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望郷編




「ただいま、アグ、元気してたか」


「おかえりなさい、ryo様

 マスコミ研究会での活動後、アルバイトはいかがでしたか?」

猫が返す刀で小粋な冗談を挟む


「おーい。聞いてたのか。勝手に盗み聞きしやがってよ~」


「失礼しました。録画データを先ほどいただいたもので。」

このモードは半年前に搭載されたアップデートだ。

かなりの大型アップデートであり、CDDに視界のアーカイブを許可すれば誰でも使用可能となる。

これを使用すれば、トラブル時に会話の録音が証拠として出せるようになり、

世界中で犯罪率が半減したという話を聞くが、真相は定かでない。


「たまには大学の友人を見せて、若者の流行を学習してもらおうと思ってな!」

CDDは生活のデータをもとにAI学習し、さらに興味の出そうなものを提案できる。

今好きな物の一手・二手先まで読んでくれるのだ。


「永山大学は、校舎ごとに特色が分かれていて素晴らしい景観ですね。

 同世代のファッションも流行を追っていると見受けられます。」


「ほー、そうなのか。あんまり興味持ったことがないな…」

 ところで、例のドキュメンタリー見せてよ」


「承知しました。ですが、ryo様のお母様からの不在着信があります。

 見る前に折り返しされてはいかがでしょう?」


「母さんか…いつもは鬱陶しいけどたまにはすぐ折り返すのもいいか。

 人とまともに話してないからな、最近。じゃあ頼む。」


「承知しました。」

アグの目が青白くボーっと光る。この設定はどうにかならないものか。

10秒ほどして人間のような表情筋の動きで猫が話し始めた。


「亮太郎、私よ、わたし。」


「母さん、久しぶり、どしたの?」


「あんた大丈夫なの?最近。物騒な事件が多いわよ。特にネット犯罪!

 脳波をハッキングされて情報取られたり…やだねぇ。

 あんた、もしかして、これも猫のアレから発信してるんじゃないでしょうね。」


「大丈夫だって母さん。安物のデバイスじゃなくて

 ちゃんとキウイテック製のだから安心して。」


「そうなの?私はあそこもなんか怪しいって思ってるわ。最近いい噂聞かないし…

 母さん騙したら大したもんよってね!

 ところで亮太郎、銀行口座に仕送り送るから暗証番号教えなさいよ。

 あと、印鑑証明のデータもスキャンしといてね。指紋も忘れずに。あ、あとね、」


突然、猫の目に暗い緑色の影がフッとかかったように見えた。

亮太郎は立ち眩みのような感覚になった。


「ウ、うゥ…母さん、なんで暗証番号がいるんだよ。振込みってそんな大変だっけか…」


「あと隣人のお名前は東谷さんよね。今度お土産でも送るわね。

 お友達の角山くんにもどうかしら。あとは吉塚先生や廃品回収でよく家の前を通る斉藤さん、

 犬の散歩を良くしてる裏の福井さんとかね。」


「え、あの人そんな名前だったんだ…って なんでそんなこと知ってるんだよ!

 おい、お前、母さんじゃないだろ!福井さんって誰なんだ!

 アグ、どうにかしろ!!」


愛猫は微動だにする様子はない。


「亮太郎!あなた聞いてるの!ねえ。

 さっきから支離滅裂なこと言ってるわよ?」


「ほ…本当に母さんなのか?」

ようやく意識が戻ってきた気がする


「そう。私よ、さっきから電話してるじゃない。

 かなり疲れてるのね。もう寝た方がいいわ。じゃあ元気でね。たまには帰ってきなさい」

母親も気味悪がって逃げるように電話を切ってしまった。


「確かに…今日はなんか調子がおかしい…

 アグ!故障してるのか?」


「ryo様、ひどく憔悴しておられますね。

 パルスオキシメーターが乱れております。

 休まれた方がいいのでは?」


「そうだな…風呂でも入るかな。」


「頂き物の柚子でも入れてはいかがでしょう。」

アグはロフトベッドのはしごに飛び移った。


いつもより、やけに野良の猫らしく見えた。


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