を待つほかなかった。


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